46.ドラゴンは海を渡る
民を先頭に立てて歩く貴族がいたら、その地位を剥奪するわ。気合いを入れて進みなさい。号令にわっと皆が沸き立った。
王宮にいる伯父様は、騎士や兵士だけでなく傭兵までかき集め、籠城の準備をしている。貴族から報告を受けて、私達は顔を見合わせた。今から籠城の準備をしても遅いわ。だって上陸しちゃったし……兵力を集めるほど食料が必要なのよ? どこまで理解しているのかしら。
私なら港を閉鎖して上陸を阻むし、もし突破されたら兵力を城の外に配置するわ。威嚇行動で短期決戦が基本だもの。籠城に効果があるのは、自給自足体制が整った砦じゃないと。
お父様や集まった貴族と顔を見合わせ、やれやれと苦笑いする。せっかく籠城してくれたのなら、早く内部崩壊するよう仕掛けるか。いっそ自滅してくれるのを待つのも手だ。ただ、時間がかかりすぎる点は問題だった。
「誰も傷つけずに開門させる方法を考えなきゃ」
真剣に考える私の肩を、ぽんぽんとレオが叩く。邪魔よと手を振り払い、案を口にしようとした時、今度はお父様がぽかんと口を開けて頭上を指さした。
「あれって……」
ふっと日が翳り、大きな影に取り込まれた。雨が降るような天気ではなかったのに。
「たぶん、間違いない」
二人の言葉に釣られて空を見上げ、私は絶句した。隣大陸に置いて来たはずの、リュシーがいる。全身もふもふのドラゴンなんて他にいないから、見間違いようがなかった。巨大な羽で滑空するリュシーが、クーンと鼻を鳴らす。
「あの子、降りてくるわ。場所を開けてちょうだい」
慌てて指示を出す。港は大きな建物がない上、広く平らな場所だ。降りるのに最適と思ったのだろう。急降下するドラゴンに、慌てた民が逃げた。開けた中央に、リュシーは慣れた様子で着地する。後ろ足を畳み、お座りする犬のように尻尾を振った。
「リュシー……お家で待っていてと伝えたでしょう?」
「申し訳ありません、抑えきれず……ついてくるのが手いっぱいで」
後ろからずるずると降りたのは、世話役の騎士コリンヌだった。どうやら突然飛び立った背中にしがみついて、海を渡ったらしい。怖かったと涙ぐみながらも、落とされなかった幸運を噛み締めていた。
「ごめんなさい、コリンヌ。無事でよかったわ」
リュシーはさほど悪いと思っていない様子だ。海辺の領地から王都へ向かったときのように、途中で落とさなかったのはリュシーなりの気遣いだった。故に、叱られる理由がわからない。
キュー! なんで叱るのさ。ちゃんと運んで落とさなかったのに。それに手伝いに来たんだぞ。訴えるもふもふドラゴンに私が根負けするまで、あと一時間。ふらふらのコリンヌが回復するまで待つ。やる気のリュシーが、籠城する王宮突入で奮闘するのは……半日後だった。
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