第2話 グレイな奴ら

一週間前。

「国から消された俺に頼るなんて、終わってるね国」

挑発的なリューの発言を流し、元騎士団長は去っていった。

「お前の首を落とすことがないよう、祈ってるよ」

バタン。

扉が閉まり、元騎士団長の気配が遠のいたことを確認すると、力を抜き床にぐでんと倒れ込む。

まったく一時はどうなるかと思ったが、今はまだ大丈夫そうだ。

ちらりとリューを見る。

オレンジ髪に隠れたその目は一体何を見ているのか。

オレは元騎士団長とリューの会話を思い出す。


「魔王の血を持つものの反逆」


「私も元部下にこんなことをしたくはないんだ。」

「俺はあの時しっかり相打ちだった。

あの時魔王は死んだ。

もし死んでなかったなら、俺の呪いの意味がなくなる。」


「平和への代償に得た半魔の体」


あの言葉はどういう意味だ?

魔王様との戦いにリューもいたのか?

こいつは、何者なんだ。


「魔王死亡の確認、もしくは魔王の現在の所在を明らかにすること。」

ドグの声で意識を現実に引き戻される。

 

「本当に、できるんですか?」

リューはさぁというように手をひらひらさせる。

「やらなきゃ死ぬんだからやるしかないだろ」

オレは口を開く。

「オレがお前たちに協力すると思っているのか?」

二人の視線が集まる。

少し緊張する。

リューは当たり前のように頷く。

「違うのか?」

オレは言葉に詰まる。

正直、協力しないとあの男に殺されることは目に見えている。

いや、協力した後にどちらにせよ殺されるだろう。

だからオレは魔王様を見つけたら、この二人を裏切り、人間を滅ぼす。

これがオレが生き残れる道。


オレはふん、と鼻を鳴らす。

「協力はしてやる、だが馴れ合うつもりなどないからな!」

がしがしと頭を撫でられる。

少しごつごつしている手がオレの頭を包む。

「ごめんな、巻き込んで」

顔を上げる。

だが、顔を隠すように手を離し立ち上がる。

小さなオレには表情までは見えなかった。

「とりあえず、こっち手伝ってくんね」



少しくすんだピンク色の壁の家の前に連れられた。

ドグが木製の扉を軽くノックする。

「ここに何の用があるんだ?」

また袋に入れられたオレは、少し顔を出しリューに聞く。

「あぁここは……」

「リュー、ドグ!来てくれてほんとに助かった!

さぁ入って!」

勢いよく手を引かれ家の中に連れられる。

家の奥から何やらいい匂いがただよっていた。

「今日もガキんちょの世話だろ?」

リューがオレをそっとおろす。

オレは袋に小さな穴を開けて、外を見る。

リューとドグの前にいたのは赤みがかった髪の女だった。

「マイカーさんは?」

「今仕事に出てて私一人なの」

女は疲れたように額に手を当てる。

「ご飯作ったり掃除したり、洗濯も溜まってるのよ、だけど弟たちが遊んでって聞かなくて」

そりゃあ大変だなとリューが笑って返す。

「で、ガキたちどこだ?」

周りを見渡すと、急に光が差し込む。

「何これぇ⁈」

袋から引っ張られ、強く耳を掴まれる。

「いたい!!」

一瞬空気が静まりかえる。

「え、しゃべった?」

しまった。

オレは口をつむぐ。

姿を見られたゆえに喋るところを見られた。

魔族だとばれる。

「こら!やめなさいカミル!」

女が手を引き剥がす。

引っ張られた耳がまだ痛い。

子どもがこちらを不思議そうに見ている。

「いたいの?」

お前が引っ張ったからだろうが!

と言いたいところだが言葉を飲み込む。

さらに子どもがまた現れ、オレの周りを囲む。

な、なんだなんだ。

丸い瞳がこちらを覗きこむ。

ひょい、と体を抱えられる。

顔を見ると、持ち上げたのはドグだった。

「実は魔力が込められた特別製の人形なんですよ」

子どもの目がきらりと輝く。

「まりょくがあると、しゃべるの?」

「しかも動きます」

すごーい!!

あっという間に子どもたちがドグの足元に集まる。

うまくごまかせたようでオレはほっと息をつく。

女がこっそりとリューにささやく。

「……あれ、高かったでしょ」

リューが苦笑いする。

「まぁ、少し」




「お名前なんて言うの?」

五人の子どもがぐるりとオレを囲い込む。

一番背の高い子どもが立ち上がる。

「お兄ちゃんがつけてやる!」

ぞわぁ。

五人の手がオレの体を触る。

ふわふわぁ!

