ep.20 真面目に見えるけど結構なクズだったのか……

前回のあらすじ


Aは、ブラック企業が増加する要因について悩んでいた。競争の激化によるコスト削減や労働市場の不均衡、法的規制の不十分さ、非正規雇用の増加、利益優先の企業文化が絡み合い、労働者に過酷な条件が押し付けられていると考えた。しかし、占い業界は特異で、資格や基準がなく、カリスマ性が重視される。Aは新しい戦略を模索し、高山に相談するが、売上を2倍にするという無理な指示を受けた。営業チームのメンバー、佐竹と新崎は対照的な性格で、Aは困惑しながらもチームをまとめようとする。

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Aは、まずは営業チームの実態を知るために、佐竹と新崎の営業に同行することにした。もっとも、「同行」といっても、オンライン占いの営業であるため、実際に対面で会うわけではなく、オンライン会議アプリを使っての同席だった。




最初に同行したのは佐竹だ。彼の営業は、Aが予想していたよりも遥かに酷いものだった。トークが明らかに不安定で、途中で「あー」とか「うーん」といった不安げな声が頻繁に混じる。営業の台本は覚えていないようで、話が脱線することもしばしばだ。クライアントの質問に対しては、曖昧な返事を繰り返し、相手を不安にさせてしまっている様子が明らかだった。




「えっと…その件については後ほど確認しておきますので…」


「うーん、そうですね…まあ、そういう感じでしょうか…」




オンライン会議の画面越しでも、クライアントの戸惑いが伝わってくる。Aはその様子を見て、心の中でため息をついた。佐竹の営業スタイルでは、どう考えても信頼を得ることは難しい。結果として、佐竹の受注率は見事に20%を切っているというのも頷ける話だ。




次に新崎の営業に同行した。彼女は最初の印象通り、かなりラフな営業スタイルだ。金髪でTシャツ、さらには営業中にも関わらずコーヒーを飲みながら会話を進めている。時折、足を体育座りのように組み替えている様子が画面に映る。さらには営業中にカメラに映らない場面でスマホをいじる。Aは思わずツッコミたくなる場面が何度もあった。




「そうそう、それでさ〜、ウチの占いは当たるって評判だから、一度試してみてよ〜」




新崎の口調はフレンドリーそのものだが、驚くべきことに、クライアントはそれを心地よく受け入れているようだった。彼女の自信と無造作な態度が逆に相手にリラックス感を与え、信頼を築いているようだ。実際、新崎の受注率は驚異的な5割に達している。




Aは心の中で複雑な気持ちを抱きながら、自分の営業成績を振り返る。自分は占い営業未経験ながらも、持ち前のトークスキルを活かし、受注率は4割ほどに達している。しかし、まだまだ改善の余地はあると感じていた。




Aは、まず最も問題がある佐竹にテコ入れすることを決めた。オンライン営業で目の当たりにした彼のやり取りは、信頼感の欠片もなく、受注率が20%を切っているのも当然だと思えた。Aは高山からもらった営業マニュアルを佐竹の前にどさっと置く。




「佐竹さん、これ、どれくらい覚えてますか?」




佐竹は困ったような顔をし、申し訳なさそうに答えた。




「うーん…2割くらいですかね…」




Aは内心、ため息をついた。自分でも6割は覚えている。しかし、表情には出さなかった。




営業の台本を覚えていないのだから、当然トークもスムーズに進むはずがない。彼が「あー」「うーん」と迷う度に、相手は不安を感じるだろうし、信頼が崩れるのは当然だ。




「分かりました。まず、これをしっかり覚えることが大事です。営業トークは、このマニュアルに沿っていけばいいんです。相手に迷いを感じさせないためにも、しっかり準備することが必要なんです」




Aはそう言って、具体的な方法を提案した。




「自分の言葉に少しずつ置き換えて、話しやすいようにするんです。それに、実際に声に出して練習するといいです。頭で覚えるだけじゃなく、実際に話すことで体に馴染ませるんです。そうすれば、自然に出てくるようになりますよ」




佐竹は真剣な顔で頷いていたが、その不安そうな表情は消えていない。彼の性格からして、こうしたアドバイスをすぐに実行するかどうか、Aは疑っていた。




「分かりました。頑張ってみます…」




佐竹はそう答えたものの、どこか頼りなさが残っている。Aは心の中で、彼がどれほど本気でこのアドバイスを実践するのか不安を抱えながら、佐竹に期待を込めて見守るしかなかった。




数日後、Aは再び佐竹の営業に同行することになった。彼がトレーニングをしているかどうか気になっていたが、佐竹の態度は変わっていなかった。画面越しに映る彼の姿は、依然として自信なさげで、トークもぎこちない。




「えっと…そうですね…これは後ほどお知らせしますので…」




佐竹は相変わらず、曖昧な返事を繰り返していた。台本を覚えている気配はなく、営業の進行もスムーズではなかった。クライアントの表情は明らかに困惑している。




Aは心の中で「やっぱり」と思った。佐竹はトレーニングをしていない。それどころか、Aのアドバイスを聞き流していたのだろう。彼の怠慢が、明らかに結果に現れていた。




その後、オフィスで佐竹に声をかけた。




「佐竹さん、トレーニングどうですか?あれから少しは練習できました?」




佐竹は少し気まずそうに視線をそらしながら答えた。




「いや、ちょっと忙しくて…あんまりできてないんですよね…」




Aはその答えに軽くため息をついた。忙しいと言っても、営業の仕事がメインである以上、トレーニングを怠る理由にはならない。Aは少し厳しいトーンで続けた。




「分かります。でも、営業はトレーニングを積み重ねることで成績が変わってきます。自分の時間を割いてでも、ここはしっかりやるべきですよ」




佐竹は恐縮しながらも、どこか他人事のような態度を崩さない。結局、彼が変わらない限り、営業成績は改善しないことが明らかだった。




その後、Aは再度佐竹にトレーニングの重要性を伝えたものの、彼は結局、真剣に取り組む様子はなかった。営業中の態度やトークはほとんど改善せず、クライアントからの信頼感も薄いままだ。Aは次第に佐竹に対する期待を失いかけていた。




「こいつ、真面目に見えるけど結構なクズだったのか……。」




佐竹が営業に対する姿勢を変えなければ、どんなアドバイスやサポートをしても無駄だと感じるようになっていた。それでもAは、少しでも彼の成長を願い、引き続きサポートを続けたが、状況は簡単に好転するものではなかった。

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