第8話 夕暮れの美術室
ダンスコースは神社イベント以外にも大会に向けて猛練習が展開されていた。夏の夕陽が落ちる時分、杉子は、その練習が終わって教室から出て、美術室の前を通るとまだ人が残っているのを目にした。絵を描いているようだ。あ、りゅうおう君?夕陽に溶け込むように絵を描く建を見つけた。
ガラガラガラ。美術室のドアを開けると軽快にドアの滑車が滑る音がした。
「あ、ごめん。邪魔しちゃった?」
ドアの音に振り返る建に声をかけた。
「え、あ、いえ、誰?」
「あ、ごめん。ダンスコースの川村・・です。この前、コラボ授業で会った」
「あ、すいません。覚えてます。思い出しました」
忘れている訳がない・・・。
「ふ、覚えてないじゃん!今、思い出しましたって言ったもんね!」
「ご、ごめん・・なさい」
建は動揺に動揺を重ねて。謝った。
「そ、そんな、謝らないで、冗談だよ!何描いてたの?女の子?」
キャンパスを覗き込んで言った。
「あ、これは、まだだめ、途中だから」
建が慌てて、キャンバスの前に立った。
「あ〜好きな子でしょう〜」
茶化すように笑いながら人差し指をクルクルとしながら言った。杉子のその仕草に建は卒倒しそうな気持ちになった。
「スギ〜〜〜」
遠くから、優奈の声がした。
「あ、友達が呼んでるから、行くね。完成したら見せてね!その可愛い子も紹介してよね」
そんな言葉を残して、杉子は美術室を出て行った。
建は、疾風怒濤のような出来事の後に立ちつくした。
「この絵は、川村・・・杉子さんです・・・」
呼び慣れない名前を口にして、胸の高鳴りが更に激しさを増した。
「僕は、杉子さんが好きなのか・・・」
窓の外の夕陽が裾野を黒く染めながら、全てを真っ赤に染めていた。
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