第188話  ダンジョンの準備


 2日も早くお兄ちゃんたちが到着して嬉しかったんだけど、そうなった理由を聞いてちょっとゲンナリしたよね。

 付きまといに無理やりな勧誘って……。


「ギルマスが発表してくれたんじゃったら、あと数日は皆がダンジョンに潜っとるじゃろうな。

 弟子希望の奴らも依頼を受けたんじゃったらしばらく動けんじゃろうし、もしこっちに来たとしても儂らがダンジョンに入ってしまえば 探すことは難しい。いつ上がってくるか分からん相手を待つことはないじゃろう」

「うん、ギルマスもそれを考えて良い時間に索敵の公表をしてくれたから、人がいない時に移動することが出来て助かったよ」


 私たちが町を出た後の話を聞いて驚いた。どこも買い物にも行けないし、武器屋でさえそんな事言うなんて。


「ん~、でも お兄ちゃんたち、結局武器のお手入れ出せなかったんでしょう? 大丈夫?」

「おぉ、それだけどな……」


 武器は冒険者の命でもあるからね、心配して聞いてみたらルンガお兄ちゃんから 魔法を積極的に使ってたから武器にはほとんど傷みが無かったのだと教えてもらえた。

 確かに練習と魔力操作の訓練を兼ねて途中からは 殆ど魔法だったし、何なら最後のほうは武器収納してたね。


「それにな、魔法だから長距離攻撃になっただろ? 今回のダンジョンは回復薬使ってねーんだわ」


 クルトさんの言葉に、そういえば回復薬のかわりに回復魔法の練習がしたかったことを思いだした。


「自分たちの無茶過ぎる攻撃方法に気付けたなら良かったんじゃないのか? 上級ダンジョンを肉の盾だけで行くのは無茶じゃからな」


 肉の盾って、奴隷とかを敵の攻撃を受ける為に最前列に並べるっていう、鬼畜系物語で読むやつですよね。まさか身体強化しているからと自分自身の身体を盾がわりにしてぶち当たってるって、思った以上にワイルドな戦い方をしていたんですね。

 それは毎回回復薬が必須になるのも仕方がないですが、今回のダンジョンではそんなところ見せなかったよね? 見せられてたらビックリし過ぎて大変なことになってたと思うけど。


 お父さんも普段の戦い方を聞いてちょっと呆れてたけど、それが冒険者の常識じゃなくて良かったよ。


「肉弾戦まではしないでほしいけど、私も回復魔法の練習になるから怪我した時は 教えてね。まだ上手にできるか分からないから 回復薬も使ってもらうことになると思うけど」


 無茶はして欲しくないけど回復魔法の練習はしたい、そんな事を伝えれば3人は快諾してくれた。上手にできるか分からないというある意味実験体になることを怖いと思わないのだろうか。


「別に効果が出なかったとかくらいだろ? 怪我したところから何かが生える訳でもないだろうし、傷が広がって大出血するとかじゃねえなら問題ないだろ。

 それよりヴィオの回復技術が上達してくれた方が、将来的に良いだろ?」


 何かが生えるって怖すぎるし、そんな事にはならないとおもうけど……。


「ふふっ、お兄ちゃんたちもクルトさんもありがとう、早く上達できるように頑張るね。あっ、だからといって無茶な戦い方はしないでね」


 念のために言っとかないと、回復の練習をさせるために素手で肉弾戦とかやりそうで怖い。トンガお兄ちゃんからワシワシ頭を撫でられて無茶はしないと約束してもらえました。



 翌日と翌々日はダンジョンに入る為の準備をすることにした。

 武器屋さんに武器を見てもらうのはこのダンジョンを踏破した後で良いという事だったので、主に食料品の買い出しかな。いや、豊作ダンジョンっていうから然程食材もいらないか。


 買い出しの途中、水樽を売っているお店が目についた。というか色んな雑貨屋さんの前に水樽が並べられているから嫌でも目に付くというか……。


「お父さん、こんなに樽の販売してたっけ? 特売かな」

「う~ん、なんじゃろうな」

「僕たちもこんなに樽の売り出しが凄いのは初めて見たけど……、おじさん、この樽って特売かなにかしてるのかい?」


 トンガお兄ちゃんが店先に樽を移動している最中の店員さんを捉まえて聞いてくれたんだけど、思ってもなかった答えが返ってきた。


「おお、兄ちゃんたちは冒険者か? だったらギルドで習ってくるべきだぞ。

 木の日にな、なんと飲める水を作り出せる魔法が発表されたんだ! 王都のど偉い研究者先生でな、誰でも練習すれば使えるように 呪文もちゃ~んと考えてくれたうえで発表してくれたんだ。

 水の持ち運びがある意味不要になるからな、各店に置いてた在庫の空樽を大放出してんだ。今までは深いダンジョンに入る度に十数樽必要だったのが、パーティーで1つか2つで充分になるだろ? だから空の樽を特売してんだ」


 お陰で倉庫のスペースに余裕が出来るようになるし、良い事尽くめだと笑いながらお店に戻ってしまった。

 そっか、ドゥーア先生の発表が遂に行われたんだね。思ってたより時間はかかったけど根回しが必要だって言ってたから、それに時間がかかったのかな。


「ドゥーア先生凄く忙しくなってそうだね。夏に行っても大丈夫なのかな」

「そうじゃなぁ。まあ 忙しいようなら、王都の観光だけして帰るのでもええんじゃないか?」


 確かに。

 忙しすぎて私の事を忘れている可能性もあるし、だったら王都観光だけしてゆっくりダンジョン巡りでもして帰ればいいか。

 あ、でもお兄ちゃんたちがいないとダンジョン巡りは厳しいかもだね。仕方がないとはいえ、幼児に見えるこの身体は辛いねぇ。早く成長したいもんだ。


 お兄ちゃんたちは水生成魔法が使えるようになっているし、既に樽も各自のマジックバッグに入っている。

 まだまだ慣れていないから、樽ひとつを満タンにするにはそれなりに時間がかかるみたいだけどね。あの魔法は魔力操作が上手になれば集められる水分量が増えるからいくらでも水を作ることができる。

 お兄ちゃんたちは自分の得意属性で魔力操作の練習をしているし、野営中も安全地帯にいる時は魔力切れギリギリまで練習しているらしいから、直ぐに上達すると思うんだよね。


 その後は野菜やお肉の購入を少しだけ行い、お宿に戻ってクルトさんにフリーズドライ魔法を教えながら食材準備を行った。

 お兄ちゃんたちはお父さんの指導のもと、野菜類のカットと生活魔法の【ドライ】で乾燥野菜を大量に作ってくれている。


 水生成魔法が使えるようになった事で、乾燥野菜があるだけで野営料理のボリュームと栄養が満点になることを実感したらしいので、非常に3人ともが真剣に取り組んでいる。

 やっぱり美味しは正義だよね。


  

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