#034

エヌエーと別れ――。


治療施設を出たアンはその後に避難シェルターにいた子供たちと合流。


宿泊を予約していたホテルへと向かい、スペースコロニー内の時間調整によって陽もすでに沈みかけていたので、食事を取ることに。


「ねえ、アン姉ちゃん。エヌエーさんとメディスンさんは?」


「そうだよ、ニコにも会いたい」


ホテル内にあったレストランのテーブルにつくと、子供たちがアンに訊ねた。


アンは普段通りの無表情で、エヌエーは怪我をし、メディスンは仕事で来れないことを伝えた。


それを聞いた子供たちは、両方の眉毛を下げて落胆する。


アンの休暇で宇宙旅行――ムーグツーで行われる観艦式の祭りに参加するだけでなく。


メディスンやエヌエー、ニコらと会うことは、子供たちにとっても楽しみの一つだったのだろう。


先ほどまでは、アンと無事に会えて喜んでいたというに、皆しょんぼりと唇を尖らせていた。


「大丈夫、またすぐに会えるように頼んでやるさ。さあ皆、いつまでもそんな顔するな。せっかくの夕食が美味しくなくなってしまうぞ」


「でも……一緒にごはん食べたかった……」


子供の一人がそう言うと、アンは相変わらず表情一つ変えずに言う。


「そうだな。私もだよ。……よし、今夜は好きなものを好きなだけ頼んでいいぞ」


「ホントッ!」


アンの一言で、子供たちの顔がまるで火を付けられたランタンのように明るくなった。


普段は子供たちの身体のことを考え、栄養が偏らないように節制するように言っているアンだったが。


休暇も今夜で終わり、さらに子供らが会いたかった人たちに会えなかったことを思い、彼ら彼女の贅沢を許すことにした。


子供たちは我先にと店員を呼んで、早速テーブルのスイッチを押し、ホログラム画面のメニューを嬉しそうに選んでいる。


「大事……気分を変えるのは大事……。まあ、たまにはいいだろう……」


そんな子供たちの様子を見たアンは、思わず昔の口癖を呟いていた。


(そういえば、しばらく口にしていなかったな。……懐かしい顔を見た影響か)


懐かしい顔といってもアンが思い出していたのは、メディスンでもエヌエーでもニコでもない。


彼女の脳裏に浮かんでいたのは、かつての宿敵であり、共に暴走したコンピューターから世界を救った戦友ともいえる男――。


ストリング帝国の総帥として現れたノピア·ラッシクだった。


アンは機械の腕を隠すためにしている手袋を付けているほうの手――右手で、自分の眉間をつまむ。


(なんであんな奴のことを考えているんだ、私は……。あんな奴のことを考えていたら、食事が不味くなる……。くそッ!? 子供たちに偉そうなことを言っておいて、こんなのダメじゃないかッ!?)


周りから顔を隠すような姿勢になったアンに、子供たちが声をかける。


「ねえ、アン姉ちゃんはなに食べる?」


「姉ちゃんには、これなんかいいんじゃない?」


子供たちは冗談つもりなのか何なのか。


アンに仔羊の丸焼きを勧めた。


以前にニコシリーズの原形となった、オリジナルの電気仕掛けの仔羊を飼っていた彼女は、羊系の肉は一切口にしない。


クスクスとからかうように笑い出す子供たちを見て、アンは右手の手袋を外した。


現れたその機械の手からは、バチバチと電流が鳴って稲妻がほとばしっている。


「ヤバい! アン姉ちゃんが怒ったぞッ!」


「みんな! 急いで逃げろッ!」


その姿を見た子供たちはクモの子を散らすように、一斉に逃げて出した。


アンは椅子から立ち上がると、無表情でのまま静かに言う。


「少々甘やかしすぎたか……。ちょっとお仕置きが必要なようだな」


アンがそう言うと、レストラン内に雷が落ちたような音が響き渡った。

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