第19話

 空を飛ぶと人間の力なんて無力なんだと感じてしまう。


 土埃と爆音をまき散らして頭から土に刺さった俺はそんなことを考えていた。


「大丈夫ですか?!」


 両膝をコクコクと曲げて頷く仕草を表現するが、吹き飛ばしたラナにはどうも伝わっていない。


 必死に引っ張り抜こうとするも、俺は全然抜けません。童話かな。


 数十分して、街の人達総出で引っ張ってくれたおかげで、俺はなんとか土にならずに済んだ。


「なんで生きてるのかわからねぇ・・・・・・」


 生還してからの一言目はそんなだった。


「すいません。あんなに飛ぶなんて」

「魔法って本当に凄いな。ただ、なんで生きてるのかほんとにわからん」


 土のついた顔を拭いてもらって、お茶を飲み込んだ折りに俺は言う。


 音速で射出されて数秒経っていたのだ。優に1000メートルは超えたはず。


 そこから垂直に落ちても死なない。アイアンマンにでもなった気分だ。


 しかしそれ以上に、ラナの潜在能力の高さが気になった。


「のぞき見したとき」


 と言いかけて俺の口は止まったが、ラナは赤面している。


「いやごめん。忘れて」

「えっと、魔法は昔から街の人に習っていたんです。この街にも強くて誰にでも優しい、昔話に出てくる勇者様のような冒険者がいたので」

「勇者様?」

「知らないのですか?」

「聞いたことないな」

「その昔、魔王から人々を解放したとされる冒険者たちのお話です」


 誇らしそうに話すラナ。止めるのは吝かと思い、俺は耳を傾けるだけにした。


 曰く、転生者が存在しなかった時代の話。どんな魔物にも立ち向かう勇敢さと底知れない博愛の精神を持っていた。


 強く優しい勇者様。絵に描いたようなその男は魔王から人々を解放し、伝説となって死んでいった。


「憧れます。いつか、そんな人と巡り会えたら・・・・・・なーんてね。夢物語ですよねきっと」

「きっと、いい人が見つかる」


 完全超人なんて付き合っていて窮屈になるだけだ。しかし夢を壊すような野暮なことはできなかった。


 俺は冷め始めていたお茶をぐいっと飲み干す。


「さぁ、練習の続きをしよう」

「はいっ!」


 ラナのほうが屈強な魔法使いに成長しそうだ、とも付け加えよう。


 陽が傾くまで撃ち込めば、銃の扱いにも慣れてくる。


 ハルの元へ帰るが、どの部屋にも明かりはついておらず、誰もいないような静寂が支配していた。


 時間が解決してくれる。ラナにはそう言いながらも、何もできないもどかしさは行動を催促してくる。


 きっと両親もこんな気持ちで出てくるのを待ち続けていたはず。親の心子知らず、なんてのをここで感じるなんて思わなんだ。


「シチュー、置いておく」


 コンコンとノックした後に一言添えて、疲れた身体をソファーに預けた。


 その夜から俺は夢枕で虫の羽音のような低い重低音に魘されるようになった。

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