第21話 雪の新月の願い
僕は、夏祭りの演劇を見て、神社の伝説を信じて、杉子さんを神社に呼んだ。そして、演劇と同じ様に、新月の日にまた会う約束をした。すごく嬉しかった。しかし、恥ずかしながら、夏祭りからだいぶ時間が経っての冬の新月になってしまった。
十二月の新月は思っていた以上に暗かった。社の前の階段で彼女を待った。来てくれるのかと不安が過った、と思ったら、杉子さんの姿が見えた。安心で腰が抜けたのか立てなかった。
「ごめん! 待った?」
「全然待ってないよ」
待ち合わせ時間より一時間前から神社をウロウロしている僕はだいぶ待っていたが、そんな事もおくびにも出さずに言った。そして、お詣りしようと誘って、社の前に二人で立った。
新月の夜に、繋がりたい縁を祈念するとその願いが叶うというのが、この神社の伝説だ。僕は二礼をして、拍手をしようとした瞬間に、彼女が声を発した。びっくりして彼女の方を見た。
「ふざけないでよ! 何を神様に願うの?神様と付き合いたいの? 建が付き合いたいのは、神社の神様なの? 私は、私は、今、ここにいる人間だよ!」
杉子は叫んで、拝殿に背を向け、鳥居に向かって走り出した。
「待って!」
生まれて初めてこんな大きな声を出したかもしれない。
「待って! 僕の願いは違う!」
涙が出た。溢れた。声にならない声が喉から軋るように聞こえる。
「新月の願いは違うんだ。僕だって、そんな腰抜けじゃないよ!」
走って、杉子さんを追って、階段から転げ落ちた。顔面から落ちてメガネが割れた。血が吹き出た。でも、そんな事どうでもいい。叫んだ。血と涙で前が見えない。
「待って!待って!」
「待ってるよ。目の前にいるよ。」
近くで、杉子さんの声が聞こえる。目を開けると今まで見たことがないくらい近くに杉子さんの顔がある。
「杉子さん・・・す、す、好き、好きです。好きです。好きです。ごめん。本当に好きです」
「私も、建が好きだよ.。好きだよ。ずっと一緒にいたいよ。う・・・」
杉子は聞いたことのない泣き声をあげ鳥居まで走って行った。一瞬振り返った。何かを言ったようだったが、聞き取れなかった。
僕は、「何?」「何?」その言葉を聞かせてくれと、もつれる足に道を拒まれながら、彼女を追いかけた。
追いつかない。
「待って、待ってよ」
僕の言葉は虚しく宙を舞った。いつの間にか降って来た粉雪と共に・・・。僕は、参道の脇の砂利に膝を落とした。力無く砂利を握った。
杉子が、息を切らして戻って来た。
「あ、杉子さん・・・」
僕のことを見ずに拝殿の前まで駆け上がった。
二礼、二拍手。
「神様、八代建と川村杉子の縁をお繋ぎ下さい!三年間、三年間だけ、何卒お見守り下さい!」杉子は勢いよく一礼した。
杉子は建の前に駆け寄り、言った。
「三年、三年だけ。三年後に迎えに来て」
そう言って、僕の首を左腕で抱いた。
「神様も私も三年しか待たない。さらばだ! 私は卒業を待たず、ドイツへ発つ!」
そう言って、杉子は立ち上がり、背を向けて駆け出した。
建は立ち上がり、杉子の背に向かって叫んだ。
「必ず、迎えに行きます! 手紙も書きます。だから、待っていて、必ず行くから!」
その言葉を背に、杉子は右手の親指を立て、走り去って行った。
拝殿の裏からは、杉子を神社に呼び出したという情報を得た木下の手引きで、応援団の優奈と山瀬と三人が見ていた。
「は〜、杉子さんは、さらばだ!って・・・、若干、変なキャラだけど、どんだけ、男前なんだ? ありゃ宝塚の男役トップスターの器だね。全く、どっちが男か女か分かんないね・・・」
その優奈の言葉に、山瀬が応えた。
「そうですね〜。でも、これで腹が座ったんじゃないかな。これからの三年が楽しみだな〜。しかし、杉子さんいい女だね。八代君には勿体ないくらいだね」
その言葉に優奈は誇らしげに言った。
「杉子は私の真友、真の友だからね。当然だよ」
木下は動揺するように言った。
「リュ、リュウオウ殿も、悪くない男ですよ・・・私の真の友ですから・・・八代は」
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