第392話 祭り
スチーラーズが買い出しから戻ってきた翌々日、16時をお知らせする四の鐘が鳴り響けばお祭りが始まった。
冒険者たちは一か月前からこの日を楽しみにしており、ちょっと遠出をしていた人達も戻ってきていた。
スチーラーズがもっと早く戻ってきていれば、彼らはこのお祭りに参加できなかっただろう。
「え~、ゴホン。サマニア村の諸君、今日のこの祭りを企画してくれたのは一昨年前から村で生活をするようになったスチーラーズの面々だ。
知らない者もいるかもしれないが、彼らは冒険者としての力を磨くべく、このサマニア村で訓練を行い、最近はプレーサマ領内のダンジョンを巡って鍛えていた」
木組みで作られた演台に村長が立ち、開会のあいさつが始まった。
「彼らが鍛えるきっかけとなったのは、アルクの娘ヴィオのお陰だという事だ。そのヴィオが、今回7歳という最年少での銀ランク昇格をした祝が今日の祭りの趣旨となる!
他所者はあまり受け入れてこなかった我らだが、素晴らしい冒険者となったヴィオや、子供だからと侮らず、訓練を共にして鍛え直したいと思った冒険者たちがいた。
風の季節は気を付ける必要が勿論あるが、それ以外の季節でも少し柔軟に受け入れても良いかもしれんと思っておる」
私の近くにいた若手冒険者の人達がマジかよ、7歳でってやべえな、などザワザワし始める。
「フォッフォッフォ、まあそんな堅い話はこれくらいにしておこう。酒は日が落ちてからの提供じゃ。子供達も参加できるこの時間は節度ある楽しみ方をしよう! では乾杯!」
ハロルド村長が開会の挨拶を行い、皆で乾杯をすれば祭りの始まりだ。乾杯と言ってもこの時間にお酒は無し、全員がジュースやお茶での健全な乾杯です。
紹介されたスチーラーズの3人は、住民たちからもみくちゃにされながら口々に褒められている。
彼らを知らない人はいない筈だけど、実際に関わることがない人たちもいた筈だ。こんな祭りを企画してくれてありがとうと盛り上がっている。
そうか、祭りって人と人の距離が近づくから、普段関わらない人たちとも繋がりが出来るんだね。
だから町内のお祭りっていうのが昔はあったのかもしれないね。大人になるにつれ祭りは減り、賑やかで、屋台も沢山あって、花火もあるような祭りだけが残り、町内の盆踊りだけのような祭りは消えて行った。
町の人たちは回覧板だけでの繋がりとなり、隣近所に住む人がどんな人かすら知らない世の中になっていたと思う。
スマホやネットが普及して、それこそ世界のどこにいても、誰とでも繋がれるようになった分、近い場所にいる人たちとの関係は希薄となって行った。
何でもネットで買えるようになり、置き配が出来るようになれば、それこそ誰とも会話をすることなく様々な商品を手に入れることが出来、食事も出来るようになった。便利だったかもしれないけど、それでいったいどれだけのモノを失ったんだろうか……。
便利だっただろうコトやモノの記憶はあるものの、それを唯々享受していたであろう私は、この世界でそれらを作り出すことは出来ない。ああ、炊飯器は作ったね。
電子レンジはないし、コンロは魔道具があるけど、うちでは薪を使っている。ダンジョンなどの野営時にコンロじゃ足りないから、別に今のままでいい。
科学が無くても魔法があるから、然程不便ではない。いや、クリーンなんかは掃除洗濯トイレ事情までをマルっと一括で解決してくれるから、逆に便利かもしれないね。
だけど、流通が然程復旧していないから、こうして甘い珍しい物を手に入れるにはコネと足とお金が必要だ。私とお父さんだけなら勝手に色んな町へ行って食べ歩きをすることは出来る。だけどこんなに多くの子供たちをいっぺんに喜ばせることは出来なかった。
それをやってくれたスチーラーズの3人は凄いと思う。名前は相変わらず呼べないけど、まあしょうがない。
「びおたん、こえ、おいちーよ」
お父さんと草むらに座って祭りの様子を眺めていたら、トテトテと走ってくる白髪の美少女。尻尾がブンブンしているから、バランスが上手にとれなくてあまり速く走れない。だけど獣化しちゃうと持っているフルーツ串が落ちちゃうから、必死で走ってる。カワユイ。
「クッキー 勝手に走って行っちゃ駄目! って ヴィオか。ああ、それで走ったんだね。もう、僕と一緒に行こうって言ったでしょ?」
「あい、にーちゃ、めんね」
後ろから走って追いついたのはお兄ちゃんの顔をしているハチ君だ。どうやらもう1人赤ちゃんが産まれたらしくって、お母さんは赤ちゃんとお家でお留守番。なので今日はハチ君がクッキーちゃんと一緒に行動しているみたいだね。
ハチ君とナチ君は、タキさんとお揃いの黒髪に黒耳の黒ラブちゃん。お母さんとクッキーちゃん、それから産まれたばかりの女の子は白ラブちゃんらしくって、クッキーちゃんも髪と耳はベージュっぽい白なのだ。
クッキーちゃんからフルーツ串を差し出されたので、ありがたく頂いて頭を撫でたらめちゃんこ喜んでくれた。
「お~い、ヴィオ! 食ってるか~?」
次に来たのは黒猫三兄弟。ここも妹が生まれたばかりなので、リリウムさんはお留守番。ランダさんは屋台で頑張ってるみたいだね。
肉串のタレをホッペにくっ付けたままの黒猫ボーイズは、両手に食べ物を持ってワンパク食いをしているみたいです。
「凄いね、スチーラーズの3人はこのままサマニア村に住むのかな?」
「どうじゃろうな。まあけど今回の事で受け入れられた気はするな。
前までは素性の知れん奴という考えの方が強かったじゃろうが、一年以上生活をして、努力をしておるところも見ておる奴らが増えたじゃろう?
前回よりも確実にトラウト漁で力をつけているところを見て、皆も感心しておったみたいじゃ。今回の事で年寄連中も受け入れてもええと思ったんかもしれんな」
うん、そう思う。
孫が楽しんでいるところを見て喜んでいる祖父母世代の人たちが彼らを受け入れれば、若くて彼らと接触機会が多かった人たちはすでに受け入れ準備が出来ているからね。もし彼らがこの村に住みたいと言っても受け入れてもらえるだろう。
「おう、まさか年下のチビに追いつかれるとは思ってなかったけどすげえな!」
「俺らの方が先輩だからな、もし困ったことがあったら相談に乗ってやってもいいぞ」
レン君たちと別れたら、冒険者の少年たちが近づいてきた。彼らは薬草採取の時に川に落ちかけていた人達だったね。オラオラ系のちょっと面倒な人たちだったらしいけど、いつしか心を入れ替えて、街中依頼や解体練習もするようになり、銀ランクになった人たちだ。
彼らと手合わせをした事はないけれど、学び舎卒業後、全く訓練場に来なかった彼らは、心を入れ替えた時以降、訓練場にも聖の日には参加するようになっていたとエデル先生から聞かされたんだよね。
「そうだね、もし困ったことがあったら聞くことがあるかもだね」
多分その時にはお父さんとかに聞くから解決しているけども、何となく男心を立ててあげた方が良いのかなと思って肯定すれば、満足そうに去って行った。
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