㊙︎彼女の作り方

まるべー

第1話


放課後、校舎裏。そこでは、一世一代の大告白が行われていた。


「好きです。俺と、付き合ってください!」


思いがこもった真剣な言葉は、相手に受け入れてもらおうと、その場にしっかりと響き渡る。


少しして、少女が口を開いた。


「えっと、その、ごめんなさい。道くんはいい人だとは思うんだけど……」


しかし、その気持ちは相手には届かなかったらしい。「恋人としては見られないかな。ごめんね、」といい、去っていく女の子。





「くっ!」


ドサリ、と膝をつく。


苦節一年半。高校に入ってから『彼女を作る』ということを目標に頑張ってきた俺——中上道なかがみとおるは、不可思議なことに彼女ができずにいた。


20戦中20敗。つまりは、20回告白して20回振られたということである。


「おかしい。何が原因だ?」


しっかり外見にも気を遣って不快に思われないように振る舞ったし、楽しい会話ができるように心がけていたはずだ。


「何が足りない?」


インターネットでも情報収集を欠かさずに行い、ネットリテラシーに基づいた情報の取捨選択をして実践してきた。


「いったい俺の、何が足りないというんだ……」


今までに振られた女の子もそうだった。毎回、「いい人なんだけどね」とか、「楽しくはあるんだけど……」とか言って謎に振ってくる。


「俺はこのまま、童貞で終わる定めだとでもいうのか……」


そんな悲しいことを考えているうちに、いつのまにか家へとついていたらしい。


玄関を開け、カバンを置くと、「ナーゴ」といって近寄ってくる猫の姿。


「お前はかわいいな」


愛猫——マーガレットに手を差し出すと、すりすりと擦り寄ってくる。かと思いきや、急に噛みついてくるから油断も隙もないが。


「ホント、お前は何を考えているのやら」

 

ゴロゴロと喉を鳴らしながら、なすがままのマーガレット。この前買った、『猫の気持ち丸わかりんご』とかいう商品は、不良品だったし。

 

