一週間後に消える星
ある夜のことだった。駅前でタクシーを停め、客を待っていると、突然「パーン」という音が響き渡り、同時に周囲が一瞬眩い光に包まれた。音からして、近くの公園で花火でも打ち上げられたのだろう。光の影響で、私は一瞬くらっとしたが、すぐに平静を取り戻しす。タクシーのメーターを確認していると、しばらくして客がこちらに向かって歩いてきた。
「なあ、一週間後に星が消えることなんかないよな?」と、客は少し怒りを含んだ声で言った。その口調には、焦りや不安がにじんでいた。何か逆鱗に触れることをしただろうか。私は心の中で訝しさを感じつつ、冷静に応じた。
「もちろんです。星が爆発するのなら別ですが」
「いや、爆発したわけじゃない。俺の仲間が見ているからな」と、客は説明を続けた。
「仲間、というと?」と、私は興味を持って尋ねた。
「天体観測仲間さ。毎週末、近くの山から星を観察しているんだ。」
私は頷きながら相槌を打つ。
「なるほど、一週間前には確かにその星があったんですね。しっかりと見ていたとのことですが、今日になってその星が見えなかったと」
「その通りだ。ビルで見えなかったとか、そんなことはないんだ」
ビルの影に隠れて見えないわけではないなら、他に考えられる原因は何だろう?
「今日、何か変わったことはありませんでしたか?」と、私は慎重に質問を投げかけた。
「そう言われてもなあ……」と、彼は少し困った様子で考え込んだ。
「そういえば、お客さんは山まで車ではいかなかったんですか?」と、私はさらに訊ねる。
「車で行ったよ。さすがに歩いては無理だからな。まあ、厳密に言うと、仲間に乗せてもらったんだが」
「なるほど。一つ質問ですが、星を見る前に眩しいものを見ませんでしたか?」
「ああ、仲間の車が来た時に誘導したんだが、その時は車のライトが眩しかったな」と、彼は思い出すように言った。
その瞬間、私は先ほどの体験を思い出した。明るい光が目に入ると、視界に一時的な影響を与えることがある。私は穏やかに説明を始めた。
「おそらくですが、お客様が星を見えなかったのは、一種の錯視のせいだと思います」
「錯視?」
「はい。原理はこうです。明るい光を見た後、その明るさが目に残り、暗い場所にある物が見えにくくなる現象です。つまり、星が暗い夜空に浮かんでいるため、明るい光の影響で一時的に見えなかったのだと思います」
「もし、それが原因なら、その一瞬だけ見えなかったということか?」
「その通りです」と、私は確信を持って答えた。
「なんだ、そんな理由だったのか」と、彼はほっとした様子で言った。
「仲間には悪いことをしたな。見える見えないで口論してしまった」
男性は心からの後悔の様子を見せた。しばらくして、彼は申し訳なさそうに言った。
「目的地をあそこの山に変えてくれ。仲間に謝りたい」
目的地に着くと、彼の仲間が温かく迎え入れてくれた。これで一件落着だ。私はタクシーを降りて、星空を見上げながら一緒に夜空を眺めた。星だって、いつ爆発するか分からない。だからこそ、見逃さずに見ておくことが大切だと思った。
星が消えるという大きな謎も、時には簡単に解けることがある。日常の中には、気付かずに済むことも多いが、謎を解くことで世界が少し広がる気がする。私はこれからどんな謎に出会うのだろうか。星空を見上げながら、未来の謎に思いを馳せた
副業は探偵ですが何か? 〜タクシー運転手の小さな楽しみ〜 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。