不機嫌
「そっかぁ。詩乃ちゃんって映画とか好きなんだぁ」
「う、うん。私はよく、ヒューマンドラマとか見てるよ」
放課後、私は詩乃ちゃんとお喋りしていた。今となっては随分詩乃ちゃんとも打ち解けた感じになれている。
「特によく見るのは家族もののドラマかな? 最初は家族同士がギスギスしてていがみ合ってる感じなんだけど、家族同士が徐々に障害を乗り越えて、ラストは和解しあって本当の家族になる、みたいな。私はそういう脚本の映画を見ると、けっこう泣いちゃったりするんだ」
「ふ~ん……そうなんだ」
饒舌に生き生きと詩乃ちゃんは語る。どうやら自分の好きな話題になると、結構お喋りになることがここ数日でわかった。
「そういうので感動するってことは、やっぱり詩乃ちゃんが書く詩にも影響受けてるのかな? あ~あ、やっぱり詩乃ちゃんの詩を見てみたいなぁ」
私は半分ダメ元で言ってみる。
案の定、詩乃ちゃんは顔を俯けて押し黙ってしまった。
けれどしばらくして、詩乃ちゃんはふと顔を上げる。
「じゃ、じゃあちょっとだけ見てみる?」
「えっ!? いいの!?」
「う、うん。見せられるやつなら、多分……」
予想外の答えに私は目を丸くする。
詩乃ちゃんはもじもじしながらも、机に置いてあったノートを開こうとした。
「お~い、高見戸さ~ん!!」
けれどその時、教室の扉から声が響いた。
振り返ってみると、クラスメイトの香取さんが出入口の前で手を振っている。
彼女はスタスタと私たちの元へと近づいてきた。
「実行委員の先輩たちが呼んでるよ。緊急の打ち合せがあるからすぐ来てって」
「……あっ、うんわかった。ありがとう」
私は香取さんに笑顔を向けてお礼を言う。
香取さんはそのまま私たちの元から去っていった。
「ごめん詩乃ちゃん! 今日は何か忙しいみたいだから。詩を見せてくれるのはまた今度でいい?」
「……もう見せないよ」
「えっ!?」
詩乃ちゃんは突然不機嫌な顔をして、乱暴な仕草でノートを鞄にしまう。
そのまま自分の席から立った。
「し、詩乃ちゃん?」
「……文化祭の仕事、行けばいいじゃん。高見戸さんにとっては私の話より大切なことなんでしょ?」
そう言い残すと詩乃ちゃんは足早に教室から出ていく。
私は訳もわからず呆然と立っていた。
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