いつ使っても、「オデ、お腹空いた」しか言わないのである。500円をドブに捨てたみたいなもんだった。


「—————っえ」


ふと、俺はそこでひらめいた。


なぜ今まで俺が振られ続けたのか。

俺に足りない部分はなんなのか。

そして、どうすれば彼女ができるのか。


それらを全て、完璧に理解した。



「———気持ちだ。俺は、彼女たちの気持ちを理解してこようとしなかったんだ」


今までは、調べた理想をできる限り自分にインプットしてきた。しかし、言ってしまえばそれだけである。


致命的に女の子の気持ちを理解してこなかったのだ。


しかし、俺はその気持ちを理解する方法を、既に導き出していた。


ガサゴソと引き出しを漁り、随分とホコリの被った古い段ボール箱を取り出す。


そう、その方法とは——


「———俺自身が、女の子となることだ。」



ーー🧻💦🚽🚰ーー



十数年前、俺が生まれるか生まれないかの時代、フルダイブ型VR技術が完成された。


瞬く間に話題を呼び、社会現象にまでなったVR技術は、世界に新たな時代をもたらした。


医療や科学、商業にも幅広く活用されたその技術。それが、ゲームにも適用されないはずがなかった。


民間用バーチャルヘッドギアがゲームとして発売されて以来、多くのプレイヤーがその虜となった。


そして俺は今日、久しぶりにその世界へと足を踏み入れる。


ブオン、と音が鳴り、ヘッドギアに充電マークがつく。誕生日プレゼントとして親にもらったもの。


5年ほどは使っていなかったこれを、もう一度使うことになるとは思わなかったが、これもまた彼女を作るため。


即座にダイブし、『ボイスチェンジャーアタッチメントアプリ』、『カメラアタッチメントアプリ』、『アバターアタッチメントアプリ』とその他諸々を購入していく。


計12万。俺の貯金が全て吹き飛んだが仕方ない。これも全て彼女を作るためだ。


そして一時間後。俺は、完璧な女の子のアバターを作り上げていた。


「よし、あとは名前だな」


どうせなら、女の子らしい名前をつけたいところである。というか、つけなければいけない。彼女を作るために。


「女の子っぽい名前……。よし、決めた。清水雫しみずしずくにしよう」


清い水の雫。うむ、実に女の子っぽい。


可愛らしいアバターに名前。満足のいく仕上がりとなったため、俺は唯一入っていたアプリへとログインをする。


全ては、女の子の気持ちを理解するために————ひいては、彼女を作るために。



ーー🚽💦🧻🚰ーー



さて、ただ女の子のアバターを使っただけではもちろん、気持ちを理解するなんてことはできっこない。


そこで俺は—————




「むー、やっぱり難しいですね。どうしても勝てません……」




————配信をしていた。


言い換えると、監視者をつけていた。視聴者に女の子だと認められれば、それはもう女の子の気持ちを理解したと言っても過言ではないだろう。


まあ、常時視聴者数は2〜3だし、コメントなんて一つもないから今の俺が女の子できてるか分からないが。


「なんで私の方が先に撃ってるのに、負けちゃうんですかね」


そして、そんな俺がやっていたゲームはFPSだった。しかし、5年のブランクというのは凄まじく、1キルもできずにいた。


いやホントにおかしくないか?なんで奇襲しかけたのにこっちが蜂の巣になってんの??納得いかないんだが???


いや、俺が下手すぎるというのは分かっているんだが。


次で22戦目。時間で表すとおよそ5時間。そろそろ時間的にも終わりにして、寝ないとヤバい。


「じゃあ、次で終わりにしたいと思います。次は勝てるといいなぁ」


割とマジで思いながら迎える22戦目。ヘリから滑空して町に降り、物資を漁る。


そして、よりよい物資を求めて走り出した俺は————



「あっ、やぁ、ダメだよ。タツヒコくん」



—————音を立てずにバックステップで華麗に物陰へと隠れた。


ちらり。物陰に隠れて様子を伺う。するとそこでは、2人の男女が乳繰りあっていた。


待て。ゲーム中だぞ、他のプレイヤーがいるだろう!?


しかもこのマッチソロ用だぞ。なぜチーミングしてまでいちゃつきやがる!?


見せつけてんのか!?相手がいない俺に!!見せつけてんのか!?


「リア充許すまじ……!!」


よろしいならば戦争だ。リア充ぶっころの精神に基づいて、この俺が鉄槌を下してやろう。


先ほど拾ったアサルトライフルのスコープを覗き、レティクルを男に合わせる。男は女に覆い被さっていて、まだこちらに気づかない。


フッ、と笑い引き金を引いた。


「アデュー」


直後、ダダダダ、と銃声が男を襲う。一発、二発、と命中していく弾に即座に反応した男はしかし、もう遅い。撃破エフェクトを残してフィールドから消え去った。


「え?え?タッちゃん??」


残りは狼狽する女1人。俺は、弾のなくなったアサルトライフルを投げ捨て、ハンドガンを手にし距離を詰める。


「っ!?ア、アンタがタッちゃんを!よくも!!」


すぐに気づいた女はサブマシンガンを召喚し、こちらにエイムを合わせてくる。


————サブマシンガン。連射力に優れているが、1発の威力は低い武器だ。


ならば、と俺はそのまま突っ込んでいく。銃口の向きを確認し、射線に入らないように走り抜ける。


そして、距離が5メートルを切ったその時————


「リア充爆発しろ」


————俺のハンドガンが火を吹いた。


全弾ヘッドショッド。きっと女は、何が起こったのかすらわからないままロビーに帰ったことだろう。


「ふぅ、悪は滅びた」


そしてその後俺は、その勢いのままそのマッチを無双……することはなく、普通に68位という絶妙な順位で終わった。




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ワンポイント


ーー🚽💦🧻🚰ーー

これはただの場面転換だよ。出した尿を飲んでるわけじゃないよ。




質問、誤字脱字あったら報告お願いします!!!!!



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