第十四話 #コユキとクロの関係

 わたしの名前はコユキ。

 日本でCランク探索者として活動している21歳だ。


 世界中に突如出現したダンジョン。

 このダンジョンを探索するのを生業としてる。

 

 ダンジョンの中はモンスターがいて、そのモンスターを倒すと手に入る魔石を売ってお金を稼いでいる。


 探索者は辛いことが沢山ある。

 モンスターはわたし達人間を見ると、ところ構わず殺そうと襲いかかってくるから結構怖い。

 モンスターを殺すのもあんま好きじゃ無いし、怪我だってしたくない。

 もうやりたくないと何度思ったことだろうか。

 

 それでもわたしが探索者を続けているのには訳がある。


 それはクロの存在だ。


 クロは幼稚園の頃からの幼馴染で、家も隣だったから小さい頃から仲良く遊んだりした。


 でも中学生の時、クロへの恋心を自覚してから、クロと上手くコミュニケーションが取れなくなってしまった。


 顔を見るだけでテンションが上がっちゃって、上手く話せなくなって。

 でも、クロに好きだなんてバレたくないからいつも嘘をついて逃げてしまう。


 何があっても第一にわたしに話してくれるし、友達の少ないわたしがクラスの和に入れるようにいっぱい気を使われた。


 嫌いだなんて、一緒が嫌だなんて、そんなの思っていないのに、わたしに関わって来る度にそんな言葉を投げつけた。

 照れ隠しでそうしてしまった。


 その度に顔が曇るクロを見て、わたしは罪悪感に苛まれだ。

 本当に、本当に最低だ。

 

 そうした嘘を重ねて重ねて。

 ついにはクロからわたしに関わって来なくなった。


 それでもクロと一緒がよかったから高校だって同じところを選んだ。

 

 三年間クラスは一緒だったから話せる機会が沢山あると喜んだ。

 それでも視界に入れるだけでドキドキしちゃって、高校生活でも上手く話せた試しがあまり無い。

 酷いことも沢山言った。

 わたしは子供だ。


 それでもクロはわたしと毎日登下校を共にした。

 決してクロから誘うことは無かったが、わたしが一緒に学校に行くの! と言うといつも隣を歩いてくれた。

 今思えばクロは優しすぎた。

 わたしはクロの優しさに漬け込んでいたのだ。

 本当に最低な女だわたしは。


 高校生活も終盤に掛かろうとしているとき、自分の進路を選択しなければならなかった。

 

 わたしは、とりあえずはいい大学に入って、いいところの企業に就職すればいいかーなんて、フワッとしたことだけ考えていた。


 でも、クロは探索者になるとか言い出した。


 それを聞いたわたしは『そうなの』と一言だけ。

 目をすごい輝かせて最強になるとか言っていた。


 家に帰って思った。

 高校までは一緒になれても、そこからは別の道を歩まなくてはならない。


 クロが大学に進学するんだったら、絶対一緒の大学にしようと思っていた。

 でもクロは探索者なんて危険な職に就きたいって言った。


 わたしはそんな職に就いて欲しく無かったが、クロの将来まで否定してしまったら取り返しがつかなくなると思って口にはしなかった。

 そんなこと言ったら、別々になった時に関係が終わってしまうから。


 そこでわたしは気づいた。

 このままだと高校を卒業したらクロとはもう一緒に居られなくなってしまうって。


 ただここでクロに探索者になるなって言ったところで、関係が終わるか、今のままの違いでしか無かった。


 今のままの関係で、クロと一緒に居られる方法。


 それはわたし自身も探索者になる事だった。


 大学に通いながら探索者になる方法も無くはなかったが、それはしなかった。

 覚悟を決めるために。

 わたしは専業で探索者になることを決めた。


 3月にある試験を突破すると、4月から探索者になりたての人は探索者研修と言って、半年間座学や実習をしなければ無かった。

 

 合格発表日は卒業後で、そういえばクロって勉強はできる方では無かったけど受かってるかな……なんて不安に思っていた。


 わたしは勉強は割とできる方だったので、とくに合否の心配はしていなかった。

 後日見たらわたしは受かっていた。


 そして探索者研修初日。

 そわそわしながらダンジョンギルドに向かったわたしは、クロの姿を探していた。

 そこにクロの姿はちゃんとあった。


 わたしは嬉しかった。

 これでまたクロと一緒に居られるって、そう思った。

 

 テンションが上がってしまったわたしは、思わずクロ! とクロを見て叫んでしまった。

 それを聞いたクロはわたしを見るなり、驚いたと思えば、すごく嬉しそうな顔をして言った。



「コユキも探索者になったのか! よかったよ、知り合いが一人も居なくて心細かったんだ。高校では避けててごめんな。これからはまた仲良くしようぜ、コユキ!」



 その言葉を聞いたわたしは、救われた気分になった。

 それと同時に罪悪感が生まれた。


 これからはということは、これまで中学高校では仲良く無かったけどという意味合いだろう。

 わたしから突き放したのに、クロはここでは仲良くしようと、歩みよって来てくれたのだ。

 本当になんてクロはお人好しで、こんなに優しいのだろうか。


 わたしはもう後悔はしたく無かった。

 だから今日からクロとまた昔みたいに仲良くなるんだと、素直に生きることを決めた。


 できることならクロと同じパーティに入り、クロを支えていきたい。

 クロにこれまでの行いの反省をとして。

 そう思った。


 だが、わたしたちなりたての探索者は、ダンジョン協会側が決めた三人一組でパーティを組むみたいだった。

 

