69.自由気ままな竜が舞う
風邪が治るまで三日、四日目の朝になる今日は爽快だった。体が軽いし、気持ちも前向きだ。やはり病にかかると気持ちが沈むのね。
「そろそろ本国に到着した頃かしらね」
朝食を食べながら、窓の外へ目を向ける。カラフルドラゴンズが数匹、空を旋回していた。リュシーについて飛んできた彼らだが、半数は船と一緒に帰った。残ったのは赤、銀、黒である。ここにリュシーを加え、四匹で追いかけっこのように回る姿を見上げた。
船に同行したドラゴンの目的は本国の心配ではなく……単純に寝床に戻っただけ。慣れた住処が落ち着くと言い残した。リュシーは私のそばが一番と明言し、残った三匹はこの大陸が気になるようだ。
休火山しかない本国と違い、こちらには活火山があるのよ。赤い竜として火山は魅力的らしいわ。銀の竜は好奇心旺盛で、こちらの大陸に広がる緑の大地を堪能したいんですって。いきなり大地を割ったりしなければ問題ないけど。
黒いドラゴンは、泥が珍しくて気に入ったそうよ。本国で雨が降らなくなって、泥は滅多に見なくなった。かつて湖だったところが干上がって、一時期泥沼だったと聞く。そこで泥浴びを覚え、懐かしさと嬉しさに大興奮だった。
こちらの大陸は少なくなっているけれど、毎年雨が降る。雨上がりの季節には、泥の沼があちこちに出現した。それを目当てにしているのだろう。今日も大陸をひとっ飛びし、交流のない他国を脅かして帰ってきた。
「そのうち討伐されちゃうわよ」
おほほと笑う。まあ、このドラゴン達が討伐される危険は少ないわね。単純に大きくて強いのもあるけれど、仲間同士の連携が強い。危険を察知すれば、全員集合となるのだ。リュシーが皆を呼び寄せたように。一瞬で十倍近くなる戦力相手に、どこの人間が勝てるのよ。
単体でも強い上、結束力もある。対してこちらの人間は、見たこともない空飛ぶ過剰戦力と戦う術がない。勝敗は火を見るより明らかだった。
「シャルの身辺警護を強化しないと」
「なぜ?」
「ドラゴンを手懐けた女性がいる……噂を聞いた他国が襲ってくるだろう? そうじゃなくても、こんなに美しく聡明で素晴らしい女性なのに」
「黙って、レオ」
ぴしゃりと言葉を塞ぐ。念の為に唇を手で押さえた。べろりと舐められるのは、計算のうちよ。いつものことだわ。
「どこから噂が出るのよ」
「……そのへんから?」
根拠はないのね。ぷっと吹き出し、ちぎったパンをレオの口に詰めた。それ以上言わなくていいわ。情報を漏らす先に心当たりがあるのかと、真剣に捉えた自分が恥ずかしくなる。
「噂は封じておいて頂戴。他に何かある?」
今日の予定を聞いたら、驚きの答えが返ってきた。
「ジュアン公爵家が没落したので、王女を回収して農地に置いてきた」
「あら……そう」
それって絶対にあなた達の悪さのせいよね。他人事みたいに言われたら、どう答えていいのか迷うわ。利用された王女と思われていた少女を、父と兄が暮らす農地に置いてきたの? 誰か、ちゃんと説明してくれたのかしら。
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