32話 奇襲

さて、ここにいつまでもいればいいようにされるだけ。また、いいように扱われゴミ箱にポイ捨てなんてごめんだ。そうなる前に私は拘束具を思いきり引っ張り、無理やり壊した。

そんな事すれば看守はやってくる


「動くな!!動けば殺す」


私は忠告を無視して拘束具のチェーン部分をなげた。看守は呻き声を上げ、そのまま崩れ落ちる。気絶したようだ。邪魔なドアも何度か蹴り込むと、軋んでいた金属のドアが壊れ、私は廊下へと飛び出しただが、その瞬間、膝が悲鳴を上げる。

激痛に耐えられず、鉄格子に捕まった。脱出できるかと思ったが、目の前に立っていた人影に、

薄暗い廊下の向こう、そこにいたのはナツキがいた。今だけは痛みなど気にしていたら捕まるだけなのはわかる。私は無理矢理立った。


「やぁ、お姉さん。戻ってくれるかな? 今なら傷はつけない」

「断ると言ったら?」

「残念だけどその選択肢はないんだよ。」


何が来てもいいように構えたが既に遅く

ナツキは私の背後に立ち、私の膝裏を的確に蹴り

私はひざまずいた


「人間のままじゃいつまでも僕に勝てない。僕に従っていればいいのさ。お姉さんは」


崩れ落ちた私の目の前に、スタンガンが突きつけられる。終わりを悟った。

私はまた実験台になるんだ、そう思った。

次の瞬間、電撃の衝撃に備えて身を固める。

だが、痛みはこない。当たるはずのスタンガンが、宙で止まっていた。白くて細い手が、ナツキの手首を掴んでいる。


「残念だが私の作品に傷をつけることは何人たりともできないんだ。よく覚えておくとよい。ナツキ君」


鋭い蹴りがナツキの顔面へと繰り出されるが空いてる片方の手で止められる。ナツキはそれを片手で受け止めると、幽香の足を軽々とひねり、そのまま壁へと叩きつけた。


「足癖が悪いねー、せんせー。人間の割には強いけど、僕ほどじゃない」


ナツキは挑発するように笑う。

だが、幽香は壁を背にしたまま、まるで痛みなど感じていないかのようにニヤリと笑った。

ポケットから小さな金属の筒を取り出し、ゆっくりと安全ピンを抜く。


「足癖も悪ければ、手癖も悪いのさ」


ナツキの目が一瞬細められる。

次の瞬間、フラッシュバンが炸裂し、強烈な閃光が廊下を満たした。

ナツキが思わず目を覆った隙に、幽香は私の腕を引き、無理やり背中に乗せた。


「逃げるぞ!」

「……いつから私は幽香の騎手になったんだ?」

「菊花賞か有馬にでも出てみるかい?葵君が騎手なら敵なしさ 」

「人間は競馬に登録不可だ」


幽香は苦笑しながらやってきたドアを開け、私達は逃げる。

その直前ナツキの声が聞こえた。


「お姉さんはいずれ僕のところに帰るよ。待ってるからね」


返事はせずそのまま立ち去った。

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