1話:蜘蛛男 その4
永華がアスカが指定した喫茶店の最寄りの駅に着いたのは夕方ごろであった。まだ太陽の日は沈み切っておらず、駅の周りは仕事終わりのサラリーマンや下校する生徒たちの行き来で賑わっていた。
永華はそのまま駅前のバスロータリーを過ぎて、喫茶店に繋がる道路に足を運ぶ。歩いてしばらくして、歩道の脇は小さな居酒屋や個人商店といった建物の姿は見えなくなり、土地の再開発が行われているのだろうか、未完成の道路や夏草に覆われた空き地と所々にある一軒家といった殺風景な景色にいつのまにかなっていた。
段々と日が暮れ始め、あたりは暗くなり始める。永華はずんずんと進むなか、先ほどから何か妙な視線を感じることに気がついた。永華は立ち止まり、あたりをキョロキョロ見渡すが人影は見当たらない。永華自身の心の不安が作り出した幻影なのだろうか。
目的地まであと少しである、永華は携帯電話の地図アプリで方角を確かめつつモデルハウスが建ち連なっている住宅街を抜けようとした、そのときであった。
「なぁ、お前だろ?お前。お前だよなぁ。」
永華は後ろから誰かに呼び止められた。その声は歓喜しているのか緊張しているのか震えており、語尾は上擦ったものであった。
「ど、どなたですか?」
永華は振り向いた。振り向いた先は街灯が奇妙にもひとつだけしか点いてなく、ポツンと街灯が灯していたのは1人の男であった。
男は安物のフード付きのパーカーを着ており、深々とフードをかぶっているせいで顔の全貌は見ることができない。だがフードで隠れているはずの男の目は、飢えた獣のような視線で永華を覗いており、彼が既に常軌を逸した状態であることを永華に教える。
「ア゜ァァア゛ア゛!!ふざけやがって、俺を
男はそう叫ぶとフードを外すと頭を酷く掻きむしり始めた。手には抜けた髪の毛が何本も絡みつき始めるが、次第にグチュグチュという肉と血が混ざり合うような音が聞こえ始める。
「おっとイケねぇ。ちと興奮したみてぇだな。」
男がそう言い頭から手を離すと、その手には引きちぎられ真っ赤に濡れた肉塊が混じった頭皮が髪の毛と触手のようにくっついていた。
永華は男の狂気的な行動と言動に驚き後退りをしてしまう。そして男の顔を見て、彼が自身によって捕まったひったくり犯であることを思い出した
「あ、あのときのひったくり犯……!」
「あぁそうだよ。あのときのな。あの時はよくも俺をこけにしてくれたな。」
「それはアンタが、ひったくりなんていう犯罪をしたからでしょ!目の前で悪いことしているのに、それを見逃せって言いたいの?」
「ウルセェ!テメェのせいでこっちは大恥をかいたんだ!テメェの内臓を引き摺り出してぶっ殺して、そのあとテメェの血を呑まねぇと、テメェに受けた屈辱が晴れねぇんだよぉ!!!」
男は絶叫をあげる。永華は逃げようと試みるが、足がすくんで動くことができなかった。男はうすら笑みを浮かべながら永華のもとに近づこうとする。男の手には何も凶器を持っている様子はない。しかしこのままでは確実に男によって殺されてしまう、そういった考えが永華の脳裏に死という一文字がをよぎってしまう。
「撒き餌に喰らいつくとは。追ってて分かっていたが、やはり単純なやつだな。」
そんなときどこかから舌っ足らずの少女の声が聞こえたかと思うと、永華の横からハンティングキャップを身に着けトレンチコートを着た少女が飛び出した。
少女が飛び出した一瞬、永華はその正体が斑鳩アスカである事を瞬時に理解した。アスカはすぐさま袖口から
パン!パン!と、乾いた銃声と空薬莢がアスファルトに落ちる甲高い音がモデルハウスが並ぶ住宅街に何度も響き渡る。男は銃弾を受けた衝撃で後ろに倒れるが、何事もなかったように起き上がった。
「お前、だれ?」
「堕とし子になった癖してタタキしてる馬鹿に、俺の名前なんて教えたくないね。」
