52.喧嘩は後日になさって

「お父様と伯父様が喧嘩するのは自由です。民や国を巻き込まないでください」


 結論はここに帰結する。私も叔母様も、巻き込まれないなら喧嘩してもらっても構わないのだ。自分達の生活の不便さや不自由さを解消してくれるなら、民だって娯楽として王族の喧嘩を眺めていられる。貴族は迷惑そうな顔をするけれど、役目さえ果たせば文句は言えないだろう。


 今後、隣大陸への一方的な指示は出さない。そう約束させて、睨み合う二人に溜め息を吐いた。私の当初の目的は半分終わったようなもの。


 くーん、鼻を鳴らすリュシーは「もう終わり?」と残念そうに尻尾を叩きつける。整えられたレンガの床が、粉々になった。きっちり叱っておく。躾は大事だわ。


「シャル、僕達の分も殴ってくるよ」


「やめてあげて、レオ。もう伯父様の顔はぼこぼこじゃないの。やるなら別の日にしなさい」


 殴るなとは言わない。お父様ほどでなくても、私だって無駄にされた十年に腹を立てていた。拳を握って攻撃する能力がないから我慢しているだけよ。代わりにレオが戦ってくれるなら、それもいいわ。でもね、今の腫れた顔を殴っても、効果が目に見えないのよ。


 やるなら、顔が元に戻ってからにしてほしい。そう告げたら、レオは嬉しそうに頷いた。私の代理を務められる戦力って、極端なのよね。レオもリュシーも、強すぎちゃう。伯父様なんて一瞬でぺちゃんこじゃないかしら。


「わかったよ、君の言葉なら従おう。治ったら決闘を申し込むことにする」


 伯父様は化け物を見るような目を向けるが、レオはまったく気にしない。正直、止める気のない私も肩をすくめてやり過ごした。


「あ、リュシー。ダメよ」


 手紙を運ぶ渡り鳥の魔法道具を、リュシーが爪でつつく。落とそうとしたドラゴンを止め、魔法道具を受け止めた。運ばれてきた通信は、ル・フォール大公家に残るお母様からだった。


「……遺跡から……魔法道具が出ましたわ」


 お父様はある程度予想していたのか、先を促す。伯父様は腫れた顔で叫んだ。


「攻撃、用……魔法道具、だ……いたっ」


 伯父様は攻撃用の魔法道具だと思っているようだ。ということは、ご先祖様の記録には攻撃に特化した魔法道具があるのかも。


「推進力じゃないか?」


 お父様はもっとも可能性が高い魔法道具をあげる。伯父様は攻撃用なら船に搭載する気だった。お父様は船を作って取りにこようとするんだから、推進関係だろうと当たりをつけている。


 私もお父様の意見を支持するけれど……。


「……あら」


 思わぬ報告に目を丸くする。そんな都合のいい魔法道具、あったのね。


「これは、気象……とも違うのか」


 隣から覗いたレオが、うーんと唸る。お母様達もまだ使い方がよくわかっておらず、作動させてみようと実験を行ったそう。その結果、大雨が降ったのだとか。


 こっちへ持ってきたら、大歓迎されそうな魔法道具ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る