第27話
サーシャ視点・幼少期の思い出
あれは、ラルフ君がまだ今の私の膝くらいの背丈だった頃の話だ。
伯爵家の次男で微妙スキル言われながらも、その智慧と発想でハミルトン伯爵家を盛り立てていると評価されているラルフ君、頼もしい弟…でも小さな頃は、ただの、泣き虫で、甘えん坊で、私の後ろをちょこちょこ付いて回って、何か嬉しい事があったら、お気に入りの大事な石をくれる可愛い弟だった。
あの日、私は退屈していた。
お父様もお母様も外出中、お兄様は訓練、メイドたちはそれぞれ忙しくしていて、私は自室で一人、ため息をついていた。
――その時、視界の端に映ったのが、私の古いドレス。
淡い水色で、胸元に小さなリボンがついた、もう私には小さすぎる服。
私は、それを手に取って、私の隣でウトウトとして眠そうなラルフ君を見た。
「……ねえ、ラルフ君」
「なあに、お姉ちゃん?」
当時のラルフ君は私の事をお姉ちゃんと読んでいた。
さっきまで眠そうだったのに、私が話しかけて、眠気が覚めたのか、くりっとした大きな瞳で見上げてくる。
私は、その瞬間、完全に思いついてしまった。
「これ、着てみない?」
「え?」
ラルフ君は、きょとんとして首を傾げた。
「これ、お姉ちゃんの服だよ?」
「そうよ。でも、ラルフ君は私の弟だから着ても大丈夫だよ。」
「でも、僕、男の子だよ?」
「知ってるわ。でもね、小さいうちはどっちでもいいの。ほら、試しに着てみよ!」
私は有無を言わさず、ラルフ君を立たせてとドレスを着せてみた。
最初はじたばたしていたけれど、ボタンを留め終える頃には、観念したのか大人しくなっていた。
「……へんじゃない?」
不安そうに聞いてくるラルフ君。
私は一歩引いて、じっくり眺めてから――
「……っ、可愛い……!」
思わず声が漏れた。
肩までの柔らかい髪、少し丸い頬、長い睫毛。
私のお古のドレスを着たラルフ君は、本当に女の子みたいだった。
「ラルフ君、とても似合ってるよ!」
「……お姉ちゃん……」
ラルフ君はどこか納得していない顔。
私は調子に乗って、リボンを頭につけてあげた。
「はい、完成」
「完成じゃないよ!!」
その時ちょうど入ってきたメイドが、私たちを見て固まった。
「……サーシャ様?」
「静かに。今、芸術を創造してるの」
「ラルフロッド様が……ドレスを……?」
ラルフ君は完全に泣きそうになっていた。
「皆、お願い、誰にも言わないで……」
「大丈夫よ。ちゃんと覚えておいてあげるだけ!」
私がそう宣言すると、メイドも、
「はい!この事は私たちだけの秘密にしておきます。では今のラルフロッド様のお姿をお抱えの画家に絵を書いてもらいましょう!」
「それが一番こわいよ!!」
結局、ラルフ君はすぐに元の服に着替えさせてと言って泣きそうだったから元の服に着替えさせたけど、私はその姿を、今でもはっきり覚えている。
だから――。
カーミラ様にあの話をした時、ラルフ君があんなに真っ赤になったのも、無理はない。
でもね、ラルフ君。
あれは私にとって、
「守りたい可愛い弟」との、いちばん大切な思い出なんだから。
そして今――
その弟を、大切に想ってくれる人が現れた。
私は、少しだけ誇らしい気持ちで、今日も笑っている。
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