第三の日

木々のざわめきが風に揺れ、草木がささやき合うかのように音を立てる。



天から差し込む光が、地を照らし、遠くに見える湖のような大きな水面がキラキラと輝いている。




少女はふと思い立つと、空からゆっくりと舞い降り、木陰から漏れる日の光が鮮やかに映える青草の上に、そっと降り立っていた。


足の裏に伝わる草の感触は柔らかで、心地よかった。


どうやってここに降りたのか、自分でもよくわからない。


ただ、地面を見たとき、そこに立てるような気がしたのだ。


先ほど芽吹いたばかりとは思えないほど立派な木に、少女は背中を預けるようにしてゆっくりと座り込んだ。





さて、私はどうなったのだろう…





薄汚れた路地裏で、ボロ雑巾のように倒れ、死を悟ったあの瞬間。少女は、神と世界を永劫に呪うという思いを強く抱いていたことを覚えている。


だが、そこから気がつくと、この不思議な場所――あるいは世界にいた。


日ごとに姿を変えるこの場所。

妙な声が響き、その声に従うかのように世界が変化していく。

まるで、それが当たり前のように。



ここに来てから何も食べていないはずだが、不思議と腹は空かない。


それに、最期に身に着けていたボロは、いつの間にか修復され、穴やほつれがなくなっていた。



かつて白かったであろう生地が、今はその白さを取り戻して、なにやら誇らしそうにいるように見える。


もういつのことかも思い出せないほど昔に手に入れた服だ――いや、代金を払ったわけではないのだが。





やはり、ここは死後の世界なのだろうか?

偽善に塗れたクソ神父もどきの言う通りの世界だったら、あるいは神とやらの鼻っ柱をへし折ってやれたのかもしれない…



だが死後の世界なのだと、そう考えると色々とおかしい。


他に死んだ者の姿があっても不思議ではないはず。

それに、少女の目の前に広がるこの美しい世界――


輝く光、青い草の香り、穏やかな木の匂い、遠くかすかに聞こえる波の音、暖かな光と優しい闇。


何より、自分の胸の中心で脈打つ心臓の鼓動が、死を感じさせるにはあまりにも生命力に満ちていたのだ。



もう少し、この成り行きを見てみよう。

どうせ、行き場なんてどこにもないのだから…


この世界がどう変わっていくのか、そして自分がどこへ行くのか――


それを知る術など自分には無いのだ。

そう思いながら、半ば思考を放棄した。


ただ、少女はこの不思議な旅路に、この大きな何かの流れに身を任せることにした。

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