32.苦痛の玉座 ***SIDEルフォル王
奪った玉座は、今日も居心地が悪かった。会議室で話し合わず、上から見下ろしながら進める。貴族らの腹の内は読めていた。私ではなく弟を王に据え直したいのだ。
出来のいい兄弟を持つと苦労する。それが王侯貴族の長男なら、誰もが頷くだろう。一般的に年の差が開いていれば、弟が優秀でも追いつかれる心配は不要だ。だが、私と弟ダニエルの年齢差は僅か三歳だった。
ルフォル王国は古代帝国の血を引く誇り高い民族だ。誰もがその覚悟と矜持を胸に生きている。父は正妃である母との間に四人の子をもうけた。王女が二人、王子が二人。理想的な一家に見えただろう。
ダニエルが優秀でなければ、私もこんな方法を取らずに済んだ。病気になった父に薄い毒を飲ませて崩御させ、即位を早める必要もない。末妹を無理やり隣大陸の蛮族へ嫁がせたのも、弟ダニエルがセレスティーヌを可愛がっていたからだ。
案の定、ダニエルはセレスティーヌのために隣大陸へ移った。これで貴族も静かになるはず。そう思った矢先、災害が起きた。洪水による被害の復旧、救助の遅れ、捻出する費用の額……様々な事象が悪い方へ働く。まるで弟を遠ざけた罰のように。
貴族をすべて黙らせるには、もう手段を選べなかった。儚くなってもらうしかない。二十年近い月日が過ぎても、貴族はダニエルを諦めていないのだから。裏から手を回し、ヴァレス聖王国と名乗る愚かな蛮族を唆す。
切り抜けたと報告があり、腹立たしさに家具に八つ当たりしたのは、つい先日だった。部屋をめちゃくちゃに荒らし、気持ちを鎮める。この癇癪も、父が私への譲位を躊躇った理由の一つだろう。王太子に指名しないまま、病の床についた。
政の手腕も剣術や馬術も、何一つダニエルに勝てない。人望も弟の方が上だ。難しい状況で無理やり繋いだ玉座は、ただ辛いだけの苦行だった。それでも手放す気になれない。
いつか、復讐しに来るのでは? この玉座を奪われるのか。不安は付き纏い、誰も信じられない。妻でさえ、もしかしたら弟を好きなのでは? 疑い出せばキリがなく、生きることは針の筵だった。
「もうよい」
会議を打ち切り、采配を宰相や大臣に任せる。日課となっている新造船の確認に向かった。この船が出来上がったら、隣大陸へ攻め込もう。なんとしても弟ダニエルを始末し、私への尊敬と支持を取り戻すのだ。
ルフォル王国の重鎮と呼ばれる貴族は、現在分家ばかりが残る。本家はすべてダニエルに着いていった。それも弟が死ねば戻ってくるはずだ。
慣れた道を歩きながら、ルフォル王国を支配する夢をみる。すでに手に入れたはずの国を、真に奪うために。
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