第17話 藤堂の最終戦略

国会での西郷健一郎の演説は大きな反響を呼び、地方自治体の代表者たちは一層団結し、地方分権を強く訴えるようになった。藤堂悠一は、地方の反発が予想以上に広がり、中央集権の推進が危うくなっていることを痛感していた。


藤堂は内閣の会議室で側近たちと向かい合っていた。彼の表情は険しく、これまでの余裕は完全に消え去っていた。中央集権を推進する政策はもはや支持を得るのが難しくなっており、何か大きな一手を打たなければならなかった。


「ここまで来た以上、我々は後退するわけにはいかない」と藤堂は低い声で言った。「地方の反発を抑えるためには、これまで以上に強力な策を講じる必要がある。地方に一時的な妥協を見せるように見せかけ、最終的には我々の方針に引き戻すのだ」


側近の一人が、慎重に口を開いた。「藤堂さん、具体的にはどうやってそれを行うつもりですか? 地方自治体は今、かなりの力を持っています。彼らの結束を崩すのは容易ではありません」


藤堂は目を細め、机の上に置かれた資料を見下ろした。「地方自治体同士の利害の対立を利用するんだ。例えば、経済的に強い地方と弱い地方との間で格差を拡大させ、彼らの連携を崩す。そして、地方交付税の配分を改定し、彼らを中央に依存させる仕組みを作り上げる。表向きは地方支援の形を取るが、実際には中央の統制を強化する」


彼の言葉に、周囲の側近たちは黙り込んだ。この計画は一見合法的に見えるが、その背後には地方自治体を分断し、再び中央政府に従属させる意図が隠されていた。


「そして、最後の手段として、もし地方が我々の計画に反発し続けるようなら、地方自治法そのものを見直す法案を提出する。それが成功すれば、地方は再び中央の支配下に戻るだろう」と藤堂は冷静に続けた。


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一方、出雲の西郷健一郎もまた、中央政府の新たな動きを警戒していた。国会での演説以来、地方の支持は確実に強まっていたが、藤堂が簡単に引き下がるとは思えなかった。何か大きな策を講じてくることは容易に想像できた。


そんな中、彼は小山田恭子や橋本康太郎といった全国の主要な知事たちとの連携をさらに強化し、地方の自立を推進するための新たな施策を打ち出す準備を進めていた。特に、西郷は地方同士の経済協力や、各自治体が互いに補完し合う仕組みを作り出すことに力を入れていた。藤堂の分断作戦に対抗するためには、地方の結束が不可欠だった。


西郷は知事たちとの定期的なオンライン会議で語りかけた。「我々地方は、一つにまとまることで強力な力を持ちます。しかし、中央政府は我々を分断しようとするでしょう。それに対抗するためにも、我々は互いに助け合い、支え合う仕組みを強化する必要があります。たとえ藤堂氏が交付税の改定を試みても、我々の連携が強ければ、彼らの策略に乗ることはないはずです」


会議に参加していた知事たちは賛同の意を示し、それぞれの地方で具体的な連携策を実行に移すことを決めた。橋本知事は関西地方の産業連携を強化し、小山田知事は地方への人的資源の移転を推進することを提案した。各地方が互いに不足しているリソースを補完し合うことで、中央政府に頼らずとも経済を成り立たせるモデルを構築しようとしたのだ。


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その後数週間、藤堂は着実に自らの計画を進めていた。彼の命令により、地方交付税の改定案が国会に提出され、その内容は表向きは地方の経済発展を支援するものであった。しかし、実際には強制的な地方間の競争を促し、経済的に豊かな地域とそうでない地域の格差をさらに拡大させる仕組みが隠されていた。


国会でこの改定案が議論されると、地方の知事たちは表立って反発し始めたが、藤堂の策は巧妙だった。彼の改定案には一見して反対する理由が見当たらないように見える部分が多く、特に経済的に強い地方自治体の一部は、この新しい制度を歓迎する姿勢を示し始めた。


「これは藤堂の策略だ」と、西郷は小山田知事との会話でつぶやいた。「彼は地方同士を競争させ、結束を崩そうとしている。しかし、我々がその罠に嵌れば、地方の未来は中央に取り込まれてしまう」


「西郷さん、どうやってこの動きを止めますか?」小山田は深刻な表情で尋ねた。


「まずは、地方間での協力を一層強化し、この改定案に反対する声を大きくすることだ。そして、地方の経済連携をさらに加速させ、中央からの依存を減らす具体的な施策を提示する必要がある」と西郷は強い決意を込めて答えた。


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国会での議論が続く中、西郷と彼の仲間たちは藤堂の策略に対抗するために動き始めた。彼らは全国の自治体に向けた共同声明を発表し、地方の自立を守るために団結を呼びかけた。その内容は、藤堂の計画がいかに地方の未来を危うくするかを詳細に説明し、地方同士が互いに助け合うことの重要性を強調したものだった。


「藤堂氏の政策は、我々地方の自立を奪い、中央政府の意向に従わせようとするものです。地方がそれぞれの特色を生かし、経済的にも自立することこそが、日本全体の発展につながるのです。私たちは、地方の未来を守るため、全力で戦う覚悟です」


この声明は瞬く間に全国に広まり、多くの地方自治体が賛同の意を表明した。特に、経済的に弱い地方自治体からは、藤堂の交付税改定案に強い不満が寄せられ、地方の結束はさらに強まった。


一方で、藤堂もまた最後の一手を準備していた。彼は自らの計画を実現するため、さらなる強硬手段を取ろうとしていた。彼の頭の中には、最終的に地方自治法を改定し、地方の力を完全に封じ込める構想があった。


次回、藤堂と西郷の対立はさらに激化し、最終的な勝敗が決まる瞬間が訪れる。藤堂の中央集権政策は成功するのか、それとも西郷が地方の未来を守り抜くのか。物語はいよいよクライマックスを迎える。

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