病院の待ち時間で書く日記(仮)
染井雪乃
2024/09/14 クリニック
電子のお薬手帳を書き写す苦行に苦笑いしかない。こういうときにサクッと共有できないなら電子の意味はないんじゃないか。
初めてのクリニックだが、エレベーターを降りた瞬間にスマホに向かってかなりヒートアップしている人がいて、本日の新鮮な驚き。
病院で日記なんぞ書き始めたのは、べらぼうに長い待ち時間でどれだけ書けるかやってみたかったのと、文学フリマで出会ったエッセイ本『献血実況』の影響を多大に受けている。僕は献血ができなくなってしまったが、病院には飽きるほど通う運命なので、もしかしたらこの方がエッセイが続きやすいのかもしれないと思った次第。
土曜の昼前にギリギリでクリニックに駆けこむのは正直やりたくなかったが仕方ない。二度寝してしまった。
病院の話題はこれくらいにして、何かおもしろいこと書いてみよう。
今や通でなければ楽しみきれないと言われ、チケット価格も上昇し続ける某ディズニーランドの話をしよう。インドアで仕事もリモート中心、外出は書店、病院、たまの出勤と決まりきっている僕も、小さい頃は親に連れられてディズニーランドに数回訪れていた。友人には「意外」と驚かれたが、僕もそう思う。
そして、高校生のときの修学旅行で、グループ行動のときに行ったのが最後のディズニーになる。ディズニーは最大人数4人までで楽しむレジャーだと思う。6人とか7人とか、そんな大人数で行くといろいろ面倒くさい。というか、病弱な僕がいたり、絶叫が苦手な人がいたりで、グループの分散が不可能という意味わからん規則のため、皆十分に楽しみきれなかったんじゃないか。修学旅行で訪れたところは、大人になって自分で行った方が楽しいの法則。
大人になったからといって、ソロディズニーを計画するほどの気力も元気もないのが僕なのだが。でも冬や夜のディズニーはちょっと楽しそうだし、僕には無理がない気がする。ディズニーのごはんもアトラクションも一つひとつは楽しいのだが、体力がもたない。
病弱の割に自分しか頼りにならんと考えているところが僕の病者としての異端さだ。僕としてはおもしろい現象でしかないが、時折かなり驚かれて、どう返したらいいのかわからなくなる。
書きたいことが尽きて、一瞬止まる。いや、正確には書きにくいことに突入しかけて躊躇った。
僕は型にはまらないコミュニケーションが大の苦手だ。それこそ、Twitterのスペースやリプライでの会話みたいなもの。なのに、好奇心でふらふらと聞きに行っては話題次第でスピーカーに上がって、何かうまくいかなくて縁を失ったり苦言を呈されたりしている。
対面のそれも苦手だが、対面だと相手にも僕の様子が伝わるから気遣ってもらえてトラブルを回避できているようだ。
先日もそんなことがあって、苦言を呈され始めた瞬間に、「あっブロックするならその先は聞きたくないです」が喉元まで出かかった。そうじゃなくて、今後もやっていくための苦言だった。記憶にあるなかでは初めてのことで、僕は本気でリアクションに困り、言葉がうまく出なかった。
僕は仲直りとか修復とかと無縁に生きてきた。ダメになったらもう終わり。復縁を迫る元恋人の見苦しさはフィクションで散々知っている。分の悪い賭けをしてまで、取り戻したい関係なんてない。取り戻さなかったところで、死ぬわけじゃあるまいし。
そういう風だから、やらかした先があるなんて想像もしていなかった。だから、何も言えない。言葉が出ない。今後、どう振る舞おうかの指針もない。とりあえず怒られたくないなあとぼんやり思っている。
そういうところが逃げだと言われるんじゃないの? 逃げて何が悪いの? とまあ、こんな具合。
ここまで読んでいると、堪え性がないやつに見えるだろうが、僕は注力すると決めたことにはとても諦めが悪い。仕事も、小説の執筆も、数え切れないくらい挫折と実力不足を噛みしめて、それでも立ち続けている。何のために。自分の生きる意味を失わないために。やりたいことを手放したら、人生をやる意味がなくなるからね。病弱で生きているだけで負傷するのだから、そうまでしてもやりたいことがなければ、希望はゼロだし、合理的に考えると死んだ方がましとも結論できてしまう。ただ、死んだ後どうなるかわからないので比較検討が成立しない。だから、結論は希望がゼロなら、死んだ方がましかもしれない、となる。
幸いにもやりたいことがたくさんあるので、その心配はない。小説で書きたいネタもいくつかあって、仕事でやってみたいことや今進行中のプロジェクトもある。食べてみたいスイーツも行ってみたい場所も気になるごはんも、無限にある。全部とはいかないが、やりたいものから順に、一人でそれらを叶えていくんだと思ったら胸が躍る。
京都でちょっとお値段の張るお豆腐のコースを食べてみたい。ゲームから好きになったナイチンゲールのいたイギリスに行ってみたい。『致死遺伝子の片割れたち』を書き上げて、世に出したい。鬼怒川温泉や由布院の温泉に入ってみたい。黒いウェディングドレスを着て一人で写真撮影したい。男装してみたいかもしれない。秋の味覚を味わいたい。読書とゲームに明け暮れるバカンスをやってみたい。……などなど。
仕事関係は除いたのに、こんなにあるとは。僕は希望の塊のようだ。人生、何とかなる気がしてきた。
診察受けたら、怖くなってしまって、希望がちょっと萎んだ。でも三連休の間放っておいてはいけないと受診した僕は偉い。それはそれとして怖いが。
帰りにパフェでも食って帰るか。いや、待たされすぎてお昼ごはんを食べそこねているからまずごはんだ。この辺何があったっけ。
予定通院でない通院、こんなに怖いんだ。泣くかと思った。
絶対おいしいもの食べて帰る。こんなにつらいのが三連休初日であってたまるものか。
カフェで読む本でも持ってくればよかった。いや、小説書き進めようよ。ずっと止めてしまっていることに結論を出すか。
処置完了。やばいものではなさそうでほっとした。お会計待ち。
ラーメンとパフェ食べたいかも。杏仁豆腐も食べたい。気持ちが元気になって、食欲も戻ってきた。生きよう。
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