紅殻神鬼 叢雲
春日台昇
第1話 蜘蛛男
1話:蜘蛛男 その1
東京文京区にあるK高校の教室の一室、翡色永華は早く左目を隠している眼帯を外したいなと思いつつ、窓際の席から見える校庭の景色を眺めていた。
最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、クラスメイト達は蜘蛛の子を散らすかのように教室から離れ、すぐに廊下から沢山の足音と女子や男子の笑い声と談笑が聞こえてくる。
「ねぇ永華、今日渋谷に行かない?」
ボウと座る永華に、クラスメイトである白河奈々が永華の机の上に手を置いて、新緑色の瞳で永華の事を覗く。永華は黒板の横の壁に立て掛けられた時計を見る。時間は3時20分。あと5分後には帰りのホームルームが行われる予定だ。
「どうしたの奈々?今日は部活あるんじゃないの?」
「いやいや。忘れてますよ、永華さん。今日は『
「え、本当?今日って22日だっけ?」
永華はすぐに教室の壁に貼られたカレンダーと黒板を見る。確かに今日は6月22日だ。しかし黒板の日直欄の下には、誰か書き直すのを忘れたか日付は21日となっていた。
「しまったぁ。日直欄で日付見てたから、騙されたわ……。」
「そうですよ!お互いファンなんだから、忘れちゃ困るよ〜!」
白河はそう言うと永華の頬を両人差し指で軽く数回突く。
「え?じゃあ今日の部活はブッチするの?」
「流石にさ、そこは事前に鮫島先輩に根回ししてますって!」
「分かったよ。終わったら早速行かないとね。」
鮫島先輩、確か3年の水泳部部長で白河の彼氏だったなと永華は思い出す。一度学校集会で顔を見たことがあるが、あの温和な顔つきだ。彼女の頼みなら断れないだろうし、白河は強かな人間だなと感じつつ、永華は白河の話を聞きながら鞄に教科書とノートを詰めるのだった。
午後3時30分。帰りのホームルームが終わると、永華と白河は学区近くの駅から都営三田線で水道橋、そこから総武線で代々木へ、最後に山手線に乗り換えて渋谷駅に到着する。渋谷駅は観光客と学生たちで混雑しており、有名なスクランブル交差点には自撮り棒を持った配信者がたむろしている。2人はそんなごった返す人混みを躱して、タワーレコードに入り、ようやく御目当てのCDと特典を購入した。
向かいにあるデパート前で永華は奈々と談笑をして、ふと腕時計を見ると時刻はもう5時手前であった。もうそろそろ帰らなければ、永華がそう思った次の瞬間。
「ど、泥棒!」
近くから女性の声が聞こえたかと思うと、永華たちの横を黒いバッグを持った男がスクーターで勢いよく過ぎていく。永華は直感的に彼がひったくり犯だと思った。
「奈々、これ持っといて!」
「え?ちょ、ちょっと!」
永華は奈々に学生カバンを投げ渡すと、ひったくり犯に向かって駆け出し始めた。渋谷の歩道は無数の通行人でごった返しているが、永華はそれを流水のようにスイスイと人ごみの隙間をくぐり抜けていく。
「ごめんね!Excuse me!すみませーん!」
永華は謝罪の言葉を言いつつ避けて抜けてを繰り返してひったくり犯を追いかける。しかしスクーターとの距離はまだ縮まらない。
「こうなったら……!!!」
永華はなんと、歩道の脇にある鉄柵を登るとそのままバランスを崩さずに駆け出し始めた。脚の回転はどんどんあがり、永華は追い掛けて1分も経たないうちにスクーターに追いつこうとしている。
その速さにはひったくり犯も驚いたのか、車線を無視して車両らが開けている歩道側の狭いスペースを抜けて逃げ切ろうとアクセルを更に回す。
「待てぇ、ひったくり!」
しかし永華はひったくり犯よりも速く、歩道の鉄柵のとなりに立っていたミラーの鉄柱を両手で掴むとそのまま回転をかけて勢いをつけ飛び出し、鋭い蹴りをひったくり犯の背中に一撃かました。男はバランスを崩しスクーターから放り投げられ、男が掴んでいたカバンは男の手から離れて宙を舞う。
永華は落ちてくるカバンをガシリと片手で掴むと、道路にうずくまる男に向かってこう言った。
「カバン、返してもらうよ!」
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