第23話
なんだかんだ言ってレオンという青年は人を見捨てられない人間なのだろう。誰かが助けを願い、求めてきたのなら。彼は多少の躊躇をしたとしても最終的には助けてしまう。例えそこに打算があったとしても。だから、私は思う。
彼はもう十分すぎる重りを背負っていると
今も尚、増え続ける重りにいつか限界を超えて潰れてしまうのではないか。もし、その役目を全うした時、彼は何を指針に生きればいいのかわからなくなってしまうのではないか。何かの拍子に崩れてしまうのではないか……そんな考えが頭の中に居座って離れようとしない。
だから私は………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「流石教祖様。これこそ神の御業」
「……神のご加護があらんことを」
信者の願いを聞き、用意された言葉をそのまま発する。それと同時に彼の頭上にはキラキラと光を反射する粉が降りかかる。
お母さま曰くこれはとてもいい気分にしてくれるお薬らしい。
毎日言いたくもない事を言いながら心の籠っていない祈りを捧げる。そんな彼女の想いとは裏腹に信者達はさらに感極まり何度もお礼を言いながらその場を去っていく。これが彼女の日常だ。
「はぁ……」
浮かない顔で深いため息を付き、自身が身に纏う贅沢な意匠の衣服を見つめる。いつからだっただろう。こんな生活が間違っていることに気が付いたのは……そんなことを考えながら今日も居心地の悪い自室で物思いにふける。
そんな時だった
ズドォンッ!
すさまじい音と衝撃。そして部屋中に充満する土煙
「イテテェ……」
「ケホッケホッ………ッ!?」
お母さまでも御付きの護衛でもない。聞き知れない声に少女は戸惑いと微かな恐怖が全身に駆け巡る
「あぁ~……しくじった。まぁかあそこで制御が鈍るなんて。ってか、ここどこだ?思いっきり家屋壊しちまった」
少年……いや、青年だろうか。私と同じくらいの男の子が雑に頭を掻きながら立ち上がる
「だ、誰なのッ⁉」
とっさに声が出てしまう。
「んぁ?」
そこで青年は少女に気付く。
「あぁ~、ごめん。天井ぶっ壊す気はなかったんだけどさ。天啓の制御に失敗しちゃって空から真っ逆さま。でも、よかったぁ。この屋根が無かったらマジで死んでたかも」
死にかけた。飄々と死が間近に迫っていたことを告げる青年にどこか違和感を覚える。
「いやぁ、ホントに感謝しかないな。あ、でもこれ修繕費とかどれくらいかかるんだ?見た感じかなり高級なものだと思うんだけど」
(クスッ……この人、私を特別扱いしない)
目の前に少女がいることなど構わず自分が壊してしまった家屋の心配を割と本気でしている青年。そんな彼に少女は惹きつけられる何かを感じる
「あ、あのぉ~」
少女は思い切って家屋の心配をする青年に声を掛けてみる。
「家屋のことなら別に構いません。それより名前を教えてくれますか?」
「ん?あぁ……俺はレオン。家名なんて大そうなものはないけどよろし………んん?」
最後まで言い切るかと思いきや突然怪訝な表情を浮かべ少女を凝視する
「君……もしかしてルーチェ=フォン=リテイリア?」
どうやら彼は私のことを知っているようだ。
「そうです。私の名前はルーチェ=フォン=リテイリアです。ご存じでしたか……」
「そりゃぁ……」
レオンはとても困った表情を浮かべる
「あの……破壊した屋根の賠償はいりません。その代わり……私を、私をここから連れ出してくれませんか?」
一歩。自由へ手を伸ばせば届くかしれない距離に来た。だからこそ、先ほどまで感じていた恐怖は消えた。少女は被っていた顔を見られないためにと用意されたベールをかなぐり捨てて困惑の表情を浮かべる青年の……レオンの手を両手で包み込む
「もうこんな場所にいるのは嫌なんです。」
「……一つ。質問だ。君はここの教祖だろ?なのになんで?」
「それはお母さまにそう言われてきたから。昔から。そう教えられてきたの。だけど……もう、こんな生活……嫌。心にもないことを信者に言って、私にはどうする力もないのに……なのに」
頬から静かに涙が伝う。
その様子にレオンは何を思ったのかいきなり少女をお姫様抱っこする
「ったく……極悪卑劣で一生関わることがないと思っていたのに。なんだよ、そうさせたのは育てた親と環境のせいかよ。クソッたれが!」
「え、えぇッ……」
「黙ってろ。舌噛むぞ」
一瞬だった。声も出せないほど一瞬でルーチェが観ている景色が変わる。
「おぉ……丁度夕方か。いい景色だ」
「………」
少女は言葉が出なかった。産まれてこの方自室と礼拝堂以外の移動が制限されていたから。
「助けてって言ったな?いいだろう、助けてやる……手始めにその元凶を消すとしよう。どうせこの教団の人間全員生死問わずだ。問題ないだろう」
そう言って下を見下ろす
「元凶…それは私、ですよね?教祖ですし……」
「違うわ!なんで今から助ける相手を殺さなきゃならないんだよ………」
青年は呆れながらそう言うと視線を一度少女に向け、あっちを観ろというように視線を誘導する。そして、そんな青年の視線の先へと視線を動かす。そこにあるのは
「礼拝堂……それに。私の」
そこで口をつぐむ。あそこは私の部屋であってもあたしの居場所ではない。
「未練はないな?今ならまだ間に合うが……どうする」
「お願い!跡形もなく‼」
その願いにレオンは力強くうなずき少女を縛る忌まわしき牢屋へ視線を向けると小さく口ずさむ
「集え」
短い一言。だが、そんな彼の言葉に呼応するかのように雲が彼の頭上で渦巻く始める。
「こ、これって……て、『天眼』」
少女は目をつむり別の場所……空に目を接続させる。
そこに映るのは巨大と化した雲の渦。その中心には少女と青年がいる
「天候を……自在に?」
「丁度……夕立の時間だ『時雨の槍』」
その瞬間。レオンの濃密に凝縮された魔力を含んだ雫が槍の形に変形し、重力に押され自由落下を始める。それらは落下と共に加速度的にその速度と威力が増していく。そして、地面にあたるときには……
ドドドドドドドドドッッッッ‼
すさまじい衝撃音と共に礼拝堂とその周辺に立ち並ぶ邪教団の総本山を破壊しつくす。
「これで君の願いは叶った。これからどうしようが君の自由だ」
地面に降り立ち、少女を降ろす。そして、レオンは歩き出す。少女の隣を通り……
「ッ!伏せて!」
「ぇッ……」
少女は後ろから頭を押さえつけ、地面に倒れ込む
「な、なんですか⁉」
「しくじった。全員殺したと思っていたけど。一人……逃していた」
「……ぇえ?」
少女が困惑しながら顔を上げるとそこにいたのは
「お、お母さまッ!」
レオンとルーチェの前に立ちはだかり魔物や魔獣。そして、青や緑に光る精霊を従えていたのはなんとルーチェの母親だった。
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