エピローグ: 孤高の錬金術師

悠斗がこの異世界に転移してから、長い年月が過ぎた。錬金術と魔法の力を極め、数々のダンジョンを攻略し、強大な魔物を倒してきた彼は、今や一人の孤高の存在として知られるようになっていた。


彼の名は、各地の村や都市で囁かれるようになっていた。「孤高の錬金術師」「誰にも従わない男」「一人で魔物を斬り伏せる異世界の探求者」。彼に関する噂は様々だったが、共通していたのはその圧倒的な力と、誰にも屈しない孤独な姿勢だった。


だが、悠斗にとってその噂や評判はどうでもよかった。彼はただ自らの道を歩み続け、さらなる成長を追い求めていた。誰にも頼らず、誰にも媚びず、ひたすらに強くなり続ける。その信念は、異世界に来た当初から変わることはなかった。


ある日、悠斗は自らの研究と鍛錬の場である森の中の小屋に戻ってきた。ダンジョン探索を終え、さらなる力を追い求める中で、彼は一つの疑問にぶつかっていた。


「本当に、これでいいのか…?」


今まで、悠斗は己の力を試すために戦い、錬金術と魔法を極めてきた。しかし、手に入れた力の大きさが増すにつれて、次第にその力を使う意味が曖昧になりつつあった。彼が異世界に来た理由はわからないが、この世界で生き抜くために強くなることが最優先だった。だが、いくら強くなっても、次第にその目的が見えなくなってきていた。


「俺は、何のために強くなろうとしているんだ?」


悠斗は自分に問いかけた。賢者の石という未知の力を追い求め、その手がかりを探していたが、それさえも遠い目標のように感じられていた。無限の力や不老不死を手に入れることが本当に自分の求めるものなのか――その答えを、まだ見つけられずにいた。


そんな時、ふと森の静寂を破るように、誰かが小屋の扉を叩く音が聞こえた。悠斗は眉をひそめながらも、扉を開けた。


そこに立っていたのは、一人の若い女性だった。彼女は探検者の服装をしており、肩には疲れがにじんでいたが、目には強い意志が宿っていた。


「あなたが、悠斗さんですか?」


彼女の声は真剣そのものであり、悠斗は一瞬、返事を躊躇した。だが、その強い眼差しに押されるように、頷く。


「そうだが…お前は誰だ?」


「私はリーナといいます。あなたの噂を聞いて、この森までやってきました。どうしてもお願いしたいことがあるんです」


悠斗は彼女をじっと見つめた。これまで、彼に助けを求める者は少なくなかったが、そのたびに彼は断ってきた。自分の道に他者を巻き込むつもりはなく、また他人に干渉されることも望んでいなかったからだ。


「俺は誰かの頼みを聞くつもりはない。他の誰かに頼むんだな」


冷たく言い放った悠斗に対し、リーナは食い下がった。


「どうしても、あなたじゃないとダメなんです! 村が…私の故郷が、魔物に襲われていて…貴族や商会の支援を受けた探索者たちでも太刀打ちできないんです。あなたの力を借りるしかない…」


リーナの目には、切迫した感情が滲んでいた。彼女の話を聞いても、悠斗は一瞬躊躇した。これまでの彼なら、他者の事情に関わることなく断っていたかもしれない。だが、彼女の必死な声には何かが訴えかけてくるものがあった。


「…俺に何を期待している?」


「あなたが、圧倒的な力を持っているって聞きました。誰にも頼らずに戦い続けているって。それなら、私たちの村を救うことができるはずです…どうかお願いします!」


悠斗はしばらくの間、リーナの言葉に耳を傾けた後、ゆっくりと考えを巡らせた。これまで、他人のために動くことは一度もなかった。だが、この瞬間、彼の中で何かが変わり始めていた。


「強さとは…他者を守るためにあるのか?」


それまで、ただ自己を鍛えるために追い求めていた力。しかし、それが他者を助けるためにも使えるのではないかという考えが、初めて彼の中で浮かび上がってきた。


「分かった。村に行こう」


悠斗は静かに立ち上がり、リーナの頼みを引き受けることに決めた。これまで一人で歩んできた道を少し逸れ、他者のために力を使うという選択をすることに、彼自身も驚きを隠せなかった。


リーナは感謝の気持ちを露わにし、涙を流して喜んだ。悠斗はその姿を見て、これが正しい選択だったのかどうかはわからないが、何か新しい道が開けた気がした。


村に向かう途中、悠斗はこれまでの孤独な日々を振り返っていた。異世界に来てから、自らを強くすることだけを目的にしていたが、それが本当に自分の求めていたことなのかは、ずっと分からなかった。


「俺がここに来た意味は、まだ見つかっていない」


しかし、この異世界で得た力が他者を救うためにも使えるなら、その力には新たな価値があるのかもしれない。悠斗はこれまでとは違う決意を胸に、リーナの村へと足を向けた。


村にたどり着くと、そこには荒廃した風景が広がっていた。魔物による襲撃で、家々が破壊され、村人たちは恐怖に怯えていた。だが、悠斗は冷静だった。彼の目には、これまで数々のダンジョンを攻略してきた経験がある。目の前の敵は、決して乗り越えられない壁ではなかった。


「俺が、守る」


悠斗は静かにそう呟き、魔物との戦いに挑んでいった。


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本日3話更新します。


ここまでで第1章が終了となります。


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