角かてぇ!

しっぽ!

ぶちり。

尻尾の毛が一本抜ける。

「この!力加減がわからないのか!」

子ども達の動きが止まる。

だがそれも一瞬のこと。

「喋ったぁ!!」

歓声とともにさらに円を狭くしてオレの周りを囲う。

オレは助けを求めるようにリュー達をみる。

「でさぁ、そん時リポがねー」

「ドグもおんなじ事むかしやってたな」

「やめてください」

三人で机を囲み雑談していた。

お前が頼まれたんだろ⁈

仕事をしろ!

そんなオレの思いが届いたのか、やれやれというようにリューが近づく。


「おい、楽しんでるかガキんちょー」

子ども達が勢いよく返事をする。

「面白い!この人形さん!」

「名前つけた!ゴルノール!」

変な名前をつけるな!

そうかと子どもの頭を撫でる。

目線を合わせてしゃがみ込む。

「でも、人形さんは楽しくないみたいだけど?」

子ども達がこちらを見る。

「……お人形さん、楽しくなかった?」

少し不安そうな瞳が顔色を伺っている。

うっ。

オレは少し目線を外す。

「は、話を聞かないところを直せば楽しくなるかもな」

「だってよ、ちゃんと会話しようぜ」

こどもがうなずく。

「じゃあさ、ゴルノール何したい!?」

「ゴルノールじゃない!うりゅう様だ!」

「うりうり!」

「うりゅう!!」

ふとリューを見ると笑っていた。

人間はこんなふうに笑うのだとオレは初めて知った。




「ありがとうねリュー、ドグ。料理まで手伝ってもらっちゃって」

椅子にやっと座ることができたのは、子ども達何遊び疲れて寝た頃だった。

全く、いらん体力を消耗した。

「いーよ別に。マイカーさんには世話になってるし」

リューの言葉にドグが突っ込む。

「リューさんは料理してないですけどね、子ども達の相手もほぼ任せてましたし」

「うるせー」

くすくすと笑う女。

思いついたように、オレの前にしゃがみ込み目線を合わせる。

「ゴルノールちゃん、ありがとね」

は?

