お前に、手伝ってもらいたいことがあんだけど

加ヶ谷優壮

お前に、手伝ってもらいたいことがあんだけど


「――よっ、加藤! 元気してたか?」


 昼下がり。

 学校の駐輪場でそう後ろから声を掛けられ、俺は振り返る。この声には聞き覚えがある――クラスメイトの、河谷かわたにだ。


「まあ、元気っちゃ元気だよ。そっちは?」

「オレ? 部活で毎日死にかけてるよ。意外にも体育館の中が外よりも暑くてさー」

「あー、そうかバドミントンって窓開けられねーもんな。そりゃ、暑いわけだ」

「バスケ部が羨ましいぜ」

「なら、バスケ部入れば良かったじゃん。女子にもモテるぜ?」

「うるせー」


 そんなたわいない話を続けながら、俺は自転車の鍵を外し、


「お前、どっから出んの? 正門?」

「いや、裏門」

「じゃあ、俺もそっちから出るわ」


 そう言い、俺が自転車を跨いだ瞬間、河谷が低い声で「……実はさ」と前置きし、


「お前に、手伝ってもらいたいことがあんだけど」


「なに? 別に俺、今日暇だからいいけど。ってか、俺じゃなくて、部活の友達に頼んだほうが早かったろ」

「いや、それがみんなバスでさ」

「あー、一緒。今日めっちゃ暑いから、家遠い奴は自転車じゃなくてバスで来るもんな」

「そうそう」

「で、手伝いってのは?」


 俺がそう本題に踏み込むと、河谷が俯きながら、


「……誰にも、言うなよ?」


「わーってる、わーってる。――で?」


「…………簡潔に言う。オレの部屋にある意外な……両親の、なんだけどさ……それの、片付けを……お前に手伝ってほしい」


 河谷の両親が持ってる意外な物の片付け? そんなん勝手に片付けちゃっていいのか?

 それに、意外な物ってなんだろ。全く想像がつかない。一応、聞いてみるか?

 いや、でも河谷の様子を見ると……うん、聞かないほうが得策だな。

「――うしっ、いいぜ。とりま、河谷ん行こ」

 そう言い、俺は自転車を漕いだ。

 やけに耳に残る河谷のぶっきらぼうな返事を聞きながら。



§



 ――数十分後。

 河谷の部屋に入った俺は絶句した。

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