 わたしとクロは同じパーティにはなれなかった。

 しかし、クロがどっちがいい成績取るか勝負しようぜ! と勝負を持ちかけてくれた。


 パーティは違うが、半年間研修を頑張れたのはこの言葉のお陰だと思う。

 研修のある度にわたしはクロと沢山お話をした。


 座学が難しいとか、講師の探索者が可愛いとか、そんなたわいもない話を沢山した。

 まるで学生のとき関わって来なかった時間を埋めるように。


 時折向かうからSNSで連絡してくることがあって、わたしのこと友達だと思っていてくれてるんだ、と嬉しくなった。


 通話も沢山した。

 なんかカップルみたいで嬉しかった。


 わたしは実習の成績はあまり芳しくなかったから、座学の方はクロに勝とうと必死に勉強をし、一番を取った。

 その度にクロが褒めてくれるのが嬉しかった。


 クロは座学の時間はだいたい寝ているか、絵書いてしていてあまり成績はよく無かった。

 実習の方はダンジョン探索者としての才能があったのか、クロのパーティが毎回ぶっちぎりの一位で好成績を残していた。

 クロ、運動神経はすごいもんね。


 それから、半年が経ち、研修最終日のEランク昇格試験の日になった。

 クロとは一緒に合格して、なんなら一緒にパーティ組もうぜ! と約束をした。

 それと試験に合格したら伝えたいことがあると言われた。


 告白かな? なんだろう? でもクロだし斜め上のことかもなー! なんてワクワクしながら次の日の試験に備えて寝た。


 そして試験当日。


 試験の内容は”探索者の引率なしで、パーティだけでゴールの五階層まで行く”というものだった。

 

 試験が始まり真っ先に飛び出したのは、もちろんクロのパーティだった。

 

 わたしたちも遅れて進んで行った。


 そして、わたし達のパーティが四階層に到着した時に事件が起こった。


 魔物侵攻モンスターパレードを引き起こし、Dランクモンスターの大群が猛スピードで四階層まで逆流してきたのだ。


 地響きと共に、目の前に現れるDランクモンスターのシーウルフの群れが現れた。

 まだ探索者ですらないわたしたちにはDランクモンスターには手も足も出るはずもなく。

 逃げることしかできなかった。


 逃げるわたしのパーティは道に迷いながらも一目散で逃げた先は行き止まりで、追い詰められてしまった。


 これはパーティのリーダーをしていたわたしの責任だ。

 パーティの戦士ファイタータンクの人は完全に萎縮して、戦意を喪失していた。

 このままだとわたしたちはシーウルフの群れに喰い殺されてしまうから、なんとかこの状況をどうにかしようと考えた。


 しかし、わたし達を取り囲むモンスターの一匹と目があってしまった。

 恐ろしいほどに殺意を感じる程の赤い眼と目があってしまい、わたしは恐怖から動けなくなってしまった。


 シーウルフがわたしに迫ってきた。

 しかしピタリと動くことはできない。


 わたしは悟った。

 このままモンスターに襲われて死ぬんだと。

 

 でも今までクロにしてきたことを考えれば妥当なのかもしれない、その報いが今来たのだと、そう考えると不思議と死ぬのは怖くなかった。


 ごめんね、クロ。約束守れないや。


 どうせなら最後一目クロを見てかったななんてて思って目を瞑る。

 後悔だらけの人生だったが、この半年は最愛の人と仲良くできたしよかったよと。

 今までの人生を締めくくる。


 ああ、でもクロが伝えたかったことが聞けなかったなぁ。

 

 目を瞑り、随分と長い時間過ぎたように思う。

 恐る恐る目をあげる。

 わたしの身体にキズは一つも無かった。


 その代わり、目の前にはキズだらけのクロがいた。


 さっきまでいたシーウルフの大群は全てが消滅していて、ダンジョンの床には大量のドロップ品であろう魔石が大量に転がっていた。


「よかった、コユキが無事で、本当に、」


 その言葉と共にクロは意識を失った。


 その後は駆けつけた探索者の方々が私たちを保護してくれて、ダンジョンすぐ近くの病院に搬送された。


 病室でわたしは後悔をした。


 わたしは最低だ。

 わたしのせいでクロはキズだらけになって、大怪我を負った。

 