オレは言葉の意味がわからず首を傾げる。

「弟達すごく楽しんでたみたいだし、また来てくれたら嬉しいな」

リューが思い出したように言う。

「あー実は、しばらく俺たち家留守にしたいんだ」

「え?それってどういうこと?」

女の目が少し鋭くなる。

「マイカーさんに伝えといてくれ、あババァには内緒で頼む」

「ちょっと待って」

女がダンと机に手を叩く。

「なんで急に留守にするのよ、もしかしてまた家出するつもりなんじゃ……」

リューが慌てたように付け加える。

「それはガキの頃の話だろ?ちげぇよ、その、良いトマトが最近出回ってるらしくてそれを探しに行こうと思って」

「トマトぉ?」

女の疑いの目は変わらない。

「ほんとに、大丈夫だからちょい時間かかるかもだけど。とりあえず座れって。」

渋々座る女。

ため息をついた後、ジト目でリューを見る。

「んで、なんでパナさんには内緒なのよ、パナさんいつもリューのこと心配してるんだからね。」

「お願いだ、頼むよ!」

リューは机に頭をつける。

ドグをちらりと見る。

ドグも同じように頭を下げる。

「……僕もついていきますから」

女はドグとリューを交互に見た後、またため息をついた。

「ちゃんと帰ってきてよね、みんな待ってるから」

パッと顔を上げる。

心底ほっとした顔で、ありがとうと言った。

女と視線が合う。

「ゴルノールちゃんも、また遊びにきてね」

オレは少しぎこちなくこくりと頷いた。


帰り際、近辺の家に行きリューはしばらく家を開けることを説明した。


家に帰ると、リューとドグは荷物をまとめ始めた。

オレは窓際に座って二人を見ている。

日も落ち始めていて、外はオレンジ色に染まっていた。


外には家に帰る人がぽつりぽつりと歩いているだけ。

魔鳥も巣に帰るため北に飛んでいく。


…………。


「なぁ、半魔の呪いってなんだ」


リューの手が止まる。

オレはリューを見ないまま言葉を続ける。

「あの騎士団長の男とは、どういう関係がある」


リューは散らばった服をダンボールにつめる。

返事はない。

遠くで魔鳥が鳴いている声がする。


「ドグには、言ったっけ」

ドグが静かに首を振る。

リューはまた黙り込む。

パタン。

ダンボールを閉じる。


結局リューは何も教えてくれなかった。



「はいはーい俺オレィ……へーおもしれぇんじゃんいいよ俺がやる、報告?いいよそんなん、んばいばーい」

ぶん、と映像が消える。

椅子に座っていた男がにやりと笑う。

「……さぁ、どうしてやろうか」

不揃いに伸びた黒髪が揺れる。

男が腰につけられた鎖を取る。

同時に鎖が小型ナイフに変わる。

しばらく眺めた後、また鎖に戻す。

 コンコン。

ノックとともに鎧を着た男が部屋に入る。

一度部屋を見渡してから、黒髪の男を見る。

「……だいぶ疲労が溜まっているようだな」

「誰のせいだかね」

ははは、と鎧の男が笑う。

「見回り言ってきまーす」

黒髪の男はあくびを残して部屋を出た。


リューはオレと会って約一日で街を出ていった。

まずオレ達はカウという魔獣を探すことにした。

北の方に現在いることは確認済みだ。

オレだってまだ魔族の仲間と関わりはある。

だが、裏切り行為である情報のリークをしていることがバレればオレは殺されるだろう。

そうならないためにも、オレはこいつらに守って貰わなくてはならない。

オレが使える魔法は少ない。

頼りにしていたタイガーは倒されてしまったし。

オレは大きなため息をつく。

それでも歩みを止めることを誰も許してくれないのだ。


具体的な場所がわからないため、宿を転々としながら情報を集めつつ今オレたちは北に向かっている。

街を出て一週間。

リューたちは聞き込みをしながら出会う人々の依頼を受けていた。

依頼と言っても、川に落ちたボールを拾ってくれだの物を運んでくれだのそんなものばかりだ。

今日だって家に止めてもらう代わりに、脱走した魔馬を追いかけて走り回ったのだ。

本当に疲れた。


「おつかれ」

リューに水が入ったコップを渡される。

オレは大人しくそれを受け取る。

ゴクリ。

冷たい水が体に染みる。

いきかえるぅ

水を一気に飲み干す。

ちらりとリューを見る。

リューもオレの隣に座り水を飲む。

オレの視線に気付き、首を傾げる。

「……どした?」

オレはプイッと横を向く。

横を向いた視線の先。

黒い髪の男が倒れていた。

し、しんでる?

リューも気づいたようで急いで駆け寄る。

「大丈夫か?」

リューが声をかけると、ぴくりと手が動く。

ゆっくりと手が動きオレを指差す。

「肉……」

あ?もしかしてこいつオレを食うって言ってんのか?

オレが文句を言おうと口を開くと後ろから口を塞がれる。

口を塞いできたのはドグだった。

「……バレる」

小声で3文字だけささやく。

オレは大人しく人形のふりをする。

あ、でも少し動いちまったな。

リューが倒れている黒髪の男を担ぐ。

「とりあえず部屋に運ぼう、エナさんに話通しといてくれ」

ドグがこくりと頷き、歩き出す。

エナとは今夜の宿主だ。

優しそうな雰囲気の老婆だ。

心よく快諾するだろう。

二人が去った後、オレはぽつんと外に残される。

……人に見つからないようになら動いてもいいよな。




部屋に行くと、黒髪がむしゃむしゃと果物を食べていた。

オレは黒髪にバレないようにそーっとベッドの下に潜る。

ベッドの下からこっそり様子を伺う。

「まじで助かったわ!うまい果物食えてサイコーだし!」

「腹減ってたのか?」

リューが黒髪の横に座る。

「いや全然?」

けろっとした顔で答える黒髪。

それにしては食い過ぎだろ!

