第45話 総出
自称解放軍との交渉は決裂した。
内乱は嫌だけど、あのおそろしい親子たちに目をつけられるほうが嫌だった。
あの場を唯一取り持つことのできた私が保身に走ったせいだ。
後悔したけど割り切ろうと昨夜から
「ミュラー、伯爵邸にみんなで避難することになった」
守られる側はまとめたほうが楽という理論で、使用人を含めた私たちがおそろしい屋敷に行くことになった。
難を逃れるどころか3人もくっついてくるけれど。
息を吐く間もなくリエによって支度が整えられた。
私はなにもせず頬杖をついていた。
「ミュラー様」
「見逃して。伯爵邸じゃ気を抜けないから」
苦手な人たちの
内乱が終わるまで、私は気を張ったままでいなければならない。
「……行きたくない」
私がすべての演技をやめて"本当の自分”のままでいても、彼女は何も言わずにそこにいてくれた。
それが何より安心させてくれる。
そして、この日常を壊してくる
「フラリアーノめ……伯爵だろうが許さん」
恨み言が溢れ出た。
「敬称なりなんなりおつけくださいませ」
「だって彼奴のせいだよ。……自分の息子くらい止めてくれよ」
不敬罪かなぁとぼんやり考えてベッドにダイブする。
ドレスとシーツにしわがついた。
リエは言い返してこなかった。
没落しようが生まれは貴族。理解されないんだと悟って、私は悲しくなった。
「そろそろコノンが帰ってきます。ミュラー様もお戻しください」
私は静かに貴族モードにスイッチを切り替えた。
伯爵邸の離れの部屋2つを与えられた私は、すぐにコノンを訓練に追い出した。
我ながら酷いと思う。
でも、勉強の遅れを取り戻したかったし、なによりリンクララ様がいらっしゃると推測したからだ。
わざわざ私のところに
だって、コノンは彼女と合いそうだから。
思った通り、リンクララはいらっしゃった。回数が多すぎて予想外だけど。
アルロッテ様の授業を二人で受けることになったくらいだ。
一時的な描置であることを祈る。
でも、いいこともあった。
ケイリーの通勤時間がなくなったこと、そしてカイレーがいつもより生き生きしていることだ。
どうやら弟は体を動かすことが好きみたいで、コノンと一緒に詰め所に行っては相手をしてもらっている。
いまのはやりは鬼ごっこ……そういうところは現代日本と同じ。
とまあ、私以外の家族は楽しんでいるようなのだが、私はまだ心配だった。
暇を見つけては3階のベランダに上がって、解放軍を見ている。
なにもできないことはわかっている。けれどいつもみたいに割りきれなかった。
彼らは伯爵軍と対峙している。
交渉でねばらなかったのだから勝機はあるはずだ。
では、もし彼らが勝ってあの要求だけで終わらなかったら?
貴族という社会的立場を追われてしまったら?
魔法の練習をする時間なんて取れないし、リエやコノンともたぶんおさらばだ。
……最悪の想定なんていくらでもてきてしまう。
夕焼けは綺麗なのに、絵柄は物騒だ。
ビューと北風が吹いた。この時期らしい寒さだ。
服をにぎる手が冷たくなっている。
戻ろう、そう思い背を翻したとき。
なにかが視界の隅で動いた気がした。
私の気が変わらぬうちに迎えに来たリエに、静止を命じた。
寒いところにいるから怒られるんだ。
「結界、熱粒子を阻害」
隠し持っていた中級用のマジックギブをかかげた。
リエが目を見開いた。
これは風属性の中級魔法。
昨日、ようやくできるようになった。私が1か月以上追い求めていた魔法。
緑の魔素がカーテンになって私たちを取り囲む。
降ろした銀髪が風で舞い踊る。
「綺麗……」
結界のいいところは、条件を自由に設定できるところだ。
五感をすべて騙すこともできるし、身体にピッタリ合わせて寒暖差を防ぐこともできる。
感動に浮かされて、そのまま視力強化と暗視補正を施した。
私は先程の違和感の正体を求めた。
すぐに見つかった。
自称解放軍リーダー・ラシャが旗をはためかせている。伯爵軍の伝令と見られる男たちが走り回っている。
「ねえ、ラシャが旗を持ってるんだけど。宣戦布告じゃないよね?」
「反乱に宣戦布告という概念はございません。攻めに入ることを内外に示すだけです」
「それ宣戦布告じゃん……」
概念はなくても実態は同じじゃないか。
「すぐに攻め入るの?」
「いえ、準備ができたことを知らせるだけですので数日は戦闘は起こりません。普通ならば」
ラシャは生憎普通じゃない。
私を味方に引きこもうとすること自体異常だ。
「お願い、こっちの準備が終わるのを待って……!」
ラシャにお願いして、結界を解除した私はそそくさと退散した。
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