異界帰還者

シュン

第1章: 異世界への召喚

主人公、北村翔太はごく普通の大学生だった。彼の生活は単調で、大学とバイト、そしてたまに友達と遊ぶくらいの平凡な日々が続いていた。特別な才能や夢もない彼は、どこか空虚感を抱きながら過ごしていた。だが、そんな日常が一瞬で崩れ去る日が訪れる。


ある日の夜、翔太は自宅で映画を観ていた。特に予定もなく、週末をただ過ごすだけだった。静かな夜が続くと思われたその時、部屋の中が急に冷たく感じ、空気が重くなった。不気味な静寂が彼の周りを包み込み、いつもと違う雰囲気を感じ取った。何かが起こる、そう思った瞬間、翔太の視界が歪み始めた。頭の中で響く鈍い音が、意識を揺さぶる。目の前の景色がぼやけ、全身が重くなり、急速に意識が遠のいていく。


「何だ…これ…?」


次の瞬間、翔太は床に倒れこみ、意識を失った。


どれくらい時間が経ったのかはわからなかった。目を覚ますと、翔太は見知らぬ場所にいた。青い空が広がり、どこか懐かしいような、しかし初めて見る異国の風景が目に飛び込んできた。周囲を見回すと、彼が立っていた場所は広大な草原だった。風がそよぎ、木々がざわめく音が響いていた。すぐに自分がいたはずの自室ではないことに気づいた。


「これは…どこだ?」


彼は立ち上がり、周囲を確認する。見渡す限り、人の姿はない。草原の奥には、山々が連なり、見たことのない建物が遠くに見える。夢か現実かもわからないまま、彼は歩き始めた。


しばらく歩いた後、彼はあることに気がついた。自分の服装が変わっていることに。さっきまで家で着ていたTシャツとジーンズが、いつの間にか異世界風のローブに変わっていた。それだけではなく、腰には剣が装備されていた。


「なんだこれ…まさか、これはゲームの世界か?」


翔太は混乱しながらも、何か大きな力が自分をここに呼び寄せたことを感じていた。すると、背後から馬の蹄の音が聞こえてきた。振り向くと、騎士らしき人物が馬に乗り、こちらに近づいてきた。甲冑をまとったその騎士は、威厳ある姿勢で翔太を見つめ、口を開いた。


「ついに来たか、異世界の勇者よ。」


「え?俺?」


翔太は驚いた。自分が勇者だと言われるなんて、まったく想像もしていなかった。しかし、騎士は真剣な眼差しで続けた。


「お前が我々の世界を救うために選ばれた勇者だ。我々の王が、そなたを待っている。さあ、共に城へ向かおう。」


翔太は戸惑いながらも、状況を理解しようと努めた。このまま草原に留まっていても、何も解決しない。彼は騎士の言葉に従い、馬車に乗り込むことにした。馬車は森の中を進み、やがて巨大な城が見えてきた。石造りの堅固な城壁に囲まれたその城は、まるで中世のファンタジー世界から飛び出したかのようだった。


「ここが…俺の行くべき場所なのか?」


城門が開かれ、翔太は馬車を降りた。彼を迎えたのは、壮麗な衣装に身を包んだ王だった。年老いた王は穏やかな笑みを浮かべながら、翔太に向かって歩み寄ってきた。


「ようこそ、勇者よ。我が名はアルセリア、この国の王だ。お前が異世界から来た勇者であることは、予言されていた。我々の国が危機に瀕している。魔王が復活し、我々の世界を滅ぼそうとしているのだ。お前の力が必要だ。」


翔太はただ呆然としていた。まるでゲームやアニメのような展開に、現実感がまったく感じられなかった。しかし、目の前の王や周囲の兵士たちの真剣な表情を見ると、これが現実であることを受け入れるしかなかった。


「俺が…勇者?そんなの、無理だよ…俺は普通の大学生だ。戦いなんて、やったこともないし…」


翔太は戸惑いながら答えたが、王は静かに首を振った。


「お前は選ばれたのだ。我々の希望はお前に託されている。勇者としての力は、まだ目覚めていないかもしれないが、それはお前の中に眠っている。我々と共に、魔王に立ち向かってくれないか?」


翔太はしばらくの間、言葉を失っていた。しかし、自分がこの世界に呼ばれたのには理由があるのだろうと、徐々に覚悟を決め始めた。異世界の運命を背負い、勇者としての道を歩むことを決意したのだ。


「…わかった。やってみるよ。でも、俺にできるかわからない。」


王は満足げに頷き、側近たちに指示を出した。


「では、勇者よ。まずはお前にこの世界のことを教える必要がある。訓練と共に、この世界の歴史や魔王のことを学んでほしい。」


翔太は騎士団の訓練場へと案内された。そこでは、数々の戦士たちが剣術や魔法の訓練を行っていた。彼もまた、剣の扱い方や魔法の基礎を学び始めたが、最初はなかなか思うようにいかなかった。剣は重く、魔法も一筋縄ではいかなかった。しかし、彼には「勇者」としての特別な力が備わっていることが、徐々に明らかになっていった。


訓練を続けるうちに、翔太は自分の中に眠っていた力を徐々に感じるようになった。普通の人間では持ち得ない速さで成長していく彼を、周囲の者たちは畏敬の眼差しで見つめていた。


「お前にはやはり、勇者の血が流れているようだな。」


教官の言葉に翔太は驚きながらも、自分が本当にこの世界を救うことができるのかもしれないと思い始めていた。

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