第17話


雄一さんは何事もなかったかのように普通に帰宅した。

私が家にいなかったことにも触れてこなかった。


誕生日に朝帰りをした謝罪も言い訳もなかった。


私は極力彼と顔を合わせないようにした。

いつも夫の朝食の準備をしていたが、頼まれない限りは今後一切作る気はない。

夕飯もしかりだ。言われなければ用意しない。


夫はATM。それ以外の何でもない。


誕生日から5日が経った頃、雄太へのプレゼントらしい包みがダイニングテーブルに置いてあった。

誕生日当日でも翌日でもなく、まさかの5日後?有り得ない。



これをそのままごみ箱に捨てたい気分だったが、離婚の際、妻がプレゼントを捨てたと言われたら心象が良くない。

こちらに不利となる可能性があるので仕方なく雄太に渡した。


大きな電車のおもちゃセットだった。

たくさんのレールパーツが入っていた。

誰が組み立てるんだろう。

そんな事を思いながら一応スマホに写真を撮っておいた。





「夕飯を食べてないんだけど……」


夫が9時前に帰宅してそんな事を言い出した。


「必要な時はラインで知らせて下さい。雄一さんは外食がほとんどですから、いるかいらないかが分からないので準備していません」


「毎日用意するのが妻の役目だろう」


は?何を言ってるのこの人。


「毎日食べてくれますか?用意したら食べて下さいね。責任もって食べてくれるなら用意します」


「それは……忙しい時もあるから絶対食べるとは言い切れない」


「自分で作れば?」


夫は私がそう言うとは思っていなかったのだろう。

一瞬、驚いたように目を見開いたが、その後無言で自室に入って行った。


これで夫は当分家で食事するとは言わないだろう。

楽になったわと思った。



それからも夫との関係は険悪で、そのまま数カ月が過ぎていった。

こんな状態で、私たちは家族と言えるのだろうか。


雄太にも良い影響を与えていないと思う。

せめて挨拶くらいはしなければならないだろう。


そう思っていた矢先に、たまたま早起きした雄太が雄一さんに。


「パパ、はよ」


と言った。


『パパおはよう』だ。

子どもの方が大人よりも何倍も偉いなと思った。


雄一さんは雄太の頭を撫でて「おはよう雄太」といって出勤して行った。


彼の背中が心なしかしゃきっとして見えた。嬉しそうだった。


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