喰ひ

真島文吉

西沢健吾のメール

新種の野生生物に関して

西沢健吾 7月3日

to:自分


柿本拓哉かきもとたくや様。

突然のメールをお許しください。

私は奈良県のある山に開かれた自然公園の管理員で、西沢健吾にしざわけんごと申します。

動物研究を専門にしている大学の先生の助けが必要です。

この山にいる『喰ひ』という動物を調べて欲しいのです。


『喰ひ』というのは『くひ』と読みます。どんな動物かは全く分かりません。ですがいるのは確かなのです。


聞くところによると、世界では毎年数千種類以上の動物や植物の新種が発見されているそうですね。

その中には地元の人が昔から知っていたのに、世間が認識していなかった生物も含まれるとか。

『喰ひ』もその手の生き物です。地元の猟師さんの間では昔から有名だったそうです。


柿本様、ぜひ相談に乗ってください。最近『喰ひ』が公園のそばに出て来て困っているのです。私の勤務する公園は近くに道路が通っているものの、山の中にあり、周囲にはダムと、人口六人の過疎村しかありません。


公園内には資料館やアスレチックジムがあり、私はほぼ毎日、資料館で警備夜勤をするのですが、園内に電気柵をくぐって侵入する動物の鳴き声に悩まされています。

最近、特に『喰ひ』に襲われる動物の悲鳴がすごいです。朝になると必ず食べ残しが見つかります。


『喰ひ』に食われた動物の顔は悲惨です。必ず脳みそが飛び出ています。頭蓋骨を割って眼球を視神経ごと取り出して食べるのです。器用です。猿のように手を使うのかもしれません。


とにかく、そういう死体の処理も私はこりごりなのです。身の危険も感じます。でも『喰ひ』は未発見の動物です。

未発見の動物は法的には存在しないことになっていて、猟友会も助けてくれません。大学の先生に発見して頂きたいのです。


助けて頂けるなら、大学の方に行かせてもらいます。それか、もっといい相談先を教えて下さい。


お願いします。

助けてください。助けてください。


西沢

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