「なに?そんなチンケなハジキで、堕とし子になった俺を殺せるとでも?」
男は銃弾を胴体に食らい血がでているのにも関わらず、ケタケタと不気味に笑う。男の顔の皮膚の下が何かが這い回るようにゴワゴワと波打ち、血色は安物のゴムマスクのような不健康的な色合いになっていく。それと同時に男の背中も何かが皮膚や服を突き破ろうと、いくつもの突起が男の呼吸とあわせて蠢いている。
「舐めやがって……。俺を止めることは誰にもできねぇんだよぉ!!」
「……変…身。」
男が変身と唱えると、男の背後からファスナーが開かれる音が聞こえる。男の姿はみるみると脱皮後の抜け殻のように薄く皺だらけになる。そしてその抜け殻からは、留置所で殺戮を起こした蜘蛛男が姿を現した。
「ヒッ……!」
「ハハハ!!見たか、これが俺の本当の姿ってやつさ!」
「チィ!」
アスカは舌打ちをすると、もはやこの得物では意味がないと幽霊拳銃をアスファルトに投げ捨てた。
「永華さん、これが俺の正体ですよ。バケモノ殺して飯食ってんですよ。」
「で、でも……。」
「わかったでしょ?満足したら逃げてください!」
アスカはそう言うと、トレンチコートの内ポケットから何かを取り出し蜘蛛男に向ける。それは銃身を異様に切り詰めた
「別のハジキ使ったところで、俺の身体に1つも穴開けられねぇんだよ!」
改造銃から放たれた銀製のライフル弾は蜘蛛男の腕を貫く。蜘蛛男は一瞬固まった、今まで効かなかった銃弾が初めて身体を貫いたことに気がつかなかったのだ。蜘蛛男の脳味噌が事実を理解をし始めた途端、彼は激痛と動揺が全身を駆け巡るのだ。
「特別製の銀弾、たっぷり味わいやがれ。」
「グアアーーー!!!畜生、いてえじゃねぇか!!!!!」
蜘蛛男が穴の開いた腕を見て悲鳴を上げるが、斑鳩は彼の悲鳴を無視して次々と銀弾を蜘蛛男に撃ち込む。蜘蛛男は銀弾が自身の体を貫くたびに大きな悲鳴をあげる。そして斑鳩が最後に撃った銀弾の一発が、蜘蛛男の背中から生える脚の1つを吹き飛ばした。
「グアアァーー!!!よ、よく…よくも、俺…俺の脚をぉ゙ぉ゙!!!」
「へぇ、堕とし子でも痛いと女みてぇにキャンキャン喚くんだな。」
改造銃は銃弾を喰らい尽くし、排莢口から金属クリップを吐き出す。斑鳩は慣れた手つきでコートのポケットから銀弾が詰まった新たなクリップを取り出すと、腹を空かせた改造銃の排莢口から弾倉に詰め込んだ。
「いてぇ!!!バカみてぇに痛えじぇねぇか!!!!クソ、舐め腐りやがってこのアバズレ雌豚ヤロウがぁ!!!」
蜘蛛男は脂汗をダラダラと流しながら、痛みを減らすためか口汚い言葉を斑鳩に浴びせた。
「だから?」
斑鳩は更に蜘蛛男に向けて改造銃で撃とうとする。
「……だが、お前の攻撃はもう読めた。」
蜘蛛男はニヤリとほくそ笑むと同時に姿を消す。いや、姿を消したわけではない。ハエトリグモのように残った7本の脚を使って高速移動を行ったのだ。
「所詮お前はただの人間だ!俺のこの動き、目が追いついていないようだな!」
蜘蛛男はアスカを馬鹿にしているのか、瞬時に別の塀の上や屋根などに移動してくる。斑鳩はすぐに銃口を蜘蛛男に向けるが、蜘蛛男は銃口が向いた途端に別の場所に移動してしまう。
「くそ!」
「ハハハハ!!ざまぁねえなぁ!!」
アスカは狙いが定められないと分かると、すぐさま改造銃を捨て、トレンチコートに隠し持っていたサブマシンガンを二丁取り出し追撃を試みる。しかしマシンガンから絶え間なく撃たれた無数の弾丸は、高速移動する蜘蛛男には当たらず、コンクリートの外壁や電信柱に当たるだけであった。
「所詮は初見殺し!ラッキーパンチが続けて当たるわけねぇんだよ!」
蜘蛛男は雄叫びをあげると、アスカを腹部を蹴り上げた。アスカは苦悶の表情を浮かべそのまま吹き飛び外壁にぶち当たった。外壁は砕け、斑鳩は瓦礫に埋もれている。彼女は口から胃液混じりの唾を吐き出していた。
