第3話
自暴自棄になるのは馬鹿馬鹿しい。
大切なものなんていらない。そもそも勝手にいなくなったんだし、今後のことを思えば邪魔なだけだ。弱点になるかもしれないものなら、むしろ捨て去った方が断然良い。
そう思うのにどうして胸が痛いんだろう。
再び歩き出し、賑々しい大通りに入る。
子ども達が玩具を持って真横を駆けていく。そういう姿を見ると嫌でも力が抜けて、ため息が出た。
王族がいてもいなくても、実際のところ民は逞しく生きるのだろう。これは自身の心の問題だ。
誰に指示されなくとも、ノーデンスは武器を造り続ける。それはきっと変わらない。
逆に、もしここで武器を造らなくなったら? 間違いなく、王族は混乱に陥るだろう。この国の礎を築いた大事な資本。武器生産は文字通り、他国の侵略を防ぐ目印。武器が造れなければランスタッドは弱体化する。
だが水源もあり文化もある、他所から見れば喉から手が出るほど欲しい土地だ。王族を弱体化させるというのは悪くないが、他の国に乗っ取られるのは困る。やはり武器を手放すことはできない。
商店が並ぶ大通りを越え、見晴らしのいい荒野を進む。この国の東に巨大な工場地帯がある。裏には未だ開拓中の鉱山があり、志願者が昼夜問わず材料を運び出してくれる。
これがランスタッドの要だ。他所では採れない特別な鉱石が眠っている。宝石のような価値はないが、人々の暮らしを脅かす武器となる。
巨大なドームの中へ足を踏み入れた途端、凄まじい金属音と熱風がノーデンスを迎えた。二階はあるが、作業場は地下にある。吹き抜けとなっており、柵の下には武器が大量に造られる光景が広がっていた。息を飲むほど壮観だ。
不安定な階段を下りる。ノーデンスに気付いた職人達が顔を明るくし、作業の手を止めて一斉に駆け寄ってくる。
「ノーデンス様!」
「お久しぶりです! こちらに来るならお声をかけてくださればいいのに」
「すみません、ちょっと様子を見に来ただけなんです。それより皆さん、いつもありがとうございます。適度に休憩と水分補給をしてください」
明るく働き者な鍛冶師達の話を聞き、トラブルや報告はないかリーダーから聴き出す。ある意味これが一番大事な仕事だ。この工場がストップしたら武器の生産が危うくなる。鍛冶師もあくまでただの人間で、材料と機械が駄目になったら何もできないのだ。
「皆ノーデンス様に感謝してますよ」
採集した鋼材を保管する倉庫へリーダーと向かい、ひとつひとつの山に手を当てた。ここから自分が持つ気を注ぎ込み、頑丈で特別な素材にする。
「ノーデンス様のおかげで我々の生活は随分変わりました。昔はただ武器を造る道具のように扱われて、街中に住むことも許されなかった。それが今は皆安定した収入を得て、好きな場所に好きな人と暮らすことができる」
安定した収入どころか、全員素封家にする心積りだ。
微笑み、掌についた土をはたき落とした。
報酬を貰っても、住む場所を与えられても、「利用」されてることに変わりはない。自分達にしかない力を目につけ、王族は上手く搾取している。
他の国でもこういう例は珍しくないだろう。だが争いが起きたという話を聞かない限り、どこも現状を受け入れてるのだ。力ある者は弱い者に従うしかない、なんて。
そんな事があってはならない。少なくとも、自分は許せない。
だから壊すんだ。彼らを守り……父の願いを叶える為に。
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