第8話 骸骨騎士との邂逅
「あれが堕天使……!?」
それはノアが堕ちた天使と呼称するだけあって、どう見ても蜘蛛のような複数の多脚を備えた奇妙な機械だった。鋭い刃物のような脚の上にチカチカと赤く明滅する箱型の胴体が乗っかっている。
そして脚や胴体にはそれはさっき祓った森のように赤黒い靄を纏い、黒い胴体に血管のような赤い筋を張り巡らせていた。
堕天使は騎士に突進すると同時にその前脚を振り下ろす。黒騎士はそれを大剣で受け止め、そして押し返す。
しかし、その隙を狙ったように堕天使は箱型の胴体に備え付けられた機銃を乱射する。
黒騎士はそれを剣で受けながらも距離を詰め、大剣を堕天使の脚の付け根に振り下ろすとガキィンと甲高い金属音と火花を散らし、堕天使がよろけるように後退する。
「やはり硬い。一撃では決めきれんか。だが……一撃で無理なら二撃、二撃でも無理なら三撃、動かなくなるまで叩き込むまでだ」
黒騎士は体勢を立て直した堕天使を前にくぐもった声を発した。顔は兜に覆われてわからないが声からして男のようだ。
ボロボロの外套を羽織り大きな剣を携えた黒騎士と、赤黒く染まった機械の堕天使。
その戦いにライセリアは呆然と見とれていた。それはまるで映画のワンシーンのような光景だった。
堕天使の胴体から新たな武装が生える。
複数の筒をまとめて箱に詰め込んだような武装。
きっとあれはミサイルランチャー、ライセリアは直感でそう思った。
黒騎士は距離を離すと危険な代物と判断したのか猛然とダッシュする。しかし堕天使の攻撃が僅かに早かった。
ミサイルの群れが一気に射出され、煙を吹き弧を描きながら黒騎士に向かって殺到する。黒騎士は大剣でミサイルを切り払おうと――
「ダメぇぇぇ!!! それは避けてぇぇぇーーーーー!!!!」
反射的にライセリアは叫んでいた。機銃と違って切り払ったところであの爆炎を浴びてしまえば大ダメージは免れない。
彼女の叫びを聞いたからか、あるいは機銃と違う軌道で飛んでくるそれに違和感を覚えたのか黒騎士は後方に大きく跳躍する。
降り注ぐ爆炎、黒騎士も全ての爆風からは逃れられなかったらしく大きく吹き飛ばされると、ライセリアのすぐ側にまで転がってきた。
「だ、大丈夫ですか――!」
思わず黒騎士に駆け寄るライセリア、彼は背中を大木に強打しているようだ。
彼はふらつきながらも立ち上がるとこちらに向いて言葉を発した。
「なぜこんなところに教会の人間――チィッ! 天使まで――」
「ひっ――」
吹き飛ばされた衝撃で黒騎士の兜のバイザーが開いていた
そこから覗いた素顔は人間のものではなかった。
骨に直接茶色い油紙を張り付けたような顔には目も鼻も唇もなく、それらの代わりにぽっかりと空いた黒い穴。その暗い眼窩の奥で青白い光が灯っている。
まるでミイラのような顔にライセリアは小さく悲鳴を上げてしまう。
「ライセリア様! 今それは敵ではありません!」
ノアの声が響く、そう――骸骨騎士は堕天使と戦ってくれている。
その堕天使というと猛然と骸骨騎士に向かってくる。
「危ない――!」
「違うッ、奴の狙いは俺じゃない――天使のほうだ――!」
「へ……?」
堕天使の鋭い脚は骸骨騎士やライセリアを無視して、隣に浮いていたノアの胴体を刺し貫いていた。
「ノア……?」
骸骨騎士は堕天使の隙を見て即座に堕天使に大剣を振り下ろす。
金属質の胴体がひしゃげる音。堕天使の体勢が大きく崩れる。その拍子に脚からノアの身体が外れて地面に転がった。
「オオオオオオオオオッッッ!!!」
骸骨騎士が吼え、大剣を横薙ぎする。
堕天使はそれを受けて吹き飛び、大木に叩きつけられた。
しかしそれで攻撃の手を止めるようなことはしない。骸骨騎士はそれが動かなくなるまで……ただのガラクタと化すまで大剣を振り続けた。
そして――
「そこの娘ッ! 今すぐその天使から離れるんだ――! それはもう手遅れだ堕天するぞ!」
骸骨騎士が叫んだと同時に、地面に転がるノアの身体から赤黒い靄が吹き出した。
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