第四幕 第二場:神との対峙

 闇の城での出来事から数日が経過した。ゼファたちは闇の神の力を鎮め、クローヴィスと和解することに成功した。しかし、その平和は長くは続かなかった。風の国から緊急の知らせが届いたのだ。風神ゼフュロスが激昂し、風の国を荒らし始めたという。


 「母なる闇の神が消えたことに気づいたのかもしれない」とピッピが重い口調で言う。神話では、闇の神はあらゆるものの母なのだという。それは風の神も例外ではない。


エリナが不安げに眉をひそめる。「このままでは風の国が危ないわ。早く戻らなければ」


ゼファは決意を新たに、「僕たちでゼフュロス様を説得しよう。きっと分かってくれるはずだ」と言った。


クローヴィスも同調する。「私も同行しよう。彼に真実を伝える責任がある」


リクが心配そうに尋ねる。「でも、神に対して僕たちが何かできるのか?」


ゼファは力強く頷いた。「やってみなければ分からない。風の力を授かった僕なら、ゼフュロス様と対等に話せるかもしれない」


 四人とクローヴィスは急ぎ風の国へと向かった。しかし、到着した彼らが目にしたのは、荒れ果てた大地と倒壊した風車の数々だった。強烈な風が吹き荒れ、人々は避難を余儀なくされていた。


「なんてことだ…」ゼファは呆然と立ち尽くした。


 その時、空から雷鳴と共にゼフュロスが姿を現した。彼の目は怒りに燃え、周囲の風は嵐のように荒れ狂っている。


「母を奪ったのはお前たちか!」ゼフュロスの声が大地を揺るがす。


ゼファは一歩前に出て、「ゼフュロス様、誤解です!話を聞いてください!」と叫んだ。


しかし、ゼフュロスは聞く耳を持たず、「黙れ!母を失った悲しみがお前に分かるか!」と言い放ち、強力な風を放ってきた。


ゼファは風の力で防御を試みるが、神の力は桁外れだった。吹き飛ばされそうになる中、エリナが彼を支える。「ゼファ、大丈夫?」


「なんとか…でも、このままでは勝ち目がない」


クローヴィスが前に出て、「ゼフュロス、聞いてくれ!これは全て私の…」と語りかけようとするが、ゼフュロスは更なる攻撃を仕掛ける。


「裏切り者め!お前が母を見捨てたのだな!」


リクが叫ぶ。「何とかしないと、このままじゃ皆やられてしまう!」


ゼファは深く息を吸い込み、心の中で決意した。「僕が彼と向き合うしかない」


 彼は全ての風の力を解放し、ゼフュロスに立ち向かった。二つの風の力が激突し、周囲には凄まじい衝撃波が走った。


「ゼフュロス様、あなたの悲しみは分かります!でも、闇の神は自らの意思で消えたのです!」


ゼフュロスは怒りを露わにし、「嘘をつくな!母がそんなことをするはずがない!」と叫ぶ。


「本当です!彼女は自分の力が世界を乱すことを望まなかった。だから、僕たちと共に未来を選んだのです!」


二人の力の均衡が崩れ、ゼファは押し負けそうになる。しかし、エリナが彼の背中に手を置き、「あなたなら伝えられるわ。頑張って!」と励ます。


リクも遠くから応援の声を上げ、ピッピは魔法でゼファの力をサポートする。


 ゼファは仲間たちの思いを胸に、再びゼフュロスに語りかけた。「あなたは母のことを愛している。それなら、彼女の最後の願いを汲み取ってほしい!」


ゼフュロスの攻撃が一瞬緩み、表情に迷いが浮かぶ。「母の…最後の願い?」


クローヴィスが再び前に出て、「そうだ、ゼフュロス。闇の神は私に未来を託した。そして、争いのない世界を望んでいたのだ」と真摯に伝えた。


ゼフュロスは動揺し、「そんな…母が…」と呟く。


ゼファは静かに近づき、「僕たちは闇の神の意思を継いで、世界を良くしようとしています。どうか、僕たちと共に歩んでください」と手を差し伸べた。


 ゼフュロスはその手を見つめ、激しい葛藤の末に風が静まっていった。彼は深いため息をつき、「私が間違っていたのか…母の願いを知ろうともせず、怒りに任せてしまった」と反省した。


エリナが優しく微笑み、「大切なのは、これからどうするかよ」と声を掛ける。


ゼフュロスはゼファの手を握り返し、「すまなかった、ゼファ。そして皆も。私の過ちを許してほしい」と頭を下げた。


ゼファは笑顔で答えた。「もちろんです。これからは一緒に未来を築いていきましょう」


 風の国に平穏が戻り、荒れ果てた大地にも風の神の力で再び生命が宿り始めた。人々はゼフュロスの謝罪を受け入れ、新たな時代の到来を感じていた。


 クローヴィスはゼフュロスに近づき、「母のことを伝えられずにすまなかった」と謝罪する。


 ゼフュロスは首を振り、「いや、私が早合点してしまった。君たちの行動が正しかったことを、今は理解している」と応じた。


 ピッピが空から舞い降り、「これで本当に平和が訪れますね」と嬉しそうに言う。


 リクが皆を見渡し、「これからは皆で力を合わせて、世界を良くしていこう!」と提案する。


ゼファは仲間たちと共に、広がる青空を見上げた。「これからが本当の始まりだね」


エリナが彼の手を握り、「ええ、一緒に歩んでいきましょう」と微笑む。


ゼフュロスは彼らの姿に安堵の表情を浮かべ、「私も協力しよう。風の神として、皆の力になる」と誓った。


 風が優しく吹き抜け、彼らの未来を祝福しているかのようだった。こうして、ゼファたちは新たな絆で結ばれ、真の平和への道を歩み始めた。

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