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 昼になると敵が撤退を始めた。食事の時間?などと考えるが戦争中にそんな悠長ゆうちょうなものは無いだろう、朝夕だけか各々おのおのが干し肉をかじる程度だと思う。本陣のテントと砦の中は別だとしてもだ。

 日暮れ時なら睡眠のために兵を引くこともあるし、消耗した前線を交代して再び攻めてくることもあるだろうと、しばらくそのまま警戒していたのだけれど、自国の砦前まで後退してしまったらしい。

 少しでも情報を得ようと斥候せっこう達は忙しくなった様だけど、私達は暇だ。

 やる事も無いので倒した敵兵の後始末あとしまつを手伝う事にした、森の中で倒した分もあるので頑張って持って来て一つにまとめる。

 金目かねめの物をうばって、集めて燃やすか埋めるのだが意外と数が多い。

 ちなみにスライムに溶かさせるという方法もあるけど、刑罰けいばつで魔物に喰わせるというものがあるためか、余程よほどの理由がない限り選択はされない。

 死んでいたとしても戦争に参加したら刑罰けいばつを受ける事になるとか嫌だもんね。

 鎧は斬り裂いてしまったけど手甲や脚甲、剣や槍も使える物がかなり手に入った。私は使いたくないけれど革のブーツなんかも売れるらしい。

 私の物だと言われても持ち切れないから、他の人と同じくベガルーニ様にまとめて渡して馬車で管理して貰う。

 一応目録は作っていくらしいけど壊れた武器も交換しないといけないし、あんなにいらないから存分に使って欲しい。

 あまり派手な武器と交換すると貴族だと勘違いされて敵に狙われる様だから、みんないい武器は売る方を選ぶみたいだね。

 そんな新古品の交換し放題の中でも、えて交換しない事を選ぶ人もいる様だ。


「あれ、その槍欠けてるけど交換しないの?」


「ああ、ゴードンの武器は質がいいからな。交換して粗悪品そあくひんに当たるよりはこのままのほうがいいよ、流石に先端が欠けてたら交換するけど。」


「そういや私の斧も金属鎧をぶん殴りまくったから、流石に欠けまくってるけど折れなかったね。持ち手がちょっと曲がってきちゃったけど、反対側使ってたら直るかなぁ。」


「やめとけ曲がったのを無理やり戻すと折れるぞ、そういうのは職人に任せとけ。」


「そうなの?分かった気をつける。」


 結局倒した敵兵の数は200人近い事が分かった、うちの領地で倒した分だけでこれだ。

 半数以上が逃げた事を考えると、100人程度しかいない此方こちらに500人も敵兵が攻めて来ていたらしい。

 他の所へ向っていた分もいたので、もしかしたら千人規模の部隊だったのかも知れない。

 当然、此方こちらの被害も大きくて。死者20名、負傷者60名以上の大損害だいそんがいだ。軽傷者もふくむとはいえ損害8割は部隊全滅と言ってもいい割合だ。

 早めに敵が撤退していなかったら、本当に全滅していたかも知れない。


 遺体の片付けがある程度終わったら、魔力量にまだ余裕があるので治療を手伝いに行くことにした。軽傷者だけでも復帰出来れば部隊が立て直せるかもしれないもんね。

 と、思っていたら重症者から治すように言われた。死なれたら目覚めが悪いから構わないのだけど、手を刺された程度なら十数人治せそうな魔力量を使って1人づつ直していく。

 完治させる訳ではなく、危険な状態から安定するまでとはいえどれだけ頑張っても戦力は回復しない。

 戦争はまだ続いているというのにどうするんだろう?と思っていたら、これだけ損害そんがいを受けたら後方に下がる事になるから問題無いんだそうだ。

 青白いどころか白かった知り合いの顔が少し赤くなり、呼吸も安定してくれた事に胸をで下ろすが、私もそれほど魔力は残っていない。

 身体強化が無ければ動けなくなってしまうし、一人治す毎に座って強化を解いて魔力を回復させる。

 足と斧を抱えて座り、身体強化を解けばずしりと身体が重くなる。まるで疲れが溜まっているかの様な感覚に、私はいつの間にか眠りに落ちていた。

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