異世界で喪女は黄金を探すために、聖女になる

佐波 青(旧ほうろ)

第1話喪女、異世界転生し人攫いに合う

喪女、異世界転生し人攫いに合う。

喪女とは俗に言う、モテない女のことである。


私を表現するのに、これほど最適解な言葉もないだろう。


百瀬朱璃ももせしゅり、性別女、三十路、未婚。

この歳まで彼氏なし交際ゼロ歴。

容姿は日本人特有の黒髪黒い瞳に、中肉中背。

目立つような容姿もしておらず、モブ中のモブ。

休日は趣味の異世界転生ものの小説を読みあさり、地元の病院で看護師として働きながら、両親と愛猫のマメの三人と一匹で仲良く暮らしていた。


 そんな私が異世界転生し、盲目の少女になるなんて。



 ―――――――――――――――――――――――


 目を覚ますと、周りは暗闇に包まれていた。

ことにふと違和感を感じた。 

瞼を閉じて開けても、同じ暗闇のまま。

いくら夜といえど、部屋の窓から見えるはずのネオンの光が見当たらない。

しかも。

「下が冷たい」

手探りで真下を探ると、冷たく硬くゴツゴツしており、叩くと硬い感触が返ってくる。

まるで岩のようだ。

 夜勤から帰ってきて、コンビニで買ってきたお酒をちびちびと呑み、良い酩酊感の中ベットインしたまでは覚えている。

 この真下の感触…ベット特有の柔らかさを感じない。もしかして、酔って道端で寝ちやった?そんな馬鹿な。お酒に酔っても意識をなくしたことはないのに。…………うん、まずは家に帰ろう!

 そう思い立ち、立ちあがろうとした瞬間体に力が入らなかった。

 お酒のせい?

 なんか変な酩酊感がある。それに、変に空腹感もあって気持ちが悪い。

 ストレス解消にって、おつまみも食べずに普段飲まないお酒をいっぱい買ってガブ飲みしたせいかな。

 やっぱ、ストレスって溜めるもんじゃないわ。

 

 朱璃はふらつく体の支えになるような棒を真下、左右と探る。真下はなにも棒になるものは落ちておらず、右に手を伸ばせば空を切り、左に伸ばせば真下とは違うザラザラとした硬いものが触れた。なにかの壁のようだ。それを支えに立ち上がり前に進んだ。

 

 それにしても、暗いな。全く灯りがみえない。

 長い暗闇の道をしばらく歩き続けると、人々の声や馬の足音のようなパカパカとした音などが前方から聞こえ始めた。 

 こんな暗い時間に人がいるの?しかも、これ、馬の蹄の音?なんか、変ところで寝落ちしちゃったな。早く家に帰って、愛猫のマメちゃんと寝よ。

 

「あれ?」

 突然、手に触れていたはずの壁が消えた。

 壁が消えた瞬間から手に優しい温かさを感じた。

 進むごとに顔、首と上から下へ温かさが流れる。冷えた体の芯を溶かすような何かを探るうちに、近づいてくる何かに気づくのに遅くなってしまった。

 

「ッナァカ!?アンヤカジャバダルダ!」

 ぶつかった何かからけたたましい声を放たれ、驚いて後ろに転んでしまう。

 その声はまるで女の声のようだった。

 と仮定的な言葉を付け加えたのに理由がある。それを女と断定するには、女の姿が見えなかった。

「え?」

 暗闇の向こうから、耐えず女の声が聞こえてくる。

「シャンバラ、ジャンガァ!」

 聞き取れない言語の羅列が女の声で聞こえてくる。

 日本語ではない。

 これは外国語なのだろうか?

 どこの国の言語なのだろうか?英語なら少しわかるのに。

 あれ、でも外国語なら外国人の姿が見えても良いはず。その姿形さえ見えないってのは……霊?

 いやいや、ぶつかった時一瞬ではあるが体温を感じた。冷えた体には暑すぎるほどの体温を。

 しかも発する音は動物の鳴き声とも違く、言語として発せられている言葉のように感じる。

 声のする方の暗闇に再度目を凝らしてみた。

 ……やっぱり何も見えない。本当に何も見えない。

 ただ側に立っているのだけは感じだけだ。

 (人間じゃない…のかな。姿のない化け物のとか?)

