第42話 お転婆
「お嬢様、失礼します!」
商家連合との交渉が
どうやらまた問題が発生したようだとコノンを見てげんなりした。
「今度はどうしましたの?」
すごく嫌そうな表情で、リエを見上げる。
「旦那様よりすぐにいらっしゃるように、とのことです」
普段ならアマリなのに。
ケイリーから呼ばれるなんて、何事か。
「具体的な用件は?」
察しのよすぎる私ではなくとも、虫の知らせは感じるだろう。
「極秘だそうです」
……きな臭いったらありゃしないね。
「わかったわ」
私の指示を受けるまでもなく準備を始めていたリエが、用具をまとめていた。
もう行けるらしい。早すぎないか。
「向かいましょう」
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
頑張ろうと気を引き締めて、執務室へ歩みを進めた。
「失礼します。お父様、お母様、お呼びでしょうか」
ケイリーに呼ばれたと思ったのだけれど、執務室にはアマリもいた。
重大事件みたいだな。
「ああ、側仕えは全員外れてくれ」
「……!?」
目を見張って、去るリエに
「お側におります。ご安心なさいませ」
小さな声で言い残し、侍女長は背を翻した。
目の前にいるのは自らの両親なのに……今すぐどうこうするわけないのに。
現時点では警戒も緊張も必要ない相手なのに。
「リエを信頼しているのか」
「はい」
席を勧められて座ると、ケイリーは本題を切り出した。
「ここまで付き合わせて悪かったと思っている」
彼は、迷うことなくこう言った。
なんの話か戸惑う私に、アマリが微笑んだ。
「領内の飢饉は、未成年である君にとって関係ないことだ。
なのに第一発見者であるというだけで、アーノ様の会議に巻き込んでしまった。
私も止めたのだが……優秀な人材を使わない気かと問い詰められて仕方なく同意した。
本当に申し訳ない」
予想外のときに、予想外の条件で、予想外の謝罪をされた。
言葉を消化できなくて、よくわからなかった。
「……?」
目を白黒させる私に、アマリが口を開いた。
「あなたを飢饉の話に巻き込むのはケイリー様の本意ではないのよ。あなたはまだ私たちに守られるべき立場にあるから、領主が考えるべき事項は酷だろうと思っているわ」
やっと理解できた。
単純に、巻き込んじゃってごめんね、って意味らしい。
「伯爵様のご意向は理解できます。お気になさらないでください」
「そうか、ありがとう、ミュラー」
久しぶりかもしれない。
ケイリーの顔をまともに見るの。
「……とんでもありません」
なんか気恥ずかしくて、すぐに視線に逸らした。
ケイリーはしばらく笑っていた。
「お、お父様、これだけが用件なわけではないでしょう。席を外させたのですから」
相当なはずです。
後半は飲み込んだ。
「さっきの謝罪を受け入れてもらった上でになるが、更に巻き込まれてくれるか」
「はい。ここまで来たら引き返せませんよ」
飢饉関連か……。
どんな爆弾が飛んでくるのやら。
「君の指摘した可能性が現実になってしまった」
暴動が起きようとしている。
「……それは、確実な情報ですか」
「伯爵家として派遣した治安部隊が持ち帰ったものだ。一刻前だ」
2時間前……この世界にしてはタイムリーだ。
恐れていたけれど、そのぶん想定していたから動揺はすぐに収まった。
「規模は」
「詳しくはまだ明らかではないが、千単位だ」
千!?
嘘だろ……多すぎる。
「結成されてどれくらい経過していますか」
「まだそこまでわかっていないが、すぐそこまで来ているわけではないよ」
「心配性ね、ミュラーは」
両親に苦笑いされた。
いや、だって怖いじゃん、私も狙われてる可能性あるじゃないか。
「貴族を殺せ! とか言ってないですよね?」
「言ってないとは聞いているが……」
安心できないよ。
「大丈夫よ、危険になったら伯爵家の騎士様が守ってくださるわ」
ひとりで屋敷にこもるよりは安心できるけれど。
そんなことに人手を使ってほしくないと思ってしまうのは、前世が庶民だからだろうか。
前世の破片がほとんど消えてしまった中で、残っているのはこういう部分だけ。
……少し寂しい。
「そうですね、彼らの強さは十分わかっていますし」
討伐で治癒に専念しているとはいえ、彼らの冒険譚くらい酒盛りのときにいくらでも耳にできる。
自ら聞きに行ったこともあるくらいだ。
多少盛っていることは承知の上だけれど、それでも小説と同じくらい楽しかった。
「ケイリー様もお強いですものね」
「……そうなんですか?」
「なんで、そう、懐疑的なのだ。私とてアーノ様と魔物の追いかけっこをしたことくらいあるさ」
魔物の追いかけっこ。
入学前のケイリーが伯爵様と駆け回る姿が思い浮かぶ。
「だが、今は前線に出れないから残念だ」
不完全燃焼説。
文系だと思ってたのに、ちょっとショック。
「叔父様、失礼しました」
「なにがだ?」
「すみません。漏れてました?」
「ひとりごとが大きいのは直したほうがいい」
「……善処します」
叔父様、ほんとうにごめんなさい。
あなたとお父様を一括りにして、失礼ですよね。
「あら、ケイリー様と暴動の参加者って似ていると思いませんこと?」
「……お母様、お父様は他者を傷つけたりしていませんよ」
どこぞの金髪&緑髪父子とは違うんだよ。
「気質の問題よ。どちらも“お転婆”だなと思って」
危険すぎるお転婆である。
ケイリーはそう考えると穏やかだ。
「私はお転婆なのか?」
「……見えなくもないですよね」
「……ミュラー……」
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