「斑鳩さん!」
「ちぃ。みぞおち狙ったが、腹に何か隠してるな。」
「に、逃げて……。ね、狙いはえい……かさん。あ、貴方なんですよ。」
しかし永華は逃げなかった。逃げずにアスカのもとに走り出した。
「ば、バカな真似をしないでく…ださい……。」
「嫌です。友達見捨てて逃げるなんて、そんなの出来ません。」
「バカ……。」
アスカはそのままバタリと気絶してしまう。永華は先ほどアスカが捨てた改造銃を手に取り蜘蛛男に目掛けて引き金を引いた。引き金を引くと強い
そして最後の弾を撃ち尽くしたのを告げる金属クリップが、俳莢口から吹き飛び地面に叩きつけられた。
「ゲームオーバー、弾切れみたいだなぁ。」
蜘蛛男は近づき何もできない永華の首を掴み持ち上げる。本来の力であれば人間の首なぞ、造作もなくくびり殺すことができるはずだ。しかし蜘蛛男は永華にうけた屈辱を晴らすためなのか、徐々に力を入れはじめた。
「こ、このクソ野郎……!」
「ハハハ、いいねぇ!そう言う言葉、窒息死するまで吐いてくれよぉ……もう絶頂しそうで堪らないんだよねぇ!ヒハハハハ!!」
「ク……ソ!」
蜘蛛男は楽しげに笑う。永華は酸欠に近づきチカチカとする視界で意識を失っているアスカの方を見る。このままでは2人とも蜘蛛男によって無惨な死骸にされてしまう。
あぁ、あのときアスカの咄嗟の忠告を聞いて逃げれば良かったのだろうか。後悔と死への恐怖が永華の頭の中を駆け巡る。
死にたくない、死にたくない。もっと、もっと、もっともっともっと、私自身に力があれば、目の前で今私を絞殺せんとするこの怪物を倒せる力があれば……!
永華はそう強く願う。
「じゃあな、死んでも楽しんでやるからよぉ。そのまま俺の目に苦しんで死ぬ様を見せてくれよな。」
『永華……。思い出して、私が貴方に託した力を。』
何処かから昔聞いたことのある声が、永華の頭に響き渡る。
永華は自身の命がつき意識が深淵に呑まれる直前、走馬灯を見ていた。小さな頃の記憶、父と母と一緒にお台場にあるショッピングモールに行った時の記憶だ。このときは12月だったためモール内はあちこちクリスマスの飾り付けで煌びやかで、モールを歩く家族連れや学生たちもどこか楽しげであった。
永華はこの日、両親と共にモール内にある映画館で新作の特撮ヒーロー映画を観て、そのあと同じくモールにあるレストランで夕食を食べる予定であった。映画を観終わり、予約しているレストランに向かうなか永華が両親に映画が面白かった事を意気揚々と話しているとき、悲劇が起きた。
突如として永華たち家族の前にあった店が大きな音をたて爆発したのだ。後にニュースで知ったことだが、この爆発は海洋共産主義者による爆破テロとのことだった。
永華は目が覚めると通路にうつ伏せになっていた。自身の顔の左側が酷く痛み、目を開けることができなかった。両親は永華を咄嗟に守るためか覆い被さっていた。しかしふたりとも意識がなく、2人分の体重のせいで小さな永華では動くことができない。
爆発だ、誰か救急車を、誰か倒れているぞ、爆発のせいで聞き取りづらくなった永華の耳にそんな声が聞こえるはじめたとき、爆煙から人影が見え誰かが出てきた。その人物は顔をガスマクスで覆っており男か女かはわからない。しかし、彼が纏っている狂気と手にした血のついたハンマーは、彼がこの爆発を起こした犯人だと教えてくれる。
ガスマスクはよろよろと歩き、倒れる永華を見つけるとゆっくりとハンマーを引きづりながら近づいてくる。このままでは殺される、殺される。誰か、誰か助けて!永華はそう思った。その時だ。全身白ずくめの女性が倒れる永華の前に立ち、ガスマスクに向かって鋭い蹴りを喰らわせたのだ。
