産まなければよかった(現代ドラマ・オススメ)

「生まれてきてすみません」

 縮こまりながら私は言う

「役に立たなくてすみません」

 痛みに耐えながら私は言う

 

 私は生まれてからずっと独りで

 私は生まれてからずっと痛くて

 

 誰かの温もりを感じたいなんてちっぽけな願いも

 私に関心の無い貴方達には分からないでしょうね

 

 泣くことさえ許されない身体の痛みも

 私を否定する言葉で刺された心の痛みも

 上手く重ねなれた嘘に、気づけないのだから


 いつも通りの日々を重ねて高校生になった私

 古傷を負いながら成長したのは身体だけでした

 そんな私にママは言うの

「その身体、使えそうね」


 全てが黒く塗りつぶされた無価値な人形

 そんな私に残された唯一の価値が処女でした


 愉快な地獄から抜け出さない私は

 いっそ笑ってしまいそうになるくらいバカな人形だと

 嘘で化粧した痛みを天高くから漏らす


「最低な、人生だったなぁ」

 

「おいっ!待て!!」

 

 私に差し伸べられたのは救いの手だったの

 黒く汚れてヒビ割れた人形に

 彼は温もりを与えて、人間にしてくれたわ

 

「これからは……俺が護る」


 小さい頃から出なくなった私の悲しみは

 彼が受け止めてくれたの

 

 彼は地獄を私から遠ざけてくれました


 彼との優しい日々を過ごす度にね

 私には温かい感情が生まれたの

 それは、愛って言うんだって


 私たちは成人したら直ぐに結婚したの

 結構式はあげなかったけれど後悔はないわ

 だって二人での生活はとっても幸せだったから

 

 彼が頑張って買った指輪を貰った時はね

 初めて嬉しくて泣いたのよ?

 ずっと左手の薬指に嵌めてるわ


 結婚してからどのくらい経ったかしら?

 彼といると一瞬一瞬が楽しいの

 だから時間の流れが早く感じるわ


 でもね、人間って貪欲なのよ?だからね

 「二人の愛の形が欲しいわ……」


 彼と重なる度に彼の体温を感じて安心して

 彼と繋がる度に彼を身体で感じて気持ちよくて

 とっても幸福だったの

 もう何も失いたくない、この手から離したくない


 貪欲に、強欲に彼の温もりに抱かれてできた形

 それはねとっても愛おしくて

 私にとっての光だったの

 

 もう独りになりたくない、この光から堕ちたくない

 だって、太陽に照らされてしまうと夜が怖いの

 だからね……

「産まなければよかった」

 

 騒がしい部屋の片隅にある鏡に映っていたのは

 冷たい手を握りながら嗤ってる人形でした

 

「ママ……?」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る