 わたしがあの時に目を瞑らず回避していれば、クロの背中に今でも残る大きな傷跡を負うことはなかったのだ。


 クロはわたしと関わらない方がよかったのかも知らない。

 クロと一緒にいたいだなんて思わなければクロは怪我をすることがなかったのに。

 最初から、クロと出会わなければ、クロはあんな目に合わなかったのに。


 そう泣き喚いたって、誰もわたしを責めなかった。

 仕方なかったことだと、そう言って宥められた。


 わたしは一人謝りつづけた。

 わたしを何度も助けてくれた人を思い浮かべて。

 




 そうして、医師の全力を尽くしてくれた結果、クロは意識を取り戻した。

 一週間ぶりだった。


 クロとあってわたしは泣きついた。

 なんどもなんども謝った。

 今までのことも、今回のことも。

 そして助けてくれてありがとうと、何度もお礼をした。


 そしてクロは、




「俺がコユキのことダンジョンで助けたってなんだ?」



 


 クロは探索者研修が始まった頃から昇格試験までの記憶が無くなっていた。


 あの時交わした約束も、何もかも全部全部全部、無かったことになった。


 なにより、クロに伝えたいことを、伝わせることができなかった。


 試験は再試に。そしてクロはまた研修を行う様だ。

 この半年の間にあったことは、クロが混乱しないように口外しないこと、とダンジョン協会側から強く言われた。


 もしクロから話かけられても初対面の様に振る舞うこと、元々知り合いだったら研修初日のときの様に振る舞ってくれというお願いもされた。


 そうして、わたしとクロは研修初日の頃の関係に戻された。

 



 

 そこから数日後。

 クロは一からまた研修を受け始めた。


 半年の記憶は無くなって大怪我を負う大変な目に遭っても、クロは探索者になる気でいた。


 もう怪我なんてして欲しくなんか無かったけど、それは私のエゴでしかないからそっと胸の内にしまった。


 まだ探索者になる気でいるクロ。

 怪我をして欲しくないわたし。

 それでも探索者なんて危険な仕事では怪我を繰り返すだろう。


 そのあと試験に合格したわたしはクロが怪我しても治すことのできるように、回復特化の魔法使い、ヒーラーを目指すことにした。

 それに回復魔法の中には記憶を取り戻すものもあるかもしれない。


 そうすればクロを支えられると思ったからだった。


 …………だから、回復魔法の勉強に集中したいからって、クロとは連絡をほとんど取らなかった。

 クロから連絡が来ても冷たい態度取ってしまったこともある。

 

 勉強が分からないところあるから教えてくれって言われて。

 それでも、わたしはアンタの為に魔法論理が数ある魔法の中でも、トップクラスに難しい回復魔法を勉強しているんだから邪魔しないでよと。


 クロは、記憶が無くなり周りに置いて行かれている状態だ。かなり心細かっただろう。

 わたしは研修も終わり、試験にも合格してクロよりは余裕があった。


 それでも少し、いや、明らかに距離は置かれているってのは分かる程に距離を置いていた。


 言い訳だけど、あれだけ関係を築いたあとに、また一からスタートになったから、どう接すればいいか分からなかったから。

 あとは思った以上に回復魔法の論理が難しくて理解ができず、荒んでいたのもあった。

 つまりは八つ当たりだ。

 

 

 



 

 更に半年後。

 クロは昇格試験でとんでもないやらかしを引き起こす。


 道なりにいくとめんどくさいと、一階層から五階層まで穴をぶち空けたのだ。 

 自分のパワーだけで。


 試験は中止に思われたが、試験のゴールである五階層の転移遺跡までは行ったし、普段の実習の成績を加味して見事昇格試験には合格した。


 それも一気に三つも上がってCランクにまで上がった。

 

 合格したのは分かるが、飛び級なんて前代未聞だし訳が分からなかった。

 なんでそれが許されたのかも。

 風の噂で耳にしたが、ちょっとしたいざこざがあったがそれをクロが解決したみたいなものらしい。


 だが、Cランクには上がったことは事実。

 わたしはEランクで、クロはCランクの探索者になった。

 

 クロが合格したらパーティを誘うかわたしは迷っていたが、クロは真っ先にわたしのところに来て『一緒にパーティ組もうぜ』と誘ってくれた。

 

 わたしは言い淀んでいたが、クロはわたしがいたから研修を続けることができたと言った。


 わたしといたから傷ついたと言うのに。

 それにわたしは初級回復魔法が使えるだけのいい的だ。

 戦闘力だったら同期の中で一番しただ。

 そう伝えたのに。

 

 『俺が、コユキとパーティを組みたいんだ。コユキじゃなきゃいけないんだ』

 そんなこと言われたら断れなかった。

 

 そしてわたしとクロはパーティになった。


 




 それから二ヶ月後。


 クロはまた記憶を無くした。


 記憶を無くしても尚、探索者を続けるらしい。


 そしてわたしは、クロとのパーティを解消した。


 


 今思えば最低なことばっかしているな、わたし。

 本当に後悔ばかりの人生だ。

 そして、それはきっとこれからも。





 

 だから……って結論になるのはおかしいかもしれないが、二度記憶を無くしても夢に向かって走り続けるクロを支えるために、そしてクロの記憶を取り戻すために。


 わたしはわたしの為に探索者を続けている。

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