 

「ナァカ、ナァカナァカ!!」

 

 バシャッ

冷たく、どろっとした生臭い塊を頭の上からかけられる。

「なに、こ」

 ガツッ

 塊の正体を探る前に硬い何かで頭を殴られた。

「……………………ぇ」

「ハァキ、ガルギンガディバ!」

 生まれてこの方初めて頭を殴られた。

 君子危うきに近寄らずをモットーに、三十年間真面目にルールに則って生きてきた人生において殴られるという場面に遭遇したことがない。

 朱璃は頭の痛みよりも危害を加えられた衝撃に驚いた。

(殴られるって、こんなに痛いし……怖いのか)

 呆然としている前もなく、体に受ける危害は止まらず続いた。朱璃は体を丸め、頭を手で庇った。

 叩かれながらも頭はパニックだった。

 (な、に……なにこれ)

 どこに逃げて良いかもわからず、叩かれる面を小さくするため、小さく小さく体を丸めた。

 甲高い声叫ばながら絶えず体を叩かれる。

(痛い……臭い……痛い痛い痛い。誰か、誰か誰か助けて!)

 

 朱璃は助けもないまま、女の声のする何かが飽きるまでまで叩かれた。その間誰の助けもなかった。

 

 ――――――――――――――――――――――

 疲れたのか女の怒号が止み、体を叩く止まるの見計らい、痛む体を震える手で支え、声や音のしないところへ辿り着く。

 そこは先ほどは違い、静かで臭ぃものが沢山あるところだった。

 おそるおそる触れると、形がさまざまなものが山のように積み上げられて置いてあるようだった。生憎ここには体温を帯びる化け物はいないようだ。

 朱璃はその山の中に身を潜めた。

 

 あれからどれぐらい時間な経ったのか分からない。

 何十回、何百回、何千回と瞼の開閉を繰り返しても太陽の陽の光を見ることが出来ないため、時間を把握することが出来ない。

 ここが地下室なら太陽すら見えないのは頷ける。しかし地下室で聞こえないだろう、鳥の声とおもしきキーキーと甲高い動物の鳴き声が聞こえる。

 ここはどこなんだろう。

 日本ではないことは確かだ。

 さっきの化け物はなんなのだろうか。

 実態が掴めないからこそ余計混乱する。

 途中で夢なのかと思って、頬を抓っても、たんこぶができるくらいに頭を叩いても、この悪夢はさめてくれなかった。

 やはり現実らしい。

いいや、何言っての百瀬朱璃!現実なわけないじゃん。

……でも現実じゃないとしたら、なぜこの体は痛みを感じるの?髪と体にかけられたこの異臭がいつまで消えず鼻にこびり付いたままなのは?

 ――現実じゃないなら、説明が、つかない。

 ――現実リアルだとしたら、この状況の全てに説明がつく。

 言葉も通じない、姿もみえない暗闇の中の世界に迷い込んだということに。

 

 精神よりはるかに、身体の方がこれは現実ものだと認識している。 

いや、何を考えているんだ。夜勤明けにベットで寝てたのに急におかしな所に来れるはずないよ。

 夜勤の激務が原因でアドレナリンが出まくって、きっと奇怪おかしな夢でも見てるんだ!

 きっと寝れば、寝れば、こんな悪夢から覚めるはずなんだ。


 

早く

早く早く

早く早く早く早く早く早く

早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く目を覚まして……!




 ゴミ山の中に独り、朱璃は気絶するように意識を失ってしまった。そのせいで自分の身に振り掛かる最大の危機に気づくのが遅くなってしまった。



 

 日に焼けた頭皮に刺青のある大男はゴミの山に赤らんだ顔で気持ちよく排尿していると、ゴミ山で眠っている少女を見つける。

 大男は乱暴な手つきで薄汚れた白金の髪を片手一つでわし掴み、少女の顔つきを見る。

 薄汚れた身なりとは比べ物にならないほど可憐な顔つきに、ニタァと醜悪な笑みを浮かべた。

 

「コンジ ワウンデレ」

 

 大男はしばらくニタニタと少女の顔つきを眺めると、意識のない少女を腕に抱え、連れていく。



 ―――奈落へと。

 


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