悪の組織によって怪人に生まれ変わった悪役令嬢の『ヒーローのやっつけ方』

PE天使

第1話 小さな恐怖、誕生

『地球は狙われている』

SF物のアニメや漫画でしか聞くことのない台詞、

それが今、現実となっていた。


時は現代、突如宇宙から侵略者が現れ、

地球の全ての人間に向かって宣戦布告をした。


『ダークセンチネル』、それが侵略者組織の名前だ。

多くの惑星を侵略したダークセンチネルが次なる標的に選んだのが、

水を始めとする様々な資源の宝庫である地球だった。


そのダークセンチネルの侵略にいち早く対応したのが『日本』、

かの国は世界中の技術支援を受け、

人々を守るために強大な悪と戦う偶像の戦士『ヒーロー戦隊』を

現実のものとする為の壮大なプロジェクトを発足した。


結果、日本には様々な『ヒーロー戦隊』が誕生し、

日本の各地方で日々、ダークセンチネルが送り出す『怪人』と激戦を繰り広げている


これはそんな戦いの中で生まれた『小さな歪み』の物語である




「進捗はどうかね、ドクターマキシマム」


黒い外套の身を包んだ大きな男が、

ドクターマキシマムいう名の、ファンタジーのゴブリンを

彷彿させるような見た目の白衣の男に問いかける。


黒い外套の大男は真っ黒な機械の頭部に白く光る眼、

明らかに人間ではないことが分かる。


ダークセンチネルを束ねる首領、『ダーク総帥』

機械の身体を持つ総帥はダークセンチネルの中でも最も戦闘能力が高く、

統率能力、カリスマ性なども兼ね揃えている、

まさに絵に描いたような『強敵』、『侵略者』である。


そんなダーク総帥の忠実な腹心であり、数多くの怪人を創造するのが

ダークセンチネルで一番の科学者『ドクターマキシマム』。

ダーク総帥が指示し、ドクターマキシマムが作る、

ほぼ毎日のように行われている行為であるが、今回は

2人にとって、つまりダークセンチネルでは

『初の試み』となる怪人を作っている最中だった。


「幸い、目立つ外傷はなく飛来物による脳の損傷が原因でマスから、

 再生も済んでマスし、脳に少しばかり怪人因子も投与してマスよ。

 これで自覚症状がないまま、ダークセンチネルの

 立派な『完全人型怪人』の完成って寸法でマス」

「本当に脳の改造だけでいいのだろうか、

 内部組織や骨格も改造し、戦闘もできるようにするべきでは?」

「体の構造の改造はヒーロー戦隊にすぐバレるでマスからねぇ・・・。

 それに、この年頃の女の子の身体をどうこうするのは

 コンプライアンス違反になるでマスよ」

「それ地球のルールでうちらが守る必要ないんだよなぁ~。

 地球に来て1年経ってすっかり馴染んじゃってるねぇ~。」


改造台に横たわる人間、それは長く黒い髪の少女だった。

女子高生らしく、整った顔立ちと上質な生地を使った制服から

少女の育ちの良さが伺える。

そしてそれこそが、ダークセンチネルが死体を回収した理由でもあった。


「この女生徒の制服は、日本でも有数のお嬢様学校の物でマス。

 親は大企業の社長とか議員だったりと、そういうのは必ずと言っていいほど

 ヒーロー戦隊のスポンサーだったり関係者だったりするでマスよ」

「つまりこの娘を使って親からスーパー戦隊の情報を聞き出したり、

 内部工作をするという作戦だが・・・上手く行くのだろうか」

「『敵を知り己を知れば百戦危うからず』って言うでマス。

 この娘が我々の為にどこまで頑張れるか、期待するでマス」

「それ地球の有名な教訓~。ばっちり地球に馴染んじゃってるねぇ~」

「ん・・・あ、れ・・・?」


少女がゆっくりと目を開く

見慣れない天井、聞き覚えの無い2人の声、

当然ながら少女が自分の置かれている状況をすぐ理解できるはずもなく、

何も喋ることなく、じっとダーク総帥達を見つめる。

そしてダーク総帥は軽く咳払いをして、少女に話しかけた。


「ようこそ、ここはダークセンチネルの地球基地。

 お前は一度死に、我々の手によって怪人として蘇ったのだ。

 娘よ、名を名乗れ」

「・・・」

「あぁ待って待って待って、スマホ出して電源入れようとしないで、

 GPSでここの位置バレちゃうから、スーパー戦隊たち来ちゃうから。」


少女がスマホを取り出したところでダーク総帥が慌てて止める、

状況を理解できずともやるべきことは分かっている、

ドクターマキシマムはよくできた娘だと心の中で感心した。


「・・・百合園 麗ゆりぞの  れいと言います。『都立栄華高校』の2年生です。

 最後の記憶がスーパー戦隊の合体ロボットと怪獣の戦いに

 巻き込まれたところになります」

「あぁ、うん。そうそうそう。

 お前はあの『伝説戦隊レジェンドマン』のロボットが壊した建物の

 瓦礫の、小さな奴に頭をぶつかって死んだの、これ本当」

「なるほど、要するに私を生き返らせて怪人にした目的は

 栄華高校の生徒であることから親がスーパー戦隊と繋がりがあると思い、

 親と私を通してスーパー戦隊の情報を得て、可能であれば

 内部工作にも利用するつもり、ということですね」

「急に物分かり良過ぎて逆に恐いでマス」

「・・・まぁ、なにはともあれお前は今日から

 日常に潜む小さな恐怖・・・そう、『小さな恐怖リトルテラー』の名で

 我々の手先として」

「やります」

「協・・・あ、うん?あ、や・・・るかぁ。

 え、ドクター、怪人因子入れ過ぎてない?

