第166話  護衛依頼(付き添い)休憩


 馬車の御者台は視界が良くて楽しかったんだけど、なにより尻が痛かった。

 速度も一頭引きの時速3km/hレベルの遅さではなかったけど、それでもウォーキングくらいの速さであり、いつもの私たちの移動速度が10km/h程度だと考えると大分遅い。ということで途中からは私も馬車と一緒に歩いて移動した。


 普通の商人と護衛の場合、トイレ休憩が時々挟まれるらしいんだけど、元銀ランク冒険者の御者さんとその相手に慣れ親しんだ冒険者だ。

 用を足したいと思えば列を離れてシャシャっと済ませてダッシュで戻ってくる。

 サッサさんはあれですよ……【クリーン】をかけながら済ませるらしいです。


「したいな~って思ったら 【クリーン】をかけるだろ? そしたら終わるまでグルグルしてっけど終わったら消えるからな。ダンジョンで絶え間なく魔獣が出てくるところで編み出したんだが、これが便利でな」


 やってみれば分かると言われたけど遠慮しておきます、それをするくらいなら壁を何枚か作ってやりますから……。


 そんなちょっと驚きの冒険者情報も貰いつつ、馬車は走り続ける。

 だけどお馬さんも疲れちゃうからね、夕方まだ明るいうちに野営地に到着して、そこで野営をすることになった。

 馬のハーネスを外し、お水をあげて干し草をあげ、馬がムシャムシャ食べている間にサッサさんはブラッシングをしてあげている。


 私たちはその間にヒト用の夕食の準備とテントの準備だ。といってもテントを張るのは私とお父さんの分だけ。

 護衛の時は商人さんをゆっくり休めるのもお仕事だから、お兄ちゃんたちは交代で仮眠をとる。

 テントに入ると対応が遅れるから、こういう時はマントに包まって雑魚寝的な感じになるらしい。


「テントの中に敷くマットを準備するくらいじゃな」


 今夜はお父さんとクルトさん、お兄ちゃんたち2人の二交代にするんだって。

 私は護衛のパーティーに入ってないし、どちらかと言えば護衛される側だということでゆっくりテントで寝て良いと言われている。


 夕食のスープはサッサさんが居るので、普通のスープを水から作ったよ。フリーズドライのあれは知る人が少ない方が良いと言われているからね。

 それでもお父さんのミックススパイスで味付けされたお肉は大好評だったし、乾燥野菜をたっぷり入れたスープも美味しいと喜んでもらえた。


「人通りが多いって聞いてた割に、全然人と会わなかったね」


 夕食中に思っていた事を尋ねてみた。この野営地も私たちしかおらず、全く気遣う必要なくテントを準備している。

 勿論遅い時間に誰かが来る可能性もあるし、真ん中にドーンと構えている訳ではないけどね。


「ああ、それは今日が木の日だからだな。大きな街を繋ぐ街道は馬車が沢山走るだろう? そういう人通りが多い道の場合、事故防止も兼ねて一方通行になるように 道が二本準備されているんだ。俺たちが使っているこの道はプレーサマ領都からグーダン方面に向かう為の道、プレーサマ領都に向かう道はもう少し東にある道を使うんだ。

 大抵の商人たちは、週の初めに領都に向かって領都で商売をする。で、週末にかけて地元に戻るんだ。

 だけど俺は工房で使う為の石を持っていくのが目的だから、混み合う時とは逆に動くようにしてるって訳だ」


 だから東の道は混み合うけど、こっちの道は歩いて旅する冒険者とか、乗合馬車くらいしか走らないだろうって事だった。

 ということは、明日も他の冒険者とか商人さんを気にしないで良いって事?

 だったら風魔法のあれを使ってもよくない?


