第3話 棒ほど願って、よじれて叶う その1
「あんたはクビだよ」
「は!!?」
開口一番の衝撃的な一言に脳が理解を拒否してフリーズする。
1日の中で起こった<
確かに転職しようと行動を始めていたが、いきなり一方的な解雇通告を突きつけてくるのは些か過剰ではないだろうか?
二の句を継げずにいる裏で、こんな事態になるとは想像もしていなかったと今朝のことを思い返していた。
*
「うん、これは夢だな」
腕を組み、目の前の少年を見下ろしながら呟く。
大きな屋敷の庭で独り、少年は空虚な目を一切動かすことなく素振り稽古に励んでいる。
太刀筋は一切ブレることなく10回、100回、1000回と無機質に回数を重ねる様は、まるで機械のようだった。
そう、この少年は昔の自分……
どうやら俺は2夜続けてハッキリとした夢を見ているらしい。
「素振りが終わったね? 次は祓力の修行だよ!!ほれ、さっさと行きな!!」
近くの縁側から鬼の形相で子供の俺を睨みつける老婆が叫換を上げる。
この鬼ババアは
俺の上司……いや社長か?
とにかく立場の偉い婆さんで、この人が筆頭を務める
組織の名前に違わず幽世が絡む一切を牛耳っていて、証拠の隠滅や記憶の操作にはじまり、被害者のケア、そもそも問題への武力行使も含めた対処などなど盛り沢山だ。
ちなみに、忍者とはそもそも平安時代の陰陽道に端を発したものである。
陰陽術師の操る道術がそもそもあり、細々と受け継がれていったそれらを戦国時代に駆使して暗躍……もとい活躍した者たちが“忍”という集団として銘打たれたということだ。
したがって、“忍者”という職種の俺が、豪徳寺の婆さんの傘下に収まっているのは自然な形といえる。
パァン!!という大きな破裂音が響き渡り、そちらの方へ目を向ける。
円陣の中央で胡坐をかき、その手に燃え滓となった木札を持った子供の俺が無表情を貫いていた。
「やったなぁ~これ。たしか、限界まで祓力を物に押し込めて総量を鍛える訓練だっけ?」
そう、やる事は至極単純。
早い話が祓力の筋トレだ。
ただし、祓力とは物理的なものではなく、内から生じさせるもの。
消耗度は筋トレの比ではない。
しかし、子供の俺は次の木札を手に取り、また破裂させるのを繰り返す。
もはやただの壊れた人形のような有様だった。
「身寄りをなくしてこの家に召し抱えられたばかりのこの頃は、本当に空っぽだったもんな……」
眼前の光景が辛くなり、思わず空を見上げる。
自分の信条とは真逆に、空模様は快晴だった。
暫くして子供俺が糸の切れた人形のように地面に倒れると、どこからか桔梗の髪飾りをつけた小さな女の子が駆け寄ってきて人型のぼろ雑巾を引きずってどこかへ消えていった。
その場に誰もいなくなると景色が歪んでいき、目覚めの時を告げるようにあたりは白んでいった。
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