大量の果物の残骸を見ながら心の中でつっこむ。

「いやそれにしては食いすぎだろ」

リューが真顔で同じことを突っ込む。

そんなリューも気にせずむしゃむしゃとまたつぎの果物に手を伸ばす。

「食べれる時に食べなきゃもったいねぇだろー?人はいつ死ぬかわからねぇんだからぁ」

リューがこくりと頷く。

「……確かに」

ガチャ。

扉が開き、ドグが入ってくる。

ドグは部屋に入るなり、大量の果物の残骸を見て顔をしかめる。

「なんですかこれ」

リューが困ったように頭を掻く。

「前に街の人にもらった果物、持ってきてただろ?腹減ってたみたいだからあげたんだよ」

「いやこれが何かではなく、この量はなんなんですか多すぎでは?」

もっともだ。

黒髪を見るといつの間にか食べるのをやめていた。

机の上には果物の残骸が高く積まれている。

「ありがとなこんなにうまいもんくれて」

「で、お前なんで倒れてたんだ?」

口を拭い、答える。

「知ってたか、地面って冷たいんだぜ」

自信満々な顔をする黒髪。

黒髪以外のオレを含む三人は頭にはてなを浮かべる。

「草がな、ひんやりしていて気持ちがいいんだよだから時々外で寝るんだよなー」

こいつ変人だな。

オレは白けた目で黒髪を見る。

よっこらせと黒髪が立ち上がる。

「オレも質問していいか?」

「いいけど」

黒髪はおもむろにオレの方に近づきベッドの下を覗きこむ。

「これ何ぃ?」

黒髪の目が急に現れオレは思わず頭をぶつける。

声が出ないように咄嗟に塞いだオレを褒めて欲しい。

ドグは知らないふりをしてとぼける。

「なんのことですか?」

黒髪はベッドの下に手を突っ込みオレを引っ張り出す。

うわっ!

急に明るいところに出て目が眩む。

黒髪はオレをジーっと見つめる。

ふんっ、と勢いよく尻尾をふり黒髪から離れる。

「わ、動いた本物ぉ?」

黒髪が軽く目を見開く。

オレはリューとドグに視線を向ける。

リューはわたわたと目を泳がし、ドグは額を押さえている。

「……人形なんです、特殊な」

そうだ、まだそれで誤魔化せる。

オレは人形のようにできるだけ可愛らしい顔をする。

黒髪は不思議そうにオレを見つめる。

汗がたらり。

「魔術具ってことか?こんな魔具初めて見たな、魔具なら魔法陣が描かれてるはずだけど一体どこに……」

ばっ、とリューがオレを袋の中に入れる。

「……俺にはみせてくんないの?」

黒髪は笑顔を浮かべているが、どこか底がしれない。

リューはにこりと笑う。

「魔力切れだ」

「そっか、それならしょうがないなぁ」

黒髪は立ち上がる。

「そろそろ帰るわ、食べ物ありがとうな」

「あんま道端に倒れてると心配するからな、ほどほどにしろよ」

ひらひらと手を振る。

ふと扉の前で立ち止まる黒髪。

首だけ動かしてこちらを向く。

「俺はガレイ、またなリュー」

扉が閉まる。

オレはリューを見る。

リューは特に気にした様子は見せず、ベッドに寝転んだ。

だがオレは何か嫌な予感が頭によぎっていた。



残念なことにオレの悪い予感は的中した。


冷たい空気が体を逆撫でし、目を覚ます。

「あ、起きた?

あのさー寝起きで悪いんだけど、

お前達、反逆罪で死刑な」

明るい声色とは反対に、重苦しい空気が流れる。

ゆっくりと目を開けると同時に、心臓がどくんどくんと波打つ。

心臓の音で眠っていた体がだんだんと目を覚ます。

心臓の音がうるさい。

落ち着けオレ落ち着け、心臓。

リューに会ってからこんなことばかりだ。

いくら心臓があっても足りない。

威圧感。

殺意ではない、好奇の目でオレたちは値踏みされているんだ。

底がしれない恐怖。

機嫌を損ねれば即息の根を止められそうだ。

オレはぐっと歯を食いしばる。

体にぐっと力を込め、逃げ出そうと手を動かすが、固く結ばれた紐で身動きが取れない。

隣を見る。

同じく縛られているリュー。

いつものようにただ座り込んでいる。

あくびをする余裕すら見せる。

なんなんだこいつは!

空気が読めないのか?!

オレはこいつらと行動すると決めた自分を今になって恨む。

弱音を飲み込み、オレは現実から目を逸らすように目を閉じる。

もう一度寝たふりをするオレを見て、声は近づく。

「……起きろ、おーい起きろーあれ死んでる?」

近づく声を聞いてオレはおそるおそる顔を上げてみる。

目の前に見えたのは、見覚えのある黒髪だった。

オレは思わず後ずさる。

いた!

