28話 捨てられた町

幽香が余計なことを言ったせいで、ナツキを思い出してしまった。


ナツキはもう死んだ。どんなに願おうと、どれだけ悔やもうと、死者が生き返ることも過去を変えられるわけではない。


私は焚いている火を見つめながら、ゆっくりと息を吐いた。炎がゆらゆらと揺れ、燃え尽きる寸前の薪が小さく崩れる。


――もう終わったことだ。


心の奥底でそう言い聞かせる。それでもナツキの最後が私を散らす


「……チッ」


未練がましい。私はそう思いながら、火を手早く消した。残った炭を靴の先で崩し、完全に鎮火したのを確認すると、頬を叩いた。


パシン、と乾いた音が静かな夜に響く。意識を現実へ引き戻し、雑念を振り払うためにもう一度叩いた。


――リセットだ。


私は立ち上がり、千理と幽香を起こすことにした。


「起きろ。時間だ」


まずは千理の肩を軽く叩く。彼女は小さく唸りながら、目をこすりつつ身を起こした。


「……ん、もう朝?」


「いや、まだ夜明け前だ。でも、そろそろ動く」


「ふぁ……わかった」


眠そうな目をしていたが、千理はすぐに身支度を整え始めた。


次に幽香の番だ。少し強めに肩を揺さぶる。


「起きろ」


「ん……あと五分……」


「起きないなら水をぶっかけるぞ」


「……千理くんとの対応の差が酷くないかい?全く」


文句を言いつつも、幽香は欠伸をしながら身を起こした。


「もう少し優しく起こしてくれてもいいんじゃない?」


「寝ぼけた顔してるやつに構う時間はない」


「はいはい、わかったよ」


幽香は面倒くさそうに髪をかき上げながら立ち上がる。私はすでに装備を確認し、移動の準備を済ませていた。


「さっさと行くぞ。時間を無駄にするな」




千理は私に何か言いたそうなかおをしていたので私から聞いてみた


「どうした?何か私の顔についているのか?」

「うんうん!そんなこと無いよ。おはよ!葵ちゃん」

「そう。それと幽香 今日中には着けるようにしたい。頼めるか?」

「葵君の為なら仰せのままさ」

「葵ちゃん…その私今日もやるよ?」

「千理、こいつについて行ける速さで走ればいい。お前の為になるから」


千理は今日も私をおぶるつもりだったのか聞いてきたが私は今日中につくための提案として突っぱねた。ただ申し訳無さそうに私に謝るのでそのフォローは欠かさずにした。


「気にする事はない。これから励めばいいだけだ。時間が惜しいから行くぞ」


私達は出発をした。


街に向かうに連れ霧の濃さが酷くなる。定期的に千理を確認し着いてこれてるか私は確認をする。驚く事にペースを落とすことなく幽香に着いてきていた。幽香には千理を気にすることなく自由にしていいと言ったが息が上がることなく千理は着いてきていた。


街に入った瞬間、空気の質が変わった。山の冷えた風から、どこか湿り気を帯びた重い空気へと。ダンケルベルグと書かれた看板は、今にも崩れ落ちそうなほど錆びついている。まるで街そのものが朽ちかけているように思えた。


「ようこそ、ね…」

千理が呟いたが、歓迎されている気分には到底なれなかった。


道路は表面が削れ、無造作に埋められたコンクリートはすでにひび割れている。足元が不安定な感覚が伝わり、歩くたびに靴底に細かな砂利が入り込んだ。古びた建物の間には、まともに営業しているとは思えない店が並んでいるが、どこも電気が消え、ガラス窓は煤けて中の様子すら分からない。


「ここ、本当に人が住んでるの?」

千理が鼻を手で覆いながら聞く。確かに、どこからともなく漂う腐乱臭が異様だった。生ゴミが腐った匂いではない。もっと、生々しい何かが混じっている。


「少なくとも管理されている街ではないな。温泉ならまだマシだったがくせぇな。」

いくら私でも鼻を手で覆いながら話した。


通りの奥に、ぼんやりと明かりが見えた。

近づいてみると、それは古びた街灯だった。柱には錆が浮き、ガラスはところどころ曇っている。けれど、なぜか灯りは消えず、頼りなくも優しく道を照らしていた。


「変わらないねぇーこの街は」


幽香はボソリとつぶやいた

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