第三幕 第三場:深まる絆

 夜空には満天の星が煌めき、静寂が森を包み込んでいた。ゼファ、エリナ、リク、そしてピッピの四人は、森の中の小さな湖のほとりで休息を取っていた。湖面には月の光が反射し、幻想的な雰囲気を醸し出している。


「今日はここでキャンプを張ろうか」とリクが提案した。


「そうね、進み続けても疲れが溜まるだけだわ」とエリナが同意する。


 ゼファは焚き火の準備を始め、風の力で小枝を集めた。「僕が火を起こすよ。みんなは休んでて」


 ピッピは翼を広げて、「私は周囲の見張りをしてきます」と言い、夜空へと飛び立った。


 焚き火が暖かい光を放ち始め、四人はその周りに座った。リクは持ってきた食材で簡単なスープを作り、皆に振る舞った。


「美味しい!」ゼファが笑顔で言う。


「エンジニアだけじゃなくて、料理も得意なんだな」とエリナが感心する。


リクは照れくさそうに頭をかいた。「まあ、生き延びるためには何でもやらないとね」


 食事を終えると、リクは「少し道具の手入れをしてくるよ」と言ってテントへ向かった。ピッピも「森の様子をもう一度見てきます」と飛び去り、焚き火のそばにはゼファとエリナの二人だけが残った。


静かな時間が流れる中、ゼファは星空を見上げながら呟いた。「綺麗な夜だね。こんなに星が見えるなんて」


エリナも空を見上げ、「本当に…まるで別世界にいるみたい」と答えた。


しばらくの沈黙の後、ゼファは勇気を出してエリナに尋ねた。「エリナさん、どうして一人で隠遁していたの?」


エリナは少し驚いた表情を見せたが、やがて静かに語り始めた。「私には過去に大きな過ちがあるの。かつての仲間たちと共に戦っていたけれど、その中で多くの人々を傷つけてしまった。それが原因で自分を許せなくなって、孤独な生活を選んだの」


ゼファは真剣な眼差しで彼女を見つめ、「過去に何があったとしても、エリナさんは今、僕たちを助けてくれている。それだけで十分だと思うよ」と優しく言った。


エリナはゼファの言葉に胸を打たれ、目を伏せた。「あなたは本当に優しいのね。でも、自分自身を許すのは難しいわ」


 ゼファは少し考えてから、「僕も悩むことがあるんだ。自分の力が人を傷つけるかもしれないって。でも、エリナさんやリク、ピッピがいてくれるから前に進める」と語った。


エリナは彼の言葉に微笑み、「あなたといると、不思議と心が軽くなるわ」と素直な気持ちを伝えた。


ゼファは顔を赤らめながら、「僕もエリナさんと一緒にいると安心するんだ」と照れくさそうに笑った。


その瞬間、二人の間に柔らかな空気が流れた。エリナはそっとゼファの手に触れ、「ありがとう、ゼファ。あなたのおかげで、もう一度自分を見つめ直すことができそう」と感謝の意を示した。


ゼファはその手を優しく握り返し、「これからも一緒に頑張ろう。僕たちなら、きっと乗り越えられる」と力強く言った。


エリナは頷き、「そうね。あなたとなら、どんな困難も乗り越えられる気がするわ」と微笑んだ。


 遠くでピッピのさえずりが聞こえ、リクが「工具が見つからない!」と叫ぶ声が森に響いた。二人は顔を見合わせて笑い、その場の緊張がほぐれた。


「リクのところに戻ろうか」とゼファが立ち上がる。


「ええ、放っておくと大変なことになりそうね」とエリナも立ち上がった。


二人は焚き火を後にし、仲間たちの元へと歩き出した。その背中には、新たな絆の強さが感じられた。


 夜空の星々は、まるで彼らの未来を祝福するかのように輝いていた。

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