体を見ると何か紐でぐるぐるに縛られていた。

全く解けない。

魔力が込められているのか。

オレは黒髪の、

ガレイと名乗った黒髪の男を見る。

視線が合うと、ガレイはへらりと笑う。

「良かった生きてんじゃん」

歩くたびにじゃらじゃらと金属が擦れ合う音がする。

ガレイの腰を見ると鎖のようなものが巻いてあった。

悪趣味な格好だな。

上はしっかりめな白い学ランのような服をきている。

金色の細かい模様が描かれていて、妙に綺麗な服はボサボサな黒髪とあっていない。

オレは恐る恐る周りを見渡す。

薄暗い灰色の部屋。

コンクリートの固い壁がひんやりと冷たい雰囲気を出している。

それにしても何もない。

ここにはオレとリューそれにガレイの三人しかいない。

……うん?ドグはどこだ。

なんでオレとリューだけがここにいるんだ。

オレはそっとリューに近づく。

リューもオレに気づき、顔を寄せる。

「ここはどこなんだ」

オレが聞くとリューはさぁと肩を上げる。

リューはガレイに視線を向ける。

ガレイも視線に気付きへらりと笑う。

「状況の説明が必要か?」

「ドグはどこだ?」

ガレイはリューの言葉にくくくと笑う。

「……青髪のやつな、あいつは外で待ってるよ」

「ふーん」

リューは周りをぐるりと見渡し、ガレイに視線を戻す。

「で、これはなんだ。目が覚めたらキツく縛られてるわ、反逆罪がなんとかとか、よくわかんないんだが」

「あぁ」

ガレイがオレに近づき体をがっと掴む。

そしてにやり。

オレをリューに見せつけるように顔の前に突き出す。

「あんじゃん心臓」

どくんどくん。

心臓の音がまた早くなる。

どくんどくん。

リューは少し目を細める。

そんな反応を楽しむように声を弾ませ喋る。

「はは、こいつあれだろ?魔獣しかも魔王軍の残党、最近ここらでも魔族の被害が酷くてな、手がかりを探してたんだよ」

ぎゅ。

オレを掴むガレイの力が強くなる。

ぐっ離せ離せ!!

オレは必死に抜け出そうとするが反対に逃すまいと力は強くなる。

「魔族は人類の敵、完全勝利と思われた魔王との戦いが終わっていなかったってことになったら国は大混乱だ!

その証拠でもある、その魔獣を匿う理由はなんだぁ?

……なぁ、教えてくれよ」

リューは黙ったままガレイを見ている。

オレはガレイの話を聞きながら違和感を感じていた。

こいつは、魔族のオレを見て魔王様の生存を

危惧してリューを反逆罪で死刑にすると言っているということだ。

そこまで見抜けたこともすごいが、なぜこいつは、反逆罪で死刑にすると言ったんだ?

そもそもオレたちはググラから魔王捜索を条件に一度見逃されている。

なのになぜまた殺されそうになっているのか?

ガレイも騎士団に関係がある人間なのか?

ガレイを見る。

笑顔を浮かべ、好奇の目でこちらを見ている。


……知りたい。


そう目が語っていた。


「…………………久しぶりに、…………だけどなぁ」

ぼそりとリューが何かを呟く。

小さな呟きはきっと誰にも聞こえなかっただろう。

リューはつまらなさそうに言う。

「ググラ元騎士団長がこの件の責任者だよ」

リューの言葉に明らかにガレイは顔色を変えた。

「ググラのおっさん?

……うわこれ説教案件か?どう言い訳しよ」

ここで初めて動揺を見せた。

仲間じゃないのか?

ググラと情報の共有がされていない?

とりあえず、勘違いってことで終わりそうだ。

ガレイはぶつぶつと呟いた後、こちらを見る。

ずんずんとこちらに近寄り縛っていた紐に触れると、魔法が解けたようにするすると紐が解かれる。

……助かった?

オレはふぅと息を吐く。

とくんとくん。

心臓はまだ小さく鼓動している。

紐を解くとガレイは力が抜けたように地面に倒れ込む。

「はぁーまじダル」

とりあえずこちらに興味がなくなったらしい。

オレはリューに駆け寄り早く部屋から出るよう催促する。

だがなぜかリューは動かない。

ガレイをじっと見ている。

「なんで、俺の名前知ってたんだ」

ガレイが顔をこちらに向ける。

「んー言わなかったっけ俺に」

「……そうか」

リューはそう言って部屋を出た。

振り向くと、ひらひらとガレイが手を振っていた。

口が小さく動く。


またね。


『警戒しろ』


黒髪から覗く目はオレの心臓に向けられていた。

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