蹴り飛ばされたガスマスクはそのまま爆煙に消える。
白ずくめの女性は永華に近づき、手を差し伸べる。
『大丈夫?』
「う、うん。」
「わ、私も貴方みたいなヒーローになりたいな。」
『いいよ。なら私の力の一部、君に託すよ。だけど忘れないで、この力は誰かを助けるために使って。約束、できる?』
「う、うん……。」
『よし、なら指切りだ!』
女性はにっこりと太陽な笑顔を永華に見せる。そして永華はかろうじて動く左腕で女性と指切りをしようと腕を伸ばす。
ここで永華の記憶は途切れる。だが突如として永華の意識は覚醒し、眼帯で隠れている左目から激しい熱さと痛みを感じる。それだけではない、体全体からほとばしる激しいエネルギーを感じるのだ。
「そっか……。そういう事だったんだ。」
永華は事故によって忘れていた記憶を思い出し、不思議と小さな笑いを溢す。
「あん?何が可笑しい?」
「気づいたんだよ。私、アンタと同じ力を持っているってね!」
永華は右目を開くと、自身の首を掴んでいる蜘蛛男の腕を思い切り両腕で力強く握り始める。火事場の馬鹿力だろうか、いやそれ以上だ。蜘蛛男の頑強な腕はミシミシと筋組織と骨が悲鳴をあげ始めているのだ。
「いててててて、いてぇ!」
蜘蛛男はあまりの痛みに手の力を緩めてしまう。蜘蛛男から解放された永華は地面に叩きつけられる。永華はゲホゲホと呼吸を整えながら起き上がる。呼吸を整えた永華は気絶する斑鳩の前に立ち、蜘蛛男に指差した。
「おい下衆野郎。見せてやる、これが本当の変身ってやつだ!」
永華はそう言い眼帯を外すと、左目があったところには男の背中にあったのと同じ、閉じられたファスナーがあった。
永華はそのまま左足を軸にして右半身を後ろに回す。左腕を突き出し、左手はチョキのように人差し指と中指を伸ばしを退魔の印を結ぶ。そして永華は蜘蛛男を睨む。その目は修羅が如く怒りに満ちていた。
「……
永華は叫ぶと左手で左目のファスナーを引き、虚空が開かれた。開かれた眼孔にある虚空から翡翠色の炎が吹き出し、翡翠色の炎は永華の両腕と目元を覆うと両腕には紅色のガントレットを、目元には一対の角がある
炎が舞い上がると蜘蛛男の前に立っていたのは、1匹の緋色の鬼であった。
「お、お前も俺と同じ墜とし子なのか!」
「私は叢雲。お前ら悪鬼を滅ぼすために生まれた一匹の鬼、叢雲だ!」
「何が鬼だ、ふざけるな!ぶっ殺してやるぅ!!!」
蜘蛛男は背中の脚を伸ばし、その鋭い爪で叢雲を貫こうとする。しかし叢雲は蜘蛛男が伸ばした脚を踊るようにいなすと、その脚を掴んだ。掴んだ瞬間、叢雲のガントレットは翡翠色の炎を吹き出し蜘蛛男の脚を焼き尽くさんと燃やし始める。炎は瞬く間に蜘蛛男の脚から身体に燃え移り、蜘蛛男の全身は翡翠色の炎が蝕み始める。
「アァアァアアア!!!!!熱い、あちぃよぉおおお!!!!」
「この炎は私の怒りだ!」
叢雲はそのまま燃え盛る蜘蛛男に向かって駆け出し、彼に目掛けて右ストレートを放つ。蜘蛛男はなすすべもなく自身のみぞおちに叢雲の拳を喰らう。そして更に蜘蛛男を苦しめる炎の勢いは増すのだ。
「畜生、畜生畜生畜生!!!だが、お前のパンチに当たらなければ……俺の勝ちってことなんだよぉ!!!」
蜘蛛男は高速移動を始めた。高速移動による残像が蜘蛛男を何体も作り始め、叢雲の周りには10体の蜘蛛男が囲んでいた。
「ハハハ、この速さ!さて、どれが本当の俺かな?」
蜘蛛男はそう叫ぶと、一斉に叢雲にめがけて襲いかかる。
「遅い!」
叢雲には蜘蛛男の軌道が見えている。そのまま彼女は回し蹴りを放つと、影分身の蜘蛛男が消え去り蜘蛛男本体の腹部を蹴り上げる。
「グワァァ!」
蜘蛛男は蹴り上げられた衝撃で横に吹き飛ぶ。蜘蛛男はバック転で体勢を立て直そうとするが、叢雲は瞬時に駆け出し蜘蛛男の蜘蛛脚を掴み引き寄せる。そして翡翠色に燃え上がる右手で蜘蛛男の顔面に向けて拳を叩き込んだ。
