4.急がば回れ

 ======= この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 夏目房之助・・・有限会社市場リサーチの会社の実質経営者だった。名義代表者は、妻の夏目優香。

 夏目優香・・・有限会社夏目リサーチ社長。コロニー被爆の疑いで3日間隔離された。

 笠置・・・夏目リサーチ社員。元学者。元経営者。

 高山・・・夏目リサーチ社員。元木工職人。

 榊・・・夏目リサーチ社員。元レストランのシェフ。元自衛隊員。

 久保田管理官・・・警視庁テロ対策室所属だが、引きこもり犯人との交渉人を勤めることもある。EITO初代司令官。

 久保田あつこ・・・EITOエマージェンシーガールズ。警察からの出向なので、時々警察の仕事もする。久保田管理官の甥でもある、夫の久保田誠が、いつもあつこの仕事のフォローをしているが、今日は、家の、息子のフォロー(育児)の為に仕事のフォローが出来ない。

 新里警視・・・警視庁テロ対策室勤務。「落ちない被疑者はない」と言われている。


 ===============================================

 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==



 ※夏目リサーチは、阿倍野元総理が現役時代に設立された会社で、警視庁テロ対策室準備室が出来る前に出来た。スーパーや百貨店の市場調査会社が、「隠密に」テロ組織を調査するのに適していると、副総監が判断し、公安のアシストとしてスタートした。

 夏目リサーチは、民間の市場調査を行うのと併行して、危機的状況を調査する、国家唯一の調査機関である。

 ※このエピソードは、「大文字伝子が行く308」と連動しています。


 午後10時。浅草、浅草寺裏手のビル。夏目リサーチ社分室。

 笠置以下、古参のグループが作業に入った。

 作業。それは何か、マッチングシステムによる、『面割り』だ。

 表向きの市場調査は、『通行人調査』だ。カウンターをカチカチ。あれである。

 このとき、隠しカメラで通行人を撮影している。

 遠隔操作の為、カチカチのバイト君には分からない。

 幸い、件のスパイは、『市場調査の報告書』の整理作業を行っていたので、このカラクリは分からない。

 夏目リサーチには、市場調査の際に得られた膨大なデータが集まっている。

 公安またはEITOの要請で、『市場調査』の振りして監視・張り込みが行われることもある。

 誰も、カチカチやっている人間に『盗撮』されているとは思わない。

 言わば、『くろこ』だから。


 今回は、暗殺された、興梠太郎、石橋茂樹、大泉駿次郎の3人の元大臣、元総裁候補の関連データ探しだ。

 市場調査データと、3人の落選総裁候補の家の近くの防犯カメラ映像データを先ずマッチングする。マッチングは、色んなデータを組み合わせるのだ。急がば回れ。地味な仕事だ。

「3人とも、池袋サンシャインシティに入って行く人のデータの中にマッチングするな。新しい拠点か。」と榊が言った。

「防犯カメラ映像の顔データと前科者データの顔データが一致したようだ。」と、高木が言うと、「どれどれ。」と、笠置が覗き込んだ。

「牛込良二。58歳か。元公衆会か。広域暴力団員が、ダーティー・ブランチにスカウトされたか。流石に、今回は分散攻撃したから、隙があったね。残りもヒットするかな?」

 1時間待ったが、牛込以外に手掛かりになるデータは抽出出来なかった。

 笠置は、警視庁の久保田管理官に電話した。

 電話に出たのは、久保田あつこ警視だった。

「ご苦労様。」「あ、警視。昼間はエマージェンシーガールズやって闘っていたんじゃなかったんですか?」

「うん。残業。書類仕事貯まってて。牛込良二ね、あ、こいつか。後は?」と、電話の向こうで前科者データを確認しながら、あつこが尋ねた。

「残念ながら。仮に枝A、枝Bと呼称すると、枝Aも枝Bも運転免許証データ、お名前カードデータと合致しませんでした。あ。メールで送っておきました。」

「まあ、1人だけでも手掛かりになるでしょう。伯父様に報告しておきます。EITOにも報告しておきます。ありがとうございました。」

 笠置が電話で報告している間、榊がビーフストロガノフを料理して、夜食に持って来た。

 トシを食ったら、油物は、特に夜食では、と他人が聞いたら眉をひそめるところだったが、3人は平気だった。

 健康管理はちゃんとやっているのだ。世間は、固定観念があると、そこから前へ出られない。

 3人とも、フォークやナイフを扱うのと同じくらい、パソコンが使える。

 市井に出れば、「年寄り」「高齢者」だが、引け目に感じたりはせず、なすがままの生活スタイルだ。

「あ。3人ともナイフガンのナイフらしい。ガンが無くても間近で刺されたらしいから、どうしようもないね。石橋なんか防衛大臣はやったことあるけど、多分スリでも簡単だよね、普段から隙だらけだから。」

 フォークを動かしながら、自衛隊経験のある榊が言った。

「蟋蟀は、小学校の時、野球部だったらしい。それでバッティングセンターで負けた憂さ晴らししようとして、客に化けた、刺客にやられた。間抜けだね。」

 高木が笑った。

 2人とも釣られて笑った。

 笠置のスマホが鳴動した。「はい。」社長の夏目優香ではなく、夏目房之助警視正だった。

「ありがとう、みんな。3人の枝の内1人じゃないよ、笠置さん。5人の枝の内の3人だ。今朝の総理官邸襲撃を指揮した枝、赤坂聖子、とエマージェンシーガールズとの闘いを指揮した大出さとるを入れると、牛込良二で3人だ。明日からの新里警視の取り調べで全貌が判るかも知れない。」

「夏目さん。今までにない『枝』の投入ですね。」「ああ。他の2人は不明だが,牛込は『鉄砲玉』やってた男だ、元反社もスカウトしての作戦だった。」

「それにしても、よく早朝と午後の襲撃を予測出来ましたね。SNSの文章、私には判らなかった。」「人それぞれ得意分野があるってことですよ。じゃ。」

 笠置が電話を終えると、榊は言った。

「デザート、何にします?」

 ―完―

 ※このエピソードは、「こちら中津興信所41」に続きます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る