第13話 教育的指導
「今更謝っても許さねえからな。ゴミクズの犬っころに自分の立場というもんをもう一度、思い知らせてやるぜ!」
ヴォルフは
中庭には父と正妻、アイゼンにそれ以外にも使用人たちが不安げな表情で戦いの行方を見守っていた。
「勝負はお互いどちらかが参ったというまでだ。ルールは特別には設けない。思う存分やれ!」
父セドリックは高らかに宣言した。
今回の戦闘で俺は縛りプレイをするつもりだ。
その縛りの内容は『精密風刃』と『幻影迷彩』の使用の禁止である。
それらを戦闘で使用すると、負けた言い訳をヴォルフサイドに与えてしまう可能性があるからだった。
ヴォルフには正面からぶつかり、二度と変なちょっかいを出す気がなくなるまで叩き潰してやるつもりだ。
「身の程を分からせてやる。二度と俺にあんな口を聞かないように教育してやるぜ」
こちらを完全に侮り、嘲った表情でヴォルフは言う。
「それはこっちの
「…………は? 今、なんて言ったてめぇ?」
ヴォルフが騎士学校に通っている時に陰口を叩かれていた渾名だった。
みんなから嫌われていた為、陰口を叩かれていたらしい。
「ブタゴリラだよ。
「ごおろす、殺す、殺ーーーーす!!!!!」
キレて己を見失ったヴォルフが大斧を振りかぶって襲いかかってくる。
まずは初撃を俺は後ろに飛ぶことで躱す。
大斧が直撃した庭の石畳が破壊されて、破片が周囲に飛び散りメイドたちから悲鳴が上がる。
「戦闘の心得のないものは屋敷内に入ってなさい!」
父の言葉によりメイドたちは屋敷の中へ退避していく。
「おらぁ、生意気に躱してんじゃねえ!!」
ヴォルフは大斧を振り回し、地面に大きな傷跡を残しながら、攻撃を繰り出す。
俺の貧弱な防具だと、一撃を食らえばそれだけで致命傷になるような攻撃だ。
俺は命を刈り取るのような一撃を紙一重で躱していく。
一歩間違えば命を失うよな状況なのに、口角が上がり自然と笑みがこぼれてしまう。
このスリルが戦闘で噴出されるアドレナリンを倍増させているようだった。
「くそが、ちょこまかと逃げ回ってんじゃねえぞぉ!! ああ、めんどくせぇ!!」
ヴォルフが地面を強く踏みしめた瞬間、地面が震えるような轟音が響き渡る。
これはスキル『重踏み』だ。
周囲に広がる衝撃波が、俺の足元を揺らし、体勢を崩れる。
「死ねぇ!!」
ヴォルフの大斧が振り下ろされるがそれも間一髪で躱す。
「くそぉ、惜しかったな。ならばこれだ!」
ヴォルフは再び大斧を構え直し、筋肉が膨れ上がり、全身が金色に光り始める。
彼の腕に力がみなぎり、斧がまるで羽のように軽々と持ち上がる。
今度は『剛力』のユニークスキルだ。
「これでも食らいやがれぇ!」
ヴォルフの大斧が一気に振り下ろされ、石畳に衝撃が走る。
石が粉々に砕け散り、衝撃波が前方に広がっていく。
その攻撃力の凄まじさは、まるで石が豆腐のようにも感じられた。
俺は横に飛びのき、その一撃をギリギリでかわすが、その余波で体勢が崩れる。
この一撃の攻撃力だとかすっただけでも致命傷になりかねない。
「逃げ回っても無駄だ、俺様の『剛力』に抗える奴なんかいねえんだよ!」
更にヴォルフが『重踏み』で地面を踏みしめるたびに、周囲の地面が揺れる。
さらに、再び大斧を振り回しながら、俺に向かって一直線に突進する。
「これで終わりだ、グレイス! 観念しろ!」
ヴォルフは『剛力』で強化された力を最大限に使い、目の前に迫った俺を一気に斬り裂こうとする。
しかし、その大振りな攻撃は動きが大きく、隙も大きい。
(今だ……!)