 目覚めてすぐ従順になるってことある?」


怪人因子は身体を飛躍的に向上する以外に、

ダークセンチネルに対する忠誠心を高める効果もある。

だが麗に投与した怪人因子は微量で、

怪人より、人としての倫理感は残っているはずだ。

麗のあまりにも理解ある姿勢に、2人は逆に不安を感じていた。

しかしドクターマキシマムの施術に誤りはない、

それはドクター自身も、その技術を高く評価しているダーク総帥も分かっている。


そこから導かれる推測、それは『麗が本心で協力しようとしている』という事だ。


「え~っと、こっちから協力迫っておいてなんだけど、

 何かしら思惑があるなら素直に言って?」

「・・・?あの、私の事を知ってて助けたのでは?」

「ゆりぞの、でマスよね・・・あ、あー!!!!」


ドクターマキシマムが麗を指差して驚愕の表情を浮かべる


「百合園と言えば、『百合園重工』『百合園未来科学研究所』『百合園保険』に

 『百合園総合病院』!!

 その殆どがスーパー戦隊と繋がっている『百合園グループ』でマスよ!

 麗はその大企業の娘、所謂『令嬢』って奴でマス!!!」

「な、何ィ!?」


ダーク総帥も、ロボットだから表情は変わらないが

全身と声を使って驚きを表現する。

百合園重工はスーパー戦隊が使う武器や合体ロボットを造り、

百合園未来科学研究所は変身道具を作っている。

戦いによって怪我をする為の総合病院と保険会社も存在しいている。

ヒーロー戦隊とダークセンチネルの激戦によって生まれた、

ヒーロー戦隊に手厚く寄り添った一族経営の大企業

それが『百合園グループ』である。


「怪人ガチャ当たりランキングトップの環境キャラでマスよ!

 一気に我々の有利展開間違いなしでマス!」

「お、おう・・・だがそれならなおさら、我々に従う理由が分からん・・・」

「やだなぁ、簡単な話じゃないですか。

 ダークセンチネルさんには勝って欲しいんですよ」

「何だと・・・?人間の立場でありながら、スーパー戦隊より

 我々に勝って欲しいだと?リトルテラーよ、血迷っているのか?」

「いえ、勿論戦隊さんにも勝って貰わないと。

 そうして戦いを長引かせて・・・じゃないと『利益』にならないじゃないですか」


『利益』、その言葉を意味を理解できないダーク総帥とドクターマキシマムは

ただ戸惑うばかりであった。


「ダークセンチネルさんが勝てば戦隊の皆さんの治療費で

 病院は儲かります、高い生命保険に入る必要もありますし。

 で、その後に戦隊さんは強力な装備を求めて百合園重工を頼ります、

 次の段階に変身する為のパワーアップアイテムも科学研究所で出します。

 その全てが、我が百合園グループの利益に繋がるのです」


ベッドから降り、そしてゆっくりと麗がダーク総帥に近づき、最後の言葉を放つ。


「戦争は金になるんですよ」


瞬間、ダーク総帥の高度な頭脳コンピューターに形容しがたい感情が生まれる。

戦うことも、傷つくことも、裏切られることも、決して恐れなかった頭脳に

『恐怖』という感情がインプットされる。


ダーク総帥はこれまで様々な惑星を侵略し、多くの生物を屠って来た、

地球人だってそうだ、戦えば殺してしまうこともある、

怪獣と合体ロボットの時なんて何人死ぬか分からない、

それに対し、今まで何の感情も無かった。


だが目の前に居る少女は違った、人を『金銭』というリソースとして見ていない。

悪の組織から自分達を守ってくれる正義の味方から

如何にして1円でも多く搾り取るか、

まだ未成年で在りながら、その事を最優先に考えている。


『吐き気を催す邪悪』、『悪役令嬢』、ダーク総帥の脳裏にそんな言葉が過った

そんなダーク総帥と、ビビり過ぎて真顔で沈黙しているドクターマキシマムに対し、

麗、いやリトルテラー通り越してビッグテラー、デカすぎテラーは

女子高生らしい優しく、可愛らしい笑顔を見せる


「そんな訳で、一緒にスーパー戦隊をやっつけましょう!

 私に手伝えることは言ってくださいね!」

「ッスゥーーーー・・・あ、はい」


ダーク総帥はただ、そう一言だけ応えた

 









 





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悪の組織によって怪人に生まれ変わった悪役令嬢の『ヒーローのやっつけ方』 PE天使 @Pepepe_Angel

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