前のエピソード――「風の王と双翼の継承者」

　アランが劇場を出ると、すっかり日が暮れていた。空は紺色に染まり、通りには帰路に着く人々の足音が響いていた。劇場や演技場での公演が終わり、観客たちがそれぞれの道を急いでいる。アランもまた、その人々の流れに乗って歩き始めたが、来る時にはなかった屋台がいくつも通りに並んでいるのに気づいた。

　屋台は夕食を求める人々で混み合っており、香ばしい匂いが漂っている。焼きたての肉や、新鮮な野菜を使った料理が提供され、地元の名物を楽しもうとする客たちが集まっていた。通りの賑やかな雰囲気は、まるで昼間の活気がそのまま夜に引き継がれているかのようだ。

　屋台で目に入ったスラーヴィンクを買い、そのまま宿へと帰ることにした。賑やかな通りを抜け、温かい料理を手にしながら、心地よい疲れを感じていた。

　アランが遠くに見える学園の校舎を眺めると、その壮大な建物が夕闇の中に堂々と佇んでいた。石造りの古い校舎と、最新の魔法工学を駆使した新しい建物が調和し、学園全体が長い歴史と進歩の象徴としてそびえている。夕暮れ時にもかかわらず、いくつかの教室には明かりが灯され、学問が絶えず続けられていることがうかがえた。

　遠くからでは学生たちの姿は見えないものの、校舎の窓から洩れる光が温かく輝いている。その光はまるで知識の灯火のようで、学園内でまだ熱心に勉強や研究をしている者たちの存在を感じさせる。特に高くそびえる塔の窓からは、かすかな魔力の光が夜空を照らしており、魔法学や研究の実験が行われていることがわかる。

「こうして夜遅くまで学び続けているんだな…」

　アランはそうつぶやきながら、学園の荘厳な雰囲気に静かに感心した。校舎の広がりと、川沿いに連なる古い建築群は、時代を超えて知識が受け継がれてきた証であり、まるで街全体が学問に包まれているかのように見える。

　遠く離れているため、学園の細かい様子は見えないが、その光景だけで、ニウブルフが学術の中心として繁栄し続けていることが、アランにはひしひしと伝わってきた。

　宿に着くと、今日を振り返りながら、ゆっくりとスラーヴィンクを楽しんだ。

　満足感に包まれながら食事を終えると、心地よい疲れがさらに重なり、自然と眠気が押し寄せてきた。部屋のベッドに横になり、今日の充実した一日を思い浮かべながら、すぐに深い眠りに落ちていった。