ヴォルフが大きく振りかぶった瞬間、その下からすくい上げるように一撃を放つ。
俺の剣が彼の鎧の隙間を正確に捉え、鋭く突き刺さる。
「ぐっ…!? このクソがぁ!」
ヴォルフは苦痛に顔を歪めながらも、すぐに態勢を立て直す。
攻撃は加えられたが、一撃では致命傷になりそうにない。
少しずつ削るしかなさそうだった。
「ぐぅぞぉおおおお!!!」
ヴォルフは上下左右全方向に力任せに大斧を振り回す。
そこで俺は振りかぶった時の一瞬の隙をついて、攻撃を加える。
「痛っ! ちくしょう、このドブネズミやろうが、ちょこまかとぉ!!」
「兄様ぁ、あのスキルをお忘れでありませんか!!」
アイゼンが声を張り上げてヴォルフにアドバイスをする。
ヴォルフの動きが止まり、アイゼンの方へと向いて黙って頷く。
「そう言えばそうだった。頭に血が上りすぎて忘れてたぜ」
そして、ヴォルフはすぐさまスキル『重甲の構え』を発動する。
彼の体は瞬く間に岩のように硬くなり、今までよりもさらに防御力が増した。
彼の表情には余裕が戻り、再び攻撃の準備を整える。
その瞬間、俺は隙を逃さずヴォルフの胸元を狙って全力で一撃を放つ。
しかし、俺の剣は彼の体に触れた瞬間、硬い音を立てて弾かれてしまった。
「……っ!」
「どうした、グレイス? お前のその貧弱な攻撃じゃ、俺の『重甲の構え』には通用しねえんだよ!」
ヴォルフは嘲笑を浮かべながら、さらに一歩近づいてくる。
俺は一瞬躊躇するが、再び足元を狙って斬りかかる。
しかし、剣はヴォルフの足の甲に触れた瞬間に鋼鉄のような抵抗を感じ、刃が全く通らない。
「ちっ……硬すぎる……!」
「これが『重甲の構え』だ! このスキルの前では、お前の攻撃なんて蚊ほどのものだ!」
ヴォルフは嘲笑を浮かべたまま、徐々に俺との距離を詰めてくる。
「どうした? もう諦めたか? だったら今度は俺の番だ!」
ヴォルフは防御を心配する必要がなくなったおかげで、攻撃に躊躇が一切なくなる。
それによって見いだせていた隙も中々、生まれにくくなっていた。
「ははは、逃げ回ってばかりかぁ!! 口だけ野郎がぁ、ひき肉にしてやるよぉ!!」
ヴォルフの目には狂気の色が浮かんでいる。
『重踏み』とのコンボで俺は追い詰められつつあった。
その時――
「くっ!」
ヴォルフが削った地面に足を取られて態勢を崩してしまう。
「おらぁ、死ねぇ!」
ヴォルフから強烈な一撃が放たれる。
その一撃が俺の右肩にあと少しで当たりそうになる。
ギリギリだった。
「くっくっくっ! まだだぞう、まだ参ったというなよぉ。教育的指導はまだまだ続くからなあ!!」
ヴォルフが嘲笑を浮かべながらこちらに近づいてくる。
これはもう奥の手を出すしかないな。
出し惜しみをしている場合ではない。
俺はそのスキルを得るために格上のヴァンパイアロードとの戦闘に2時間もかけたのだ。
正面からぶつかっては敵わわないから、幻影迷彩で姿を隠し、確実にダメージを与えることができる精密風刃で少しずつ体力を削った。
魔力回復のためのポーションを飲みすぎて、戦闘が終わった頃にはお腹がタプタプになっていた。
はじめて使うスキルのために精神を統一する。
『
スキルを発動すると体の内側から強烈な熱が発せられる。
身体中に強烈な負荷がかかり、痛みが生じる。
目からは血の涙が流れる。
歯を食いしばり、残った利き腕の左手で剣を強く握りしめる。
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