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木立 花音@書籍発売中

序章「あたしの翼が折れた日」

【あたしの翼が折れた日】

 六メートル×六.六メートル。

 純白のラインによって四角く区切られたこの空間が、私が舞うステージだ。

 シャトルを追ってステップを刻む。空を切って跳躍する。それでも、頬を撫でる風は吹かない。バドミントンは、風の影響を受けぬよう、無風状態で行われる競技だから。

 締め切った場所で行う真夏の試合は、それこそ過酷だ。

 風が吹くことはない――が、コートの中を躍動する私は風をまとう。

 いつの日か、誰かが私のことをこう言った。


『風をまとう者』、と。


 全国中学校バドミントン大会北海道地区予選会、個人戦優勝。仁藤紬にとうつむぎ

 それがあたしの名前。

 しかしそれは、過去の栄光でしかない。

 風をまとう者は、翼を失い地に落ちたのだ。

 再び風をまとう日は、こない。


 ◇ ◇ ◇

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