第25話 リリスとの対話

 悠真は、これまでリリスの力を使って問題を解決してきた。リリスから授かった「書き換えの力」は、彼にとって非常に便利なものだった。人々の記憶や感情をほんの少し「書き換える」ことで、状況を自分に有利に導くことができるのだ。三浦亮太を陥れた時も、この力を使ったことで、悠真は勝利を手にした。


 しかし、この力には強い引力がある反面、危険性も感じていた。それを多用すれば、自分自身が本来得るべき経験や感情を失いかねないのではないか――悠真は、そうした漠然とした不安を抱えていた。人々の心を自在に操る力に対して、どこか倫理的な抵抗を感じていたのだ。


 それでも、今の状況では、この力に頼りたいという気持ちが日に日に強くなっていた。綾音と美咲の間で揺れる自分の心を整理し、二人の感情をうまく調整してバランスを保ちたい。彼女たちが傷つかず、そして自分もこの複雑な関係から解放されるためには、リリスの力を使うことが最も手っ取り早い解決策のように思えていた。


 そんな悠真の思いを察したかのように、リリスが彼の心の中に現れた。


「ふふ、悠真。どうしたの? 最近、すごく悩んでいるようね」


 リリスの声は、いつもと同じように甘く妖艶だった。彼女は悠真の内心を見透かしたように微笑み、彼に語りかけてきた。悠真は、リリスが自分の中にいることを忘れることはできない。彼女は常に彼の感情や思考を監視しているかのようで、彼の悩みや迷いを的確に察知していた。


「リリス……君の力を使えば、この状況をどうにかできるのか?」


 悠真は、リリスに問いかけた。彼の声には、少し不安と迷いが含まれていた。彼が今悩んでいるのは、まさにリリスの力に頼るべきかどうかということだった。


「もちろん。私の力を使えば、綾音も美咲も、君の望む通りに行動してくれるわ。彼女たちの感情や記憶を少しだけ書き換えれば、誰も傷つかず、君はハーレムライフを満喫できる。楽勝じゃない?」


 リリスは誘惑するように言葉を続けた。彼女にとって、この力を使うことに何の抵抗もない。それはただ、悠真が願えば叶う道具でしかないのだ。悠真が悩んでいるのは、彼が人間としての感情や倫理観をまだ捨てていないからだと、リリスは薄々気づいていた。


「でも……それじゃ、彼女たちの本当の気持ちを無視することになる。俺は橘や霧崎を操りたいわけじゃない」


 悠真は、リリスの誘惑に抗おうとした。彼の中には、まだ倫理的な葛藤が残っていた。リリスの力を使うことは簡単だが、それによって得られるものが本当に自分の望むものなのか――その答えを見つけることができなかった。


 リリスは、そんな悠真の迷いに対して、微笑みを浮かべながら言葉を続けた。


「ふふ、悠真。確かに彼女たちの本当の気持ちを知りたいのは分かるわ。でも、君はもう少し楽に生きてもいいんじゃない? これまで君がどれだけ苦しんできたか、私が一番知っているわ。だから、少しくらい自分のために力を使っても、誰も咎めない。むしろ、それが君の正当な報酬だと思わない?」


 リリスの言葉は、悠真の心に響いていた。彼女が言う通り、これまで悠真はずっと周りから無視され、苦しい思いをしてきた。そして今、ようやく手に入れたこの「力」を使って、幸せになれるチャンスが目の前にある。それを無駄にする理由がどこにあるのか――リリスの言葉は、そう問いかけているようだった。

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