「お父さん!」

「ん、なんじゃ?」

「あのね……ゴニョゴニョ ゴニョゴニョ」

「ああ……、まあそうじゃな。サッサじゃったらええかもしれんな」


 お父さんに内緒話で相談してみる。

 お父さんもあの魔法でビュンビュン走るの楽しんでたもんね。馬にかけるというよりは、サブマスがしてたみたいに荷車の重量を浮かせるように風を当ててあげるだけでも早くなるんじゃないかな。そう言ったらお父さんも乗り気になってくれた。


「サッサに提案なんじゃがな……」


 という事で お父さんが風魔法の説明をしてくれる。

 サッサさんは不思議な顔をしてたけど、聞いていくうちに段々顔がキラキラし始めて、最終的には「面白そうじゃねえか!見てみたいぞ」と言い出した。

 まずは大事な荷車に見知らぬ魔法をかけられるのは怖いだろうから、こないだのお父さんのように抱っこしてもらって、サッサさんに追い風を当てて走るのをやってみる。


「なに、どういう魔法な訳?」


 お兄ちゃんたちも興味津々で見つめているけど、風魔法は魔力視が出来ないと分からないんじゃないかな。

 そう思いながらもサッサさんには、この野営地の外側を一周してほしいと告げる。


「よし 来い!」

「じゃあ やるね【ウインド】」


 サッサさんの背中と、足元を少し掬い上げるように風魔法を展開する。

 走りながらでも良かったけど止まったままだったサッサさんは、グイっと何かに押されるように前にトトトっと走り出した。

 と思えば 掬い上げられるような感じの風もあるから、飛ぶように一歩が大きくなる。タッタッタというよりは、ポ~ン、ポ~~ン、ポ~~~ンというような感じだ。


「おお、おおお! なんだこりゃ! おもしれ~~~」

「えっ、なにあれ!? 面白そう! ヴィオ、次僕もやりたい!」


 野営地の外側を跳ねるように凄いスピードで走るサッサさんを見て、お兄ちゃんたちも立ち上がって大興奮。

 何となく馬たちも首を持ち上げて見つめているから驚いているのかもしれないね。


 興奮するサッサさんを二周目が終わったところで魔法も止めて終了してもらう。

 続いてお兄ちゃんたちもやりたいと言うもんだから、複数人に同時にできるかの実験に付き合ってくれるなら、というお願いの元、3人一緒に走ることに。

 私を抱っこするのはトンガお兄ちゃん。左右にルンガお兄ちゃんとクルトさんに並んでもらって【ウインド】を3人同時に背後と足元に展開する。


「お、お、おぉ!」

「これは、すげえ!」

「これ、広すぎるダンジョンとか移動にいいんじゃねぇか?」


 結果、複数人でもちゃんと想像してたら魔法は同じようにかかりました。

 お兄ちゃんたちも、今日は一日ゆっくり歩きだけだったからか、三周ほど楽しんで走ってましたけどね。


「これを荷車にやるってことか、確かにそしたらこいつらは荷車の重さをほとんど感じることなく走れそうだ。だとしたらかなり速く走れるだろう。

 ただ、そんなに長時間ヴィオが魔法を使って魔力が大丈夫かって心配はあるけどな」

「ああ、荷車だけにするんじゃったら下からの吹き上げる風だけで十分じゃろう? 馬が引く分追い風は要らんじゃろうし、儂らは走ってもええ」


 え? 護衛依頼の時は走ってたらエンカウントした時に疲れちゃって役に立たなくなるからダメって言ってなかった?


「ヴィオ、この道は武闘派で名高いプレーサマ辺境伯領都に続く道だよ?

 多分このリズモーニ王国で一番安全な道だ。まあもし盗賊が出たところで、走ったくらいで体力切れなんて情けない姿は見せないから安心して」


 パチンとウインク頂きました。

 確かにお父さんのスパルタ訓練を受けている3人が、街道を走るくらいで体力切れなんてなるはずがないね。

 という事で、明日は荷車を軽くして早く移動しちゃおう作戦が決行されることになりました。


 作戦名がダサいとか言わないでね、分かりやすさが一番です!

  

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