061

 久しぶりに帰ってきた故郷こきょうの門を通り、出迎えてくれた母達にリフテット達を紹介する。泊まる場所がないので宿をとって交代で護衛をしてもらうつもりだ。


「おかえりなさいユミル。ベガルーニ様達にご迷惑をおかけしなかった?」


「いろいろ面倒はかけたと思うけど、やらかしはしなかったから大丈夫だと思うよ。」


「それならいいのだけれど。出発してから本当に心配で心配で。」


 そう言って母は頬に手を当ててため息をついた。

 王城での式典以前の細々とした事だけでなく、パーティの相談など色々と動いてもらったので、べガルーニ様夫婦にはとてもお世話になってしまった。

 これだけ色々と世話を焼かないといけないのでは、自身の従者が手柄を立てたからといって貴族にするのを断るのも当然と言えるだろう。

 苦労が増えたあげく、育てた部下が居なくなるのだからやってられない。

 従者自身も主人が苦労しているのを間近で見ていれば、余程の向上心こうじょうしんが無ければ貴族になることを嫌がりそうだ。


 今後の予定は実家で一週間ほど過ごして、きちんと別れを済ました後オーキンドラフ様の領地へと出発する事になっている。

 やることもないので村を散歩した後、ゴロゴロとベッドの上で本を読みながら寝転がっていると、珍しい事にゾーラから話しかけられた。


「ユミル、暇ならキレイになる魔法の使い方を教えて欲しいのだけど。」


 目を逸らしソワソワと落ち着き無く体を動かしながらおねだりをしてくる妹に、私は一も二もなく飛びついた。


「いいよ!練習するなら外へ行こうか。」


 ベッドから飛び起き、妹の背中を押して玄関へと向かう。

 普段は怖がって近づいて来ようともしない妹が、勇気を出して歩み寄って来てくれているのだ。ここで引く選択肢は無いだろう。


「じゃあまずはゾーラはどのくらい魔法が使えるようになったの?キレイの魔法を使ったことはあるんだよね?」


「使った事はあるわ。でもあんまり汚れが落ちなかったりするの、3回くらいしか使えないから汚れを落としきれない事があって…」


 キレイの魔法は汚れの範囲や濃さによって必要な魔力量や回数が変わる魔法だ。

 最大魔法出力の問題で範囲が広くなると魔力が薄くなり、汚れが落ちにくくなってしまうのだろう。


「魔法を使う前にまずは汚れがどういうものなのか考えないといけないんだ。

 染み込んでいる汚れなのか、表面にくっついているだけなのかとかね。

 出来るだけ範囲を小さくして、魔力を濃く保つ事で汚れを落としやすくする事ができるんだよ。」


「じゃあ魔力量も出力も無い私じゃ大きな汚れは諦めるしかないの?」


 不安そうに聞き返してくるゾーラに、なんとか姉の面目を保つために無い頭を必死に回転させる。

 今までキレイの魔法で魔力量に困った事なんて家中に使っていた頃だけなので、一度で足りないなら何度も使えばいい!と力任せに解決してきたのだ。

 教え始めてみたものの、良く考えたら私は効率の良い使い方なんて知らなかった。


「何度も使える魔力が無いなら増やせば良いんだよ!私の訓練法を教えてあげるね!」


 水で洗ってからキレイの魔法を使うなど、小手先の誤魔化し方はあるけれどそんな事はとっくにやっているだろうし、根本的な解決にはなっていない。

 なら魔力量が少ないという根本的な原因を解決してあげれば良いんだよ!


「いいかいゾーラ、魔法の授業では魔力は水のような物で、それを圧縮し岩のように固めるイメージをすると習うけれどそれだけじゃ足りないんだ。

 サラサラの水の様な魔力を、水を入れすぎたパン生地の様にドロドロにして、そこから圧縮する事で私は倍以上の魔力をたくわえられるようになったんだよ。」


 早速試してみたのか、ゾーラの中心に今まで以上の魔力が集まっていく。


「そのままだと身体の中心しか濃度が上がってないから、その状態を楽に維持できるようになったら、その濃度のまま全身を循環させて全身に行き渡らせるんだ。」


 ゾーラは額から汗を流し、ゆっくりと魔力を動かしてゆく。


「そうそう、いい感じだね。今動かしている塊が通った後も濃度が同じになる様にイメージして、止まっている時も、動いている時も、寝ている時も維持し続けるんだ。」


 徐々にゾーラから感じる魔力量が増え。余り他人の魔力を感じとる事が得意ではない私でも、最初から比べると3倍位に増えてるんじゃないかな?と思っていたら、突然ゾーラの魔力が霧散してその場に座り込んでしまった。


「やっぱり、ユミルは、バケモノだと、思う。こんなの、維持、出来ない…!」


「まぁいきなりは無理だよ、何年もかけて練習するんだ。まずは最初の段階を寝てても維持できるようにするのが良いんじゃないかな?」


 大量の汗をかき、肩で大きく息をするゾーラにコップを出して水を入れて渡す。

 私だって赤ん坊の頃に暇すぎて、遊びとしてやっていなければ出来るようにはなっていないかもしれない。

 あの頃は食べて寝る以外に出来ることが無かったので、ひたすら魔力を動かしていたからね。いきなり完璧に真似するのは無理だろう。

 それでも最初の段階だけで、倍くらいに魔力量が増えていたのでやる価値はあると思う。


 玄関前でゾーラが大の字になって寝ているので、何事か気になった近所の人が数人集まって来てしまった。

 ゾーラはお嬢様のような性格をしているので、こんな子供っぽい仕草をしているのは初めて見たと笑われ、動けないのか顔を赤くして寝たままのゾーラはちょっと可愛かった。

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