第5話 中央からの圧力

中川教授との会話を終えた西郷健一郎は、さらに緊張を強めていた。藤堂悠一の介入によって、これまで水面下で進めてきた県庁所在地移転計画が、中央政府の目に留まりつつある。それは、単なる地域発展の問題ではなく、全国的な政治問題として扱われる可能性を意味していた。


翌日、西郷はすぐに出雲市長の渡辺隆との再交渉の場を設けた。県庁の移転を進めるためには、市長の協力が不可欠だ。しかし、渡辺市長の反応は前回以上に冷ややかだった。


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「西郷知事、私は現実的に考えています。あなたの提案は、確かに魅力的です。だが、松江の政治家たちや有力者たちが納得するとは思えません。それに、ここ出雲市でも意見が割れている。市民の中には、出雲の歴史と観光資源を守りたいという強い声もあるんです」


渡辺は深く息をつき、続けた。


「藤堂氏が中央から介入してきたとなれば、なおさらです。彼のような強力な人物が関わる以上、出雲市は東京からの圧力に耐えられるのか、非常に疑問です。私としては、県庁移転には慎重でありたい」


西郷は静かに渡辺の言葉を聞き、そして目を閉じて考えた。彼の言うことは理解できるが、この機を逃せば島根の未来は再び停滞するだろう。


「渡辺市長、俺もリスクは承知の上だ。しかし、これは島根全体のための改革なんだ。中央政府が介入することは避けられないが、だからこそ、出雲がリーダーシップを発揮するべきなんだ。君には、その役割を担ってほしい」


西郷の力強い言葉に渡辺は一瞬ためらい、考え込んだ。彼は地元市民の声に耳を傾けてきたが、同時に出雲市をさらに発展させたいという思いも持っていたのだ。


「私はあなたを信じたい。しかし、時間が必要だ。市議会と市民の意見を聞いた上で、最終的な判断を下したい」


「分かった、時間はかける。しかし、この動きが遅れることは島根にとって致命的だ。なるべく早く答えをもらいたい」


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その日の午後、西郷は中川教授と密かに会合を持った。教授のオフィスに入ると、教授はすでに資料を広げて待っていた。


「藤堂が出雲市の問題に介入した以上、君はもっと警戒するべきだ。彼は、東京の有力者たちと密接に繋がっている。島根の首都移転を妨害するための手段を選ばないだろう」


西郷は椅子に腰掛け、資料に目を通しながら答えた。


「俺はその覚悟を持っている。だが、藤堂は一体何を狙っている?なぜここまで俺の計画に反対するんだ?」


中川教授は一瞬目を細め、慎重に言葉を選びながら話し始めた。


「彼の狙いは、中央政府の維持と権力の集中だ。もし島根が首都として台頭すれば、地方分権の動きが加速する。それは東京の支配力を弱めることに繋がる。彼にとってはそれが脅威なんだ」


「つまり、俺の計画が成功すれば、東京の権力基盤が揺らぐってことか」


「そうだ。藤堂はそれを何としてでも防ぎたい。君は地方の改革者だが、彼にとっては体制の破壊者に映っているんだ」


西郷は教授の言葉を聞いて、改めて自分が進めている計画の規模の大きさを実感した。これは単なる島根の問題ではなく、国家全体の構造に影響を及ぼす戦いになりつつあったのだ。


「教授、俺は引き返すつもりはない。藤堂のような妨害を乗り越えて、島根を変える。それが俺の使命だ」


中川教授は静かに頷き、微笑んだ。


「その意志を貫け、健一郎。君にはその力がある」


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その夜、西郷は再び出雲市内を歩きながら、今後の展開を頭の中でシミュレーションしていた。藤堂との対立は避けられない。だが、出雲市長の渡辺が協力してくれれば、計画は前進する。


突然、背後から聞こえてきた足音に気づいた。振り返ると、見知らぬ男が近づいてくる。


「西郷知事ですか?ちょっとお話があります」


その男は不敵な笑みを浮かべながら、西郷に近づいてきた。彼が誰で、何を企んでいるのか、瞬時に察することはできなかったが、西郷は直感的にただならぬ気配を感じ取った。


「何者だ?」


「藤堂からの伝言です。『これ以上、無駄な動きはやめろ』」


西郷は無言で男を睨みつけた。藤堂が刺客を送り込んできたのだと理解した瞬間、緊張が一気に高まった。


「俺に指図するつもりか?」


男は笑い、手を広げた。


「まあ、そういうことだ。だが、警告はこれが最後だ」


西郷は一歩前に出て、毅然とした態度で言い放った。


「藤堂に伝えろ。俺は止まらない。島根の未来のために、最後まで戦う」


男は肩をすくめ、無言でその場を去っていった。西郷は深く息をつき、再び決意を新たにした。これから先、さらに多くの障害が立ちはだかるだろう。しかし、彼は一歩も引かない覚悟を持っていた。


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次回、藤堂悠一との対決がさらに激化し、出雲市議会との対立が浮き彫りになる。出雲市の未来を賭けた闘いが、ついに本格的に動き出す。


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