「一発目ぇ!」
「グワァ!!」
叢雲は左手で蜘蛛脚を離さず、蜘蛛男を引き寄せ彼の顔面に拳を叩き込む。
「二発目ぇ!!」
「グワァ!!!」
叢雲は左手で蜘蛛脚を離さず、蜘蛛男を引き寄せ彼の顔面に拳を叩き込む。
「三ッ発目ぇ!!!」
「グワァァ!!!!!」
叢雲が三発目の拳を放ち、蜘蛛男は再び横にふっ飛ばされる。蜘蛛男は意識を一瞬なくしたのか体勢を崩し派手にアスファルに転げる。
「ち、畜生……!なんなんだよ!なんでお前が!!」
蜘蛛男はよろよろと起き上がる。身体を蝕んでいる翡翠色の炎は消えておらず、尚もメラメラと燃えており、蜘蛛男の口からは黒色の血潮が漏れている。
叢雲は蜘蛛男の戯言が耳に入ってないのか、何も言わずに彼の前に近づいてくる。その姿は鬼そのものであり、一歩また一歩と蜘蛛男に近づくたびに叢雲の両腕に纏った炎は大きくなる。
「ま、まいった!ご、後生の頼みだ!殺さないでくれ、もう二度と悪さなんかしねぇ!!!」
「これでぇ……トドメぇ!!!」
叢雲のガントレットを纏う翡翠色の炎は最高潮に吹きあがる。叢雲は命乞いをする蜘蛛男の頭部に目掛けて拳を叩きつけた。蜘蛛男は金切り声に近い断末魔をあげて頭部が弾け飛び、全身から蒼い炎を吹きあげて爆発した。
「……そうだった!斑鳩さん、斑鳩さん!大丈夫ですか、今助けますから!」
永華しばらく灰燼へと帰す蜘蛛男の残滓を見つめていたが、気絶しているアスカを思い出すとすぐさま彼女の元へと走り出す。彼女はいまだに瓦礫に埋もれて気絶している。永華は急いで瓦礫をどけると、何度も斑鳩をゆすったり叩いたりして起こそうとする。
「斑鳩さん、斑鳩さん!」
「ん……。え、永華さ……ん?」
アスカは目を覚ます。アスカは気絶していたため、あの後何が起きたのか分かってないらしく、仮面をつけた隻眼の永華とその後ろで青く燃えている残骸を見て困惑している。
「よかった!意識があって、すぐに救急車を呼ぶから!」
永華は学生カバンから携帯電話を取り出すと119番を押そうとする。しかし、アスカはそれを止めるかのように永華の片腕を掴んだ。
「い、いや。それより、俺のバッグを……み、水が飲みたいんです。」
「バッグね。ほら、これでしょ?」
永華は地面に落ちていた黒のバッグを拾うと、アスカに渡す。アスカはバッグを開けて水が入った水筒を探しているのかガサゴソと漁る。
「あった。永華さん、ありがとうございます。」
「いいってことよ。言ったでしょ?助けたくなっちゃうのは私の性……。」
永華は言葉を言い終わる前に、世界が強制シャットダウンをされたかのように急激に視界が暗くなり意識が落ちる。永華は意識が落ちる一瞬、アスカがバッグから何か注射器のようなものを取りだし、素早い手つきで永華の首元に刺したのを視界に収めていた。
「まったく……とんだ誤算でしたよ。あなたをあの蜘蛛男の囮に使おうと考えていましたが、まさかあなた自身も墜とし子だったなんて。」
アスカは動かなくなった永華の身体をどかし、彼女の頭は学生カバンを枕にして優しく道路に置いた。アスカは少しため息をつくと、バッグから携帯電話を取り出して誰かに連絡をする。
「お疲れ様です。こちら公安部特常所属、斑鳩アスカです。親父さん、急でなんですがクルマ用意してくれませんか?いえ、もしかしたら我々の切り札になる上等な堕とし子を一匹、捕まえたんです。」
「えぇ。だからクルマの手配が欲しいんですよ。はい、お願いしますね。えぇ。あ、あと掃除屋の手配も、はい。ではまた後で。」
アスカは電話を切り終わるとバッグから水の入ったボトルを取り出し、一口で飲み干した。
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