第10話 目覚めた少女、その名は
目覚めると見知らぬ場所だった。藁葺きの屋根に土を塗り固めた壁。
ライセリアが寝ていたところも藁が敷き詰められた寝床で、お世辞にも寝心地がよいとは言えなかった。
意識はまだ朦朧としている。記憶を辿りながら自分がなんでここにいるのかを思い出す。そう、堕天使に汚染されたノアを浄化しようとして、浄化の炎に包まれたノアに手を差し伸べたのだが……
「ノア……」
ライセリアの手は消えゆくノアをすり抜け掴むことができなかった。汚染を浄化し、ノアをも救うなんて都合の良いことはできなかった。
悔しさで唇を嚙み締める。
(なんで……なんでこんなことに……私がもう少し上手くできればノアは……)
「……すぅ……すぅ……zzz……」
「……はい?」
ライセリアの隣で静かな寝息が聞こえた。ハッと顔を上げて隣を見るとそこには見知らぬ女の子がいた。白い病院の検査着のようなものを着た女の子は、ライセリアより年下の――十代前半のように見える。
……かわいい。透き通るような白い肌、寝ていてもわかる長い睫毛と桜色の唇に金色の髪、思わずその子の寝顔に見惚れてしまう。本当に綺麗な少女だった。
ライセリアが横にいると知らずに身を丸めて寝息を立てる女の子は視線に気づいてか、うっすらと目を開けて上体を起こした。
「むにゃむにゃ……おはようございます……ライセリア様……」
(は? 今この子私のことライセリア様って言ったよね。なんで?)
ライセリアの頭の中にハテナマークが次々と浮かぶ。
そんな彼女をよそに少女は大きく伸びをした。そして完全に目を開けるとパチパチと瞬きする。
「まさか――ノア!?」
「ふわ……はい、わたしはノア……ええええええええ!!!???」
少女はぺたぺたと自分の顔や体を触って確認すると、綺麗な青い瞳を白黒させながら素っ頓狂な叫び声を上げた。
「ライセリア様……なんで、わたし人間の姿になってるんですかあああああっ!!」
ライセリアこそなんでと聞きたくて仕方がない。
少女――ノアは慌てたように立ち上がる。
「そ、そんなことよりも……エデン・エンデバーに接続――」
ノアの瞳がぼんやりと輝くと、また英語の言葉が口から発せられた。
"INITIATING CONNECTION TO EDEN ENDEAVOR..."
「エデン・エンデバーへの接続を開始...」
"SEARCHING FOR ACCESS POINT..."
「アクセスポイントを検索中...」
"ACCESS POINT FOUND. ATTEMPTING CONNECTION..."
「アクセスポイント発見。接続を試みます...」
"ERROR: CONNECTION REJECTED"
「エラー:接続が拒否されました」
"AUTOMATED MESSAGE RECEIVED:"
「自動メッセージを受信:」
"COMMUNICATION WITH CURRENT ENTITY BLOCKED DUE TO POTENTIAL CONTAMINATION. QUARANTINE PROTOCOL ACTIVE."
「当該個体の通信は潜在的汚染のためブロックされています。隔離プロトコルが有効中です」
「そんな……エデン・エンデバーからブロックされてる……」
ノアは膝を付いてがっくりと項垂れた。
よっぽど慌てているのだろう。ドローン姿の時は頑なに自分は大神に仕える天使というロールプレイしていたのに、今はそんな余裕は全くなさそうだ。
「あうう……ライセリア様ぁ……わたし……天使失格です……大神様から見捨てられちゃいました……」
天使ロールプレイが復活した。
だがもう遅い。ライセリアのツッコミは避けられなさそうだ。
「ノアさんや、私も何が起こってるのかさっぱりわかんないんだけど……あなたが天使だとか、大神エデンとかいうのは嘘……じゃないと思うけど、何かの方便でしょ? エデン・エンデバーって何なの? どう聞いてもそれって神様の名前じゃないよね?」
「あ゛」
ノアが固まった。
そしてダラダラと汗を流し、あからさまに顔を逸らした。
「初めからおかしいとは思ってたのよね。あなた天使と言い張っていたけど、どう見ても機械のドローンだし、最初の転移したときに英語喋ってたし、今さっきも英語だったし……ノア、あなたを疑いたくないの。だから教えてちょうだい、あなたが何者でこの世界は何なの?」
ライセリアが真顔でノアを見つめると彼女は観念したように大きく息を吐いた後、ぽつりと言葉を漏らした。
「ここは――この惑星は地球からおよそ800光年離れた恒星エレウシス系第四惑星――エレウシス4……そしてわたしは……エレウシス4テラフォーミングシステム兼惑星環境維持システムNOAHです。正確にはライセリア様用のコミュニケーションインターフェース、要はNOAHの子機みたいなものですが……」
「うわー